第73話 撃退と新しい旅立ち

 ヤマトから発射された白い光は、ファネスルを貫通し、後方に抜けて出た。

 白い粒子が貫通したファネスルはまるでスローモーションを見るように、横に倒れていく。

 それと同時に櫓も崩れ、隣に作ってあったもう一つの櫓も倒れてしまった。

 こうなると、鏡を使って動作を一時的に停止させる作戦は期待出来なくなった。

 しかし、そんな事を言ってはいられない。取り敢えず倒せた事を良しとするべきなのだろう。


「「「「「おおっーー」」」」」

 ヤマトの中は歓喜に沸いた。だが、その後ろにはもう1頭のファネスルが居る。

 歓喜の声が一瞬の間に静まる。

「もう、鏡の櫓はないぞ」

「バンカーミサイルと加速器重粒子砲を打ち込めばいいじゃないか?」

「バンカーミサイルは正面に当たらないと威力は出ない。加速器重粒子砲だけで、倒せなかったら、我々はどうなるか分からんぞ」

「くそっ、どううすればいいんだ」

 隊員からそんな声が上がっている。

「タケル!」

「ファネスルの脚を止めなければなりません。父上、フェニにお願いできないでしょうか?」

「分かった、俺が誘導しよう」

 俺は自分の部屋に置いていたフェニを連れて来ると、ヤマトの甲板に出て、フェニを大空に放った。

「フェニ、頼むぞ!」

 フェニはヤマトの上を一周すると、ファネスルの方に飛んで行った。

 フェニはファネスルの10本の首を飛び回っている。

 その間、ファネスルはフェニを追いかけ、ファイヤーボールを放つが、フェニは火の鳥なので、ファイヤーボールは、フェニにとってはエネルギー源にしかならない。

「いいか、バンカーミサイルをランチャー台にセット、加速器重粒子砲は魔石粒子の加速を開始せよ」

「アロンカッチリアさん、マリン砲身の方はどうか?」

「もう、一瞬のうちに氷が蒸発してしまいました。もう一度、凍らせます」

 マリンが魔法を唱えると、砲身が再び氷漬けになった。

「砲身okです。いつでも撃てます」

 マリンの方も準備が完了したようだ」

 レイド将軍の指示で、隊員が忙しく動いている。

「バンカーミサイルセット完了」

「加速器重粒子砲、魔石粒子、いつでも加速可能です」

「フェニが気を引いている今がチャンスだ。攻撃開始」

「バンカーミサイル発射」

「加速器重粒子砲、加速開始」

「ミサイル到着、5秒前、3、2、1…」

「加速器重粒子砲発射」


「ドーン」

 バンカーミサイルがファネスルに当たった音が、集音機を通して聞こえてきた。

 それを追うように、今度は白い粒子が、その部分に突き刺さると、ファネスルを突き抜けて後ろの方に出て行った。

「やったぞー」

「おおー、やったー」

「CIC大変です」

 砲身担当の隊員から緊急の連絡がヤマトCICに届いた。

「どうした、何があった?」

「砲身が溶けて、曲がっています。もう使い物になりません」

「それは、本当か?もし、画像があれば送ってくれ」

「了解、TV会議のセッティングとランチャー台の画像を撮影して送ります」

 しばらくするとTV会議の準備が整ったとの連絡が入った。


 TV会議室に集まった関係者で、送られたきた画像を見るが、砲身がぐにゃりと曲がって、下側を向いている。

 アロンカッチリアさんが作った砲身を覆っていた土もなくなっており、砲身の下に崩れ落ちていた。

「もし、もう一頭いたら危なかったな」

「確かに。前の攻撃の時に壊れなかっただけでも良かった」

 出席した関係者からそんな声が聞こえるが、それは俺も同意見だ。

 会議の途中にキューリットとタケルが来た。

「陛下、加速器重粒子砲ですが、砲身だけではありません。装置そのものも内部が溶けています。

 もう加速器重粒子砲は使い物になりません。もし、使ったら、ヤマトが爆発してしまいます」

「いや、もういい。ネルエランドも無くなったし、ファネスルも全ていなくなった。武力を使う事はもうあるまい」

 俺の言葉に、ここに居る全員が首を縦に振った。

「父上、本当にそうでしょうか?確かに、3国は無くなりましたが、それ以外の国はどうでしょうか?

 ここより、まだ北と東の方には何があるか分かっていないのです。本当に全て終わったのでしょうか?」

 タケルの言葉に、この場に居る者が「ギョッ」とした顔をする。

 たしかに、ここより北と東の方はどうなっているか分かっていない。国があるのかどうかさえ分かっていないのが現実だ。

「ネル。ここより北と東に国はあるのか?」

「北の方はここより寒くて、ほとんど穀物も育たないわ、東の国に行くには、氷の砂漠と言われる所を通らなければならない」

「北の方は食べ物がないから人はいないという事か?」

「そうとしか考えられない。ただ、いないとも言えない。私たちはここより北や東の地に住んでいる人と交流を持った事がないの」

「東の氷の砂漠というのは?」

「東の方は山から、流れてくる川あって、その水の周辺には針葉樹の森があるけど、そこを抜けると砂漠よ。

 私も行ってみた事があるけど、ほんとに何もない。見える限り砂漠だわ」

「何故、氷の砂漠と言われるんだ?」

「砂が凍ってるのよ。その砂は溶ける事はないの」

「そこはどれくらいの広さがあるんだ?」

「さあ、分からないわ」

 ネルにも分からないので、衛星画像で見てみるが、画像では白い大地が写っているだけで、そこから先はどうなっているか不明だ。

 だが、目では砂漠に見えるという事なので、そのまま凍土になっているのかもしれない。

 だが、氷だとすると太陽によって水が出来る可能性もあり、そうなると植物がある事が考えられる。

 人はいないかもしれないが、好奇心は注がれる。

「よし、東の砂漠に行ってみよう」

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