第76話 天然女子

 砂漠の中を進む事が3日ほど続いた。

 送られて来る衛星画像には白い大地しか写っていない。極地探検車自体が白色塗装を施してあるので、地上から400kmも離れると俺たちも映像には写らないようだ。

 そして、今俺たちの目の前には湖がある。湖は凍っており近くに行かないと、そこが湖だと分からない。

「ここの氷の厚さは、乗っても大丈夫だろうか?」

 車の外に出て、氷の所まで行ってみるが、水が透き通っているためか、氷も透き通って見え、底まで凍っている。

「岸のところだと、50cmぐらいは氷の厚さがありそうだ」

「それでは、先まで行ってみましょうか?」

 クラウディアが言うが、極地探検車だと重いので、氷が割れると車が湖に落ちてしまう。

 極地探検車は水の中も走行できるが、水深が深いと水圧で圧壊するので、そんなに深いところまで潜れる訳ではない。

「極地探検車で行けば、もし氷が割れるような事があれば困るぞ」

「いえ、小型移動車がありますから、問題ありません」

 クラウディアはそう言うと、2輛目の後方部にある扉を開け、軽トラックにカーゴを付けたような車輛を出してきた。タイヤ部分はキャタピラになっている。

「駆動は全てモーター駆動ですが、所詮電池なので、そんなに長い間距離は走れません。せいぜい、50kmぐらいです」

 その車に、俺、クラウディア、エリス、マリンが乗り込み湖の上に乗り出した。

 超音波厚み計で氷の厚さを測りながら進むが、どこまで行っても氷の厚さは50cm以上はある。

 小型移動車で氷の厚さを測りながら進んで行くが、徐々に氷の厚さも薄くなり、とうとう10cmぐらいになってきた。

「これ以上、先に進むのは止めましょう。氷が割れる可能性があります」

 クラウディアが言う。

「魚とかいるかな?」

 ふと、俺が呟いた。

「見て来ましょうか?」

 俺の呟きに反応したのはマリンだった。

「見て来るってどうするんだ」

「今から氷を溶かします。そこから中に入ります」

 マリンが魔法で氷を溶かし出すと、そこに50cmぐらいの穴が開いた。

 マリンは服を脱ぐと、その穴目掛けて飛び込んだ。

「あっ、マリンさん、こんな寒い湖に飛び込むなんて、ああ、どうしましょう」

 だが、マリンはなかなか上がって来ない。

「陛下、陛下、マリンさんが上がって来ません。もしかしたら溺れたのではないでしょうか。水が冷たかったから、心臓マヒを起こしているかもしれません」

 いつもは沈着冷静なクラウディアが慌てている。

「マリンは大丈夫だから、このまま待っていよう」

「そう言っても水に飛び込んでから、既に5分以上は経過しています。もう限界のはずです」

 そんなやり取りをしてところにマリンが水から顔を出した。

「兄さま、魚を捕って来ました」

 そう言って、魚を氷の上に放り投げた。ちゃんと人数分の8匹ある。

「どうだ、水の中は?」

「うん、普通の湖、魚も多いし、いい湖です」

「そうか、お疲れさん」

 俺が手を出し、マリンを引き上げた。マリンの脚の方はまだ魚の姿をしていた。

 それを見たクラウディアは、驚いている。

「マ、マリンさん、あなたは人魚だったの?陛下、大変です。マリンさんは人魚だったんです」

「もちろん、知ってるさ」

 もしかしたら、クラウディアは天然なのかもしれない。

「えっ、知っていたんですか?」

「当たり前だろう、夫なんだから」

「そうだったんですね。えっ、夫?マリンさんの夫って陛下だったんですか?」

「そうだよ、今更、何を言ってるんだ」

「し、知らなかった……」

「誰か教えてくれなかったのか?」

「いえ、誰も」

 そう言えば、俺たちだってクラウディアの事を知らない。

「クラウディアは結婚は?」

「していません」

「理想の人とかはいるのか?」

「えっと、えっと、親衛隊のホーゲンさん」

 こいつもホーゲンのファンか。あの野郎め。

「あんな、ホーゲンのどこがいいの?」

 そう、いい放ったのはマリンだった。

「ホーゲンさん格好いいじゃないですか?ウォルフさんもポールさんもいいけど、やっぱり、ホーゲンさんかな」

「えー、ウォルフとポールも?どうして世の中の女子って、あんなのがいいのかしら?」

「ちょっと、マリンさん、あなた三獣士の何ですか?あの方たちに対して失礼ですよ」

 クラウディアが、ちょっと怒った。

「あの方たちって、兄弟だけど…」

「えっ、兄弟。えっ、えー、ホーゲンさんたちと兄弟なんですか?えっ、でも、あの方たちって獣族ですよね。マリンさかは人魚じゃないですか?どうして兄弟なんですか?」

 俺はマリンたちが捨て子で、一緒に育ったのが、ホーゲンたちだった事を説明した。

「すると、陛下はホーゲンさんたちの育ての親なんですか?」

「ああ、そうだよ。まあ、親と言うより、俺も兄弟みたいなもんだが…」

「それで、マリンさんを妻にという訳ですね。なんだか、小説のような話ですね」

「まあ、そういう事だ」

 マリンが捕った魚を土産に俺たちは、極地探検車に戻った。

 極地探検車のキッチンを使って、マリンが捕って来た魚の料理をする。

 魚の種類は、鱒だったので、鱒の塩焼きにすることになった。

 それにご飯だ。極地探検車のキッチンと一緒になった所で、全員で食事にするが、何せ狭いので、隣の人と当たってしまう。

 俺の横にはエリスが座り、エリスがここぞとばかりに爆乳を押し付けてくる。

「エリス、ちょっと、窮屈じゃないか?」

「私、そんなに太っていないわよ」

「いや、身体じゃなくて、乳がだな…」

「エリスさま、ダメです。男は狼なのです。そんな淫らな事をしてはいけません」

「えー、何を言ってるの。私の夫だもの、いいじゃない」

「えっ、夫?陛下の王妃さまだったのですか?」

「今更、何を言ってるの。ここに居るのは全員がシンヤさまの王妃なのよ」

「え、ええ~。そんな事、キューリットさんは一言も言ってなかったし…」

 クラウディアが驚いているが、ここで話題を変えよう。

「ふむ、ところで、タケルは知ってるか?」

「ええ、もちろんです。あの子は、まだ幼いのに天才です」

「タケルは俺の子だ」

「え、ええ~~。……」

 クラウディアの目が丸くなった。

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