第74話 極地探検車
「えっー、シンヤさま、ちょっと待ってよ。これから冬なのに、東の砂漠に行くと言うの?」
エリスが文句を言って来た。
「確かに季節的には厳しいかもしれない。だが、俺は行ってみたい」
「私もエリスさまに賛成です。ここは来年の春になってからでも良いと思います」
ラピスは反対のようだ。
「私も反対です。水のないところは困ります」
マリンも反対のようだ。マリンは1日1回水に入らないと身体が縮んで魔法が使えなくなってしまう。エリスの転移魔法があれば、どうにかなるが、エリスが来ないと、カイモノブクロに保存してある水しか頼れなくなり、いざという時は足手纏いにしかならない。
「私はご主人さまの行く所なら、どこへでも行きます」
ミュは俺の意見に賛成してくれた。
「私だって行きます」
ネルも来てくれるようだ。
「私も旦那さまと一緒に行きます」
以外やエミリーは、俺と一緒に来る事を選んだ。
「エミリー、どうして一緒に行くなどと、もしかしたら、危ない旅になるかもしれないのよ」
ラピスがエミリーに聞く。
「だからこそです。夫が危なければ、それを助けるのが妻として当然の事。私は旦那さまと一緒に居たいと思っただけです」
「私だって、水があって、足手纏いにならないのなら一緒に行きたい。けど、水が無ければ私は、ただのお荷物だもん」
マリンが涙声で言う。
今まで黙って聞いていたエリスが言う。
「私も行くわ。そうすれば、転移魔法でマリンの水問題も解決するし、いざという時に逃げる事も可能でしょう」
エリスが、とうとう賛成派に廻った。
「もう仕方ないわ。私も行きますとも。私だけ、のけ者は嫌ですからね」
結局、嫁全員が来てくれる事になった。
「ですが、陛下、氷の砂漠は寒くて、これから冬になる事を考えると、キチンでは対応できません。キチンどころか、ビビもダメでしょう。馬もあまりの寒さに対応できません」
アリストテレスさんが言うが、その通りだろう。キチンは連れて行けない。もちろんビビもだ。
フェニは火の鳥なので、どうにかなるだろうし、いざという時は、カイモノブクロに避難して貰えばいい。
「そうなると、何か乗り物が必要だが、どうしたら良いものだろうか?」
「そうね、やっぱり止めましょう」
エリスの心は、直ぐに折れる。
「陛下、あと1週間程、お時間を下さい。現在、極地探検車を開発中ですが、その動力にオーロラから採取した白い魔石を利用しようと思っています。
白い魔石は小さいながら、とてつもない力が込められているのが分かったので、小型化して車用の動力源として利用可能です」
キューリットの説明をびっくりして聞いていた。そんな物も開発していたのか。
「よく、開発しようと思ったな」
「サージュ社長が、こんなのもあった方がいいだろうって。陛下がまたどこに行くとか言い出し兼ねないからねと、おっしゃっていました」
サージュさんは、うさぎ族の女性技術者でキバヤシ車輛の社長も努めている。
趣味は新しい旦那を持つこと。既に今の夫は、5人目ということだ。
「ただ、エンジンが小型化できないのと、燃料が必要な事が問題でしたが、白い魔石を手に入れた事で、その心配はなくなりました」
キューリットが、経緯を説明してくれた。
そして、1週間後、4軸垂直離発着機で届いた極地探検用車両は2台あった。
「2台使うのか、そうすると運転手が2名必要だな」
「いいえ、あの2台は連結して使えますが、2台個別でも使えます。個別になった時は2台目はバッテリー駆動になりますから、長い時間の走行はできません。
あと、2号車の下部のところに小型移動車の格納庫があります。小型移動車もバッテリー駆動です」
キューリットが説明してくれる。
4軸垂直離発着機から降ろされた極地探検車2台が連結された。
「まず、駆動は電気を使ったモーターインホイール型の全輪駆動方式です。主要操作は1号車となり、1号車と2号車の切り離しは全自動で可能です。もちろん、連結も全自動で可能です」
外回りを説明して貰い、中に入る。
「1号車、2号車とも基本的に2階建てですので、天井が少々低くなっています。ですから、頭に気を付けて下さい。
1階の先頭に運転席があります。運転は半自動運転も可能です。まだ全てを自動化できないので、常に人が監視して貰う必要があるのはご容赦下さい。
フロントガラスは強化ガラスでいざという時は、シャッターを降ろす事もできます。
この場合は、屋外モニターに外の映像が写ります」
凄い、まるで線路を走らない列車だ。
「生活は2号車になります。お風呂は縦型で小型になります。汚水は水性アメーバを利用した処理設備で浄化します。気温が低いので、水性アメーバが凍らないように、魔石リアクターの排熱を使って、タンク周辺を暖めます」
それはいいが、飲み水としては飲みたくない。
「飲み水は、ここにタンクを設置する方式となっていますので、無くなったら、マリンちゃんに補給して貰って下さい」
なるほど、それならいいだろう。
「カイモノブクロを使用した貯蔵庫も、もちろんあります」
武器はあるのだろうか?と思ったが、キューリットが説明してくれた。
「最大の武器は車載型レールガンです。これは1丁だけですし、方向は車輛の向く方向のみです。
それ以外だと、魔石機関銃が左右2丁ずつ。計4丁です」
「キューリット、凄いな」
「後、後方には分析装置もあります。XRD、SEM、シンクロアナライザー、長距離LDVを備えています」
「キューリット、ちょっと待ってくれ、それはありがたいが、俺たちはそんなの使いこなせないぞ」
「そうだろうと思いまして、去年、大学部を卒業したばかりですが、優秀な助手を1名つけます。クラウディア」
キューリットが携帯端末で呼ぶと、クラウディアと呼ばれた人が2号車の扉を開けて入って来た。
髪がブロンドで、人族のきれいな女性だ。
「「「「「「却下」」」」」」
嫁たちが反対した。
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