第77話 名もなき湖

 食事の後に、エルバンテとの定期通信を行うとやる事はない。

 食器の片付けも終わると、就寝前に再びテーブルに集まり、お茶にする。

「だけど、メドゥーサって大皇后って呼ばれていたけど、いつから皇后をしていたのかしら?」

 エリスが、鼠族の皇后となっていたメドゥーサについて語ってきた。

「さあ、いつからかは不明だが、恐らく500年前に鼠族がこの地に逃げて来てから裏で鼠族を操っていたんじゃないかな。

 その力で、鼠族はこの地で力をつけて統一を図ったんだと思う。500年前もこの地も昔のエルバンテのようにたくさんの小さな国があったんだと思うぞ。

 それが結局、力のある女王が居る3国だけになったんじゃないかな」

「つまり、ネルエランドのメドゥーサ、スノーノースのオーロラ、そしてダリアンのネルエディットって事ね」

「それ以外の国は、そのどれかの国に統合されてしまったという訳だな」

「北の国は力が全てという理由はそこにあるのかもしれないわね」

 エリスの言葉に全員が頷く。

「さて、夜も更けた。そろそろ寝ようか」

 極地探検車に大きなベッドはない。収納式の小さなベッドがあるだけで、そのベッドもテーブルを片付けて、セットする必要がある。

 このようなところはキャンピングカーだ。

 俺たちは、極地探検車の探査機能をオートにセットし、それぞれのベッドに潜り込んだ。

 狭いベッドで俺たちが寝ていると、夜中に警報が鳴った。

「ファン、ファン、ファン」

 俺たちは、周辺監視装置のある運転台の所に行く。

 そこから、屋外カメラで周囲を見てみると、ポーラーパンサーが外をうろついている。

 痩せているので、お腹を空かせているのだろう。

 ポーラーパンサーが極地探検車に手を掛けると極地探検車が揺れた。

「引っくり返らないよな?」

「それは大丈夫です。横幅が広いので、引っくり返る事はありません」

 ポーラーパンサーはあちこち押していたが、どうにもならないと分かったみたいで、そのうち、どこかへ行ってしまった。

「こんな所にポーラーパンサーが居るのか」

「湖の魚とかを餌にしていたのでしょう。ですが、氷が張って魚が捕れなくなったのではないでしょうか?」

 俺もラピスと同じ事を考えていた。

「そうだとすると可哀そうだな。何か餌でもやるか?」

「人間が餌を持っている事を覚えると人間の集落を襲う可能性があります。野生の動物や魔物に可哀そうだからと、餌を与えてはいけません」

 クラウディアに諭されてしまったが、俺の時代でも野生の猿に観光客が餌を与えて、それか元で観光客を襲うようなったとTVで放送していたっけ。

「そうだな、クラウディアの言う通りだな」

 俺たちは、ポーラーパンサーが去って行ったことを確認して、再びベッドに入って眠りについた。


 翌朝、起きて外部カメラで外を確認してみるが、既にポーラーパンサーはいない。それ以外の生き物も見当たらない。

 安全である事を確認して外に出てみると、寒気が肌を刺すが逆にそれが心地良い。

 極地探検車の周りを歩いてみると、ポーラーパンサーの足跡があった。

「昨夜のポーラーパンサーの足跡がある」

 俺が指差すと、全員がそれを見てみる。

「これをみると、お腹を空かせていたようね。ちょっと可哀そう」

 エリスが言うが、それは他の嫁たちも思っている事だろう。

「だが、クラウディアの言う通りだろう。自然に下手に手を出してはいけない」

 嫁たちが、首を縦に振る。

 俺たちは、湖から水を汲み上げ、それを飲み水タンクに入れて、出発した。


 極地探検車を湖沿いに進めていく。この湖はかなり大きく、行っても行っても湖が終わらない。

「マリン、この湖って海じゃないよな?」

「泳いだ時は真水でした。海じゃないです。それに、鱒なら海にいません」

 確かにマリンの言う通りだろう。だが、湖が大き過ぎる。

「湖が大きいな」

 俺が気になっていた事を言うと、エリスがそれに答えた。

「私たちの時代だって、日本と同じぐらいの湖があったから、この時代だってあっても不思議じゃないわ」

 それはそうだろうが、あまりの大きさにイラついている自分が居るのを自覚する。

「日本て何ですか?」

 俺たちの話を聞いていた、クラウディアが聞いてきた。

「私たちは今から1億8千万年後の未来から来たの。そのときに居たのが、日本という国なの」

 エリスが、俺が未来から来た転生者であることをクラウディアに説明する。

「だから、エルバンテ帝国は未来の道具を簡単に発明する事が出来たのですね」

「そういう事だな」

 俺はエルバンテ帝国の皇帝であり、国民からの税の一部を貰えるが、それ以外にもキバヤシグループを率いる会長でもあるので、その利益も報酬として貰うことができる。

 そして、俺が発明した特許料も俺のところに入るので、毎年の報酬はかなりの額になっている。

 凄まじい報酬を得るようになったが、一国の皇帝としてはかなり質素な生活をしているので、使う額も限られている。

 なので、俺はそれを自分の研究所と学院に投資し、更に特許を取るようにしている。

 それと、学院を卒業した学生は優秀な学生が多いため、帝国と企業を運営するのに十分な能力がある。

 エルバンテ帝国となってからは、国の隅々まで公立の学校があり、そこで子供が教育を受ける事が出来る。

 特に優秀な学生は、高等部に進学する際にキバヤシ学院に進む選択もできる。

 キバヤシ学院は、授業料はもちろん無料だが、反対に給与も出るし、卒業後の大学部への進学や官僚試験にも有利なので、優秀な学生は競い合ってキバヤシ学院を目指している。

 もちろん、クラウディアもその中の一人だ。キューリットからはかなり優秀な成績だったと聞いたが、ちょっと天然のところがあるのも、彼女の魅力なのだろう。


 再び、湖の畔で休憩することになった。衛星画像を確認すると、大きかった湖ともこれでお別れになるようなので、マリンに確認してみる。

「マリン、また泳ぐか?」

「これで、湖ともお別れですから、泳いでみます。何か発見があるかもしれませんし」

 マリンが魔法で氷に穴を開け、その穴から湖の中に飛び込んだ。

 今度は1時間くらい潜っているかとも思ったが、10分もしないでもマリンが開けた穴から出て来た。

「どうした?やけに早かったな」

「シンヤ兄さま、直ぐにここを出発しましょう。ここにはドラゴンが居ます」

「な、何だって!」

 俺たちは極地探検車に走った。出発しようとすると、マリンが開けた穴を割るようにして、ドラゴンが現れた。

 極地探検車のフロントガラスいっぱいにドラゴンの姿が映る。

「緊急退避!」

「合点承知」

 クラウディアが言うが、それはエリスだろう、お前は、いつからエリスになった。

 極地探検車が急いで、湖を離れるが、極地探検車に向かって、ドラゴンがファイヤーボールを噴いてくる。

「防御シャッターを降ろせ。エリス、ミュ、ネル、結界は大丈夫か?」

「大丈夫だけど、直接、身体を使って攻撃されたら危ないかも」

 ドラゴンが湖から出た。

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