第81話 マリンの出生

「▲%#&◇■◎▽=~!〇△#□◆●%&◆▼%◇$#」

 現地の言葉で言って来るが、言葉が分からない。

『お前たちはどこから来たのか、と聞いておられる』

 テイが魔道具の拡声器で通訳してくれる。

「我々は、ここより西の方から氷の砂漠を超えて来ました。私の名前は、シンヤ・キバヤシといいます。そして、ここに居るのは私の妻たちです」

 テイが再び、通訳をする。

『ここへ来た目的は何か、と聞いておられる』

「出来れば友好関係を結びたいと思っています」

『友好を結ぶだめだけに、氷の砂漠を越えて来たというのか。そんな事は信じられない。あそこは死の世界であり、人が足を踏み入れて無事に出てくる事は不可能だ。それが、友好のために来るなんて事を信じろというのが無理だ』

 長の言う事は最もだ。友好のために、あの砂漠を越えるのはリスクが大き過ぎる。

「もちろん、友好を結び、その後は経済的な関係を築きたい。言い遅れたが、私は商人なので、商売を行いたいと思っています」

『フフフ、本音が出たな』

「それ以外は、好奇心です。マリン、フードを取ってくれ」

 マリンがフードを取ると、青い髪が現れた。マリン以外にも全員がフードを取る。

 だが、マリンの髪を見たテイと長は、マリンの姿に驚きを隠せない状態だ。

「&◇■◎▽=~!〇、=~!〇△#□◆●%?」

 テイが慌てて、拡声器で通訳する。

『そなたは何者だ。もしかして、人魚か?と、聞いています』

 長は人魚を知っている。マリンの秘密が、ここにあるのかもしれない。

「水の入った大きな桶を下さい」

 俺がそう言うと、長が指示をして、大きな桶に水が張られた。

 マリンが服を脱ぎ、その桶に入ると、足の部分が魚の形になっていく。

 その姿を長は目を丸くして見ているが、そのうち、長は涙を流し始めた。

『失礼した。昔の事を思い出してしまった』

 長の言葉をテイが通訳する。

「彼女は妻のマリンと言いますが、このマリンの出生の秘密が分かりません。彼女の出生の秘密を知るための旅でもあったのです」

『彼女が何故、あなたたちと一緒に居るのか、話して貰えませんか?と、言っています』

 テイを通訳として、俺たちとマリンの事を話す。

「マリンについて、知っている事があれば教えて下さい」

 テイと長の話が始まった。

 このカッボ村は、エマンチック国の一部だが、王都から離れているため。役人も常駐していない村であり、そのため、国からは税のとき以外に役人も来ないので、ほぼ独立しているような村とのことだ。この村は数十年、この「ノイミ」という女性が長を努めてきた。

 もちろん、ノイミは人魚であり、水魔法を使う事ができる。

 そのため、森から現れる魔物に対処することが出来ることから、この村の長兼護り神として、この村に住んでいるという事だった。

「ノイミさんのような人魚は多いのですか?」

『人魚は私一人です。一人になってから、初めて私以外の人魚に会いました。と、言っています』

 相変わらず、テイが通訳してくる。

「マリン以外の人魚が居る事は分かりましたが、他にも人魚は居るということでしょうか?ところで、ノイミさんには子供はいませんか?」

 テイが翻訳拡声器を使って通訳をしてくれるが、これはテイでなくてもいいんじゃないだろうか?

『いないそうです』

「先程、一人になってからと言っていましたが、一人になる前は仲間が居たのですか?」

『居ました。私たちはもっと南の海に住んでいましたが、ある日、タコの魔物が現れ、私たちが住んでいた村を襲いました。その時にバラバラになり、村は壊滅しました』

「そのタコのような魔物は頭に角があり、雷を使いませんでしたか?」

『そのとおりです。その雷でみんな殺されました。私たちは水魔法の使い手でしたが、水魔法はその魔物には歯が立ちませんでした』

 そのタコの魔物は俺たちが倒した「電気ダコ」と言う魔物だろう。あの魔物が1匹なのか、それとも、もっと沢山いるのかは分からないが、同じ魔物に村を襲われた事に変わりはないようだ。

「どうやら、このマリンはそこの村の生まれかもしれない。その時に子供が生まれたばかりの人は居ましたか?」

『ちょうと、子供が生まれたばかりの女性が一人居ました』

「そ、その人の名前は分かりますか?」

 俺とノイミの話を聞いていたマリンが思わず聞いて来た。それはそうだろう、自分の母親が分かるかもしれないのだ。

『その人は『マーシェリ』といい、父親は『ポセイドン』といいます。父親のポセイドンはその時、村に居なかったので、もし、彼が居たら、あのタコを撃退出来たかもしれません』

 マリンの母親と父親の名前が分かった。それを聞いたマリンの目から涙が落ちるが、それは空気に触れて真珠になっていく。

「カコーン、カコーン、カコーン」

 いくつの真珠が出来ただろう。それ程、沢山の涙がマリンから零れ落ちた。

「もしかしたら、父親はまだ生きているのでしょうか?」

『そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。私はマーシェリさまの世話役でしたが、マーシェリさまは自分を囮にし、まだ小さかった子供を私に託して、逃がしてくれました。ですが、私は、その子を守れなかった。その魔物のタコは私を追いかけて来ました。私は、深海まで潜り、深層海流に子供を乗せました。そして、今度は私が囮になったのです。

 ですが、ラッキーな事にそのタコに村の若者が挑みました。その若者は私に行けと言ってくれたので、私もお子さまを追いかけて深層海流に乗りましたが、お互い行方不明になったのです』

「その村の若者は?」

『恐らく…』

 ノイミの話は終わった。

 マリンの母親はマーシェリ、父親はポセイドンである事にほぼ間違いないだろう。マリンの話とも合致する点が多い。


「ところで、我々は車を持ってきていますが、森に置いてあります。この村に持ってきても良いでしょうか?」

 ノイミにそう言うと、快諾を得たのでクラウディアに連絡し、こちらに来て貰う事にした。

 だが、道幅が広くないので、極地探検車が通れば人さえも擦れ違いは出来ない。

 村に現れた極地探検車を見て村人が目を丸くしている。

 その車の扉が開き、一人の美女が現れた。クラウディアだ。

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