第82話 シースネーク

『シンヤ殿、凄い車ですね。馬はどこに居るのですか?』

 まあ、そうだろうな、馬が引かない車なんて見た事がないだろうから。

「この車は馬が引きません。車自ら走ります」

 テイが相変わらず通訳をする。

『なんと、自ら走る車とな!』

 俺の説明に廻りに居た村人たちが驚いている。

「それで、これから王都へ行こうと考えていますが、どのように行けば良いのでしょうか?」

 できれば、この国の王に会い友好関係を築き、支店とかを出したい。

『この村の海岸線を真っすぐに行けば良いのだが、道が狭くてその車では通る事は不可能です』

 ノイミが答えてくれたので、それならばと、村の見学を兼ねて道の調査をする事にした。

 ノイミの居る場所も小高い所にあったが、王都へ行く道は更に山を登るそうだ。

 村の建物はその山の上にもあり、同じような白い石で作られているので、写真で見たエーゲ海の島の風景のようになっている。 

「下の平地に家を造らないのは何故ですか?」

『この辺りは定期的に高波が襲います。そうすると、家が流されるので、村人は山の方に家を造ります。

 それに、その高波が来るときは海の魔物も現れます。それに襲われないためにも高い方に家を造った方が良いのです』

 津波が来るという事か。そう言えば、俺の居た時代にも津波があり、多大な被害が出た。

 この時代だって、地震や津波はあるのだろう。

「では、あの山の上にある高い建物は大波の監視とかを行っているのですか?」

『それもありますが、海の魔物を見張るという目的もあります』

「海の魔物が来るのですか?」

『来ます。さすがに海から遠く離れた所までは来れませんので、このような高台に家を造るのです』

「魔物はノイミさんが居るので大丈夫なのでは?」

『ノイミさんは水魔法の使い手ではありますが、海の魔物は水魔法に耐性がある物が多くて、さすがにノイミさんでも対応できるには限界があります』

 そんな話をしながら、村の中の道を行くが、下の方こそ広かった道幅も山の上に登る程、道幅も狭くなった来た。

 見晴らしが良い所まで来ると、馬車が一台ぐらいしか通れない。

『この道を歩いていくと、王都へ向かう道に出ます』

「ここ以外の道は無いのですか?」

『ここ以外の道はありません。王都からの役人もこの道で来ます』

 さすがに、この道を極地探検車が通るのはギリギリだ。

 ただ、極地探検車が通るとなると、他の馬車や人は通る事は出来なくなってしまう。

 見晴らしの良い、その場所から、周りを見渡してると、上にも下にも白い家がある。

 ほんとに、エーゲ海の島にトリップしたような印象を受けるし、歩いている人々は白い衣装を着ているので、それが映画で見た、ローマ人のように見える。

 そこから、南側へ向かうと道も下り坂になってきた。

 家が途切れると、農地があるが、そこにあったのは茶畑だ。

「あれは茶畑じゃないか?」

 俺が指差すと、テイが答える。

『そうです。紅茶の木です。シンヤ殿は紅茶を知っていたのですね』

 紅茶と言うが、緑茶の木も同じだ。製造する途中の過程が違うだけだ。

 しかし、驚いたのはそれだけではない。その先にはみかんの木もあった。

「みかんの木もある」

『みかんはここの特産物です。ちょうど、冬から春にかけてが、みかんの時期ですので、後からお召し上がりいただきましょう』

 テイの説明に、俺の故郷である、静岡が脳裏に浮かぶ。

 茶畑やみかん畑があるので、馬車が通れるぐらいの道幅があった訳だ。


 俺たちが来た道を引き返そうとた時だ。

「カン、カン、カン」

 いきなり、一番高い塔にある鐘が叩かれた。

 俺たちが、その鐘の音がする方を見る。

『何かあったようです。長の家に急ぎましょう』

 テイに急かされ、急いで坂を下り、ノイミの家に入った。

 テイとノイミが何か話をしているが、そのうち、テイが翻訳拡声器でこちらに説明してきた。

『魔物が出たようです。真っすぐ、こちらに向かって来るのを確認したそうです』

 俺たちは海が見渡せる場所に来ると海の先の方に白い波がある。

 どうやら、あそこが魔物のようだ。

 ノイミさんの所に村の人々が武器を持って集まり出した。

『あの波の状態からだと、『シースネーク』と思われますが、シースネークは水魔法に耐性があるので、ノイミさんでも強敵です』

 「シースネーク」ということはウミヘビか?いや、この世界、名前から思うものとは違う魔物も居るので、頭の中でイメージするものとは違うかもしれない。

 そう思って見ていると、魔物が海の中から姿を現わした。恐らく浅瀬になってきたので、海の上に出てきたのだろう。

 その姿はやはりウミヘビではなく、ウツボだったが、顔のところに髭がある。ウツボとナマズが一緒になったような魔物だ。

『我々は退治に行ってきます。出来れば、マリンさんも力を貸して貰えれば有難いです』

 ノイミさんがお願いして来た。

「我々も行きます」

 結局、極地探検車も含めて、全員で海岸に行く。極地探検車にはノイミさんと通訳になったテイが乗り込んだ。

 何度も思うが、テイが通訳をしている必要はない。翻訳拡声器を我々が使えばそれで済むのだが、テイがやる気を出しているので、そこには突っ込まないようにしよう。

 シースネークが近くに来た。どうやら、放牧されている羊や山羊を狙っているようだ。

 海水から出ている部分だけでも5mぐらいある。全長は15から20mぐらいだろう。

 村人は投石機を持ち出して、石を投げているが、シースネークは歯牙にもかけない。

 シースネークが口から水を吐き出した。ウォターカッター程の勢いはないが、人を飛ばすには十分な圧力がある。

 打ち所が悪ければ、死亡する事もあるだろう。

『ウォーターウォール』

 ノイミが水の壁を出して防御するが、その壁でもちょっと勢いが弱くなるだけで、それ程の効果はない。

『ウォターリング』

 今度はノイミが直径1mほどの水の平らな輪を出して、シースネークに投げつけた。

 小型の魔物程度ならこれで真っ二つだろうが、水耐性のあるシースネークには効果がない。

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