第75話 極地探検車の能力

「へっ、却下?」

「却下です。また、嫁が一人増える事になりそうじゃないですか?」

 たしかに、クラウディアと呼ばれた女性は技術者とは思えないほど美しく、モデルとしても十分やっていけるだろう。

 それに、かけた眼鏡が知的な印象も受ける。

「6日に1回が、7日に1回に減るのは嫌です」

 ミュは、そっちが嫌なのだろうな。

「私も、7日に1回に減るのは嫌です」

 ネルもそうなのか。

「そうです、7日に1回に減るのは嫌です」

 マリンが言う。マリン、お前も、とうとうおばちゃんの領域に入ってきたな。

「それを言うなら、私も減るのは嫌ね」

 エリスまでもが、そう言う。

「クラウディアは医師の資格もありますし、この車の操縦も出来ます。武器の使い方にも精通していますので、これ以上の人選はありません」

「あっ、そう言えば、医学実習の時に居たわね」

 エリスは大学院の医師の講師も務めているので、クラウディアの事を思い出したようだ。

「エリスさま、あの時はお世話になりました」

「そうそう、たしか医学部では、優秀な成績だったはず。あなたが一緒に来てくれるなら心配はないわ」

 エリスが賛成に廻った。

「医師なら献血は可能ですか?」

「はい、可能です」

「献血ができるなら賛成です」

 ネルも賛成に廻った。

「ミュ、これ以上、妻が増えるとシンヤさまの体力も無理があるから、7日に1回に減る事はないわ」

 エリスが言うと、ミュとマリンは賛成に廻った。

 残るはラピスとエミリーだけだが、エミリーはエリスたちが、そう言うならと賛成に廻った。

 残ったのは、ラピスだけだ。

 全員の視線がラピスに注がれる。

「し、承認」

 ラピスがこの場の雰囲気に耐えられず、賛成に廻った。

「では、奥様方全員の了承を頂いたということで、クラウディアを操縦者兼、分析者として参加させます。後で武器の利用について説明いたします」

 俺たちは、キューリットとクラウディアから更に極地探検車についての説明を受けた。

「ところで、陛下、この極地探検車に名前をつけた方が良いのではないでしょうか?」

 また、俺に名付けのプレッシャーが来た。

「えーと、『サージュ』とかはどうだろう」

「それは、サージュさんが何と言うか」

 クラウディアは反対のようだ。嫁たちも首を横に振っている。

「これは寒い地方専用の車なのか?」

「いえ、水の中も走行可能ですし、砂漠の中も可能です」

「ふむ、オールランドokという訳か。なら、オールマイティから、『マイティ』でどうだ」

「ちょっと、ダサイわね」

「そうですね、ダサイです」

「なら、極地探検車でいいじゃないか」

 名前を付けろといったのに、この対応だ。

「どうでもいいかも」

 嫁たちに好評ではなかったので、結局、そのまま、極地探検車になった。


 極地探検車に必要な物資を積み込んで、一路東の森を目指す。

 今は、初秋になったばかりだが、所々紅葉が始まっており、季節が冬に向かっている事が感じられる。

 だが、森に入ると直ぐに路が無くなった。そして、木があるため、大きな極地探検車では通る事が出来ない。

 俺たちは早速、行き詰った。

「それでは、私が木を伐ります」

 マリンが木を倒すために外に出ようとしたが、クラウディアがそれを止めた。

「木ならこの車両で切れますから大丈夫です」

 クラウディアがスイッチを押すと、前方の方にウォターカッターが出て、木を切り倒していく。

 極地探検車のタイヤは大きいので、多少の切り株が残っていても、それを乗り越えて行けるが、乗り心地は良くない。

 左右に大きく揺れながらも森の中を走り抜けていく。

 たまにキラーラットなどの小型の魔物も出るが、木と一緒に魔物も切り倒して行く。倒した魔物の魔石はミュがちゃんと回収して来た。

 森の中程に来ると、川が流れていた。川幅約50mといったところだろう。流れはそれほど速くはない。

「それでは、今から水中走行に入ります。外気投入口を全閉します」

 クラウディアが操作して、極地探検車が水中に入ると、川の水が窓の上まで来るが、まるで地上のように水の中を進み、対岸に着いた。今度は岸から陸に上がり、再び森の中に入る。

 森の中では木を切り倒し、同じように進んで行き、森の外れに来ると、そこは既に秋の欠片もない。針葉樹以外は既に葉が落ちている。

 木の高さも徐々に低くなり、今は木なのか草なのか分からない程の高さだ。

 だが、それもそう長く続かない。少し走ると草もなくなり、砂になっている。

「どうやらここが、氷の砂漠と言われている所みたいだ」

 俺たちは氷の砂漠に足を踏み入れた。

 後方カメラに映し出された画像にはしばらくは、森の木が映っていたが、その木もある程度走れば見えなくなり、見渡す限りの砂漠になってきた。

 砂漠には、俺たちの他に動くものは何もいない。太陽の光は降り注いでいるが、その光も何だか凍っているようにしか見えない。

 だが、その光が砂漠の氷の粒に反射して砂漠が白く輝いている。それは神秘的な景色であり、空の青も反射しているので、ウユニ塩湖みたいになっている。

 その中を極地探検車が行くが、窓に映る景色は空の青さと氷に映る青さが重なって、この世の物とは思えない。

 GPSは装着しているし、衛星からの電波もあるので、迷うことなく東に向かっていることは分かっているが、これだけ広いと本当に東に進んでいるのか不安になってくる。

 夜になると車を止めて休む訳だが、車の外に出てみると地上を流れてくる氷点下の風が強く、身体を持っていかれそうなる。反対に、空には満点の星が煌めいている。

 俺に続いて、嫁たちも出て来たが、やはり空を見上げて微動だにしない。

 だが、まだ秋なのに気温は零度を下回っているので、身体が冷えてきた俺たちは車の中に入った。

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