第71話 去り行く者

 俺はミュに抱えられ、二人の所に向かった。

「シンヤ殿、良い部下をお持ちだ」

「部下ではない。家族だ」

 見るとここには、嫁たちとウォルフ、ポール、ミスティ、ミントそれに、ご隠居さまが来ている。

「そうか、これがシンヤ殿の家族なのだな。私は一人になってしまった。もう家族はいない」

 ノンデイル将軍はそう言うと、空を見上げた。

「私も早く、二人の元に行こう」

「ノンデイル将軍、それはなりません。そんな事をしても、奥さんと子供は喜びませんよ」

「私は、疲れたのだ。妻の元に行きたいと言ったのも、言い訳かもしれん」

「一度、ゆっくりしてみませんか?そうすれば、気持ちも変わるかもしれません。いっそ、我々の国に来ませんか?」

「その気遣いは有難いが、私は一人になってみたい」

 ノンデイル将軍はそう言うと、剣を鞘に納めて、こちらに背を向けて歩き出した。

「将軍、どちらに行かれるのですか?」

「さあ、風の吹くまま、気の向くまま、この国を散策するとしよう。そのうち、シンヤ殿の国に行くことがあったら、顔を出すかもしれん。その時はホーゲンとやらまた手合わせをしてくれないか?」

「それは、僕の方からお願いしたい事です。ここに留まって剣術指南をして貰えませんか?」

「ははは、ホーゲンとやらに剣術指南などしたら、剣の神から笑われてしまうわい」

 ノンデイル将軍はそう言うと、俺たちの視界から消えていった。


「すごく気持ちの良い人でしたね」

「ああ、あの人をこのまま行かせた事を残念に思う。全国に皇帝名で通達、もし虎族でノンデイルと名乗る者が来たら、無条件でエルバンテ国内を通行する事を許可する。ただし、もてなしは不要だ」

 俺の通達は、その日に電子メールで帝国の隅々まで、届けられた。

 だが、まだ懸念も残っている。ファネスル2頭の始末を終えていない。今は休んでいるが、その内、動き出すだろう。その時にどうするかだ。

 ヤマトのCICにてファネスルの対策会議を行うが、寝ている今は攻撃のチャンスなので、攻撃しようという意見が出た。

 だが、ファネスルに対する有効な武器がない。加速器重粒子砲は射程外であり、ミサイルでは歯が立たないだろう。


 ミュにオリハルコンで突っ込んで貰う案も出たが、見つかると反対に反撃を喰らう事になる。

 それに、ファネスルは寝ているといっても、首の一つは起きており、周囲の監視を行っている。脳が10個ある訳なので、それが交代で休む訳だ。

 こうなると、下手な攻撃は出来ない。

 会議は行き詰った。

 アリストテレスさんも作戦が出てこないようだ。


「こうなれば、タケルに聞くしかない。エリス、タケルを連れて来てくれ」

 エリスが魔法陣を広げ、転移して行った。

 その間にも、CICでは会議は続いている。

 そんな中に魔法陣が浮び上がった。エリスが転移してくるのだろう。

 転移してきたのは、タケルとキューリットだった。

「父上、ファネスルが2頭居るとエリス母さまから聞きました」

「そうだ、その2頭に対しての対応策がない」

 俺たちは、今までの事と会議の内容についてタケルに話した。

 それまで、聞いていたキューリットが答えた。

「加速器重粒子砲ですが、重粒子に今まではカーボンフォーティーンを使用していましたが、魔石も使えるようになりました。これの威力は今までと比べようも無いほどです。それに、砲身が3つ使える事になったので、更に威力も増しています」

「ただ、威力が増しただけはあるまい」

「そうです。余りの高熱に砲身が持ちません。撃てるのは一発だけです」

「冷却すれば、いいんじゃないか?」

「冷却すればいいですが、どうやって冷却しますか?そこが問題なのです」

「砲身の温度は?」

「計算では約1億度」

「い、1億度。それは核融合の世界じゃないか?」

「陛下は核融合もご存じだったのですね。でしたら、ウラン爆弾は?」

「ああ、知っているとも。だが、あれには問題がある」

「そうです。それにウラン爆弾でも、ファネスルは退治できないでしょう」

「そんなに、強いのか?」

「前に倒したデータから、その皮膚の強度は鉄の10cmを上回ります。それに、放射線に対しても鉄の厚さ10cmもあれば、放射線も通しません」

「例えば、プルトニウムかストロンチウムを飲ませて、ガンを発病させるというのはどうかな?」

「ガンの発病には時間がかかります。直ぐに対処するのは無理です」

 キューリットの説明に、タケル以外の全員が項垂れた。


「父上、砲身を冷却する方法はあります」

 そう言ったタケルを全員が見た。

「まず、大量の土が必要です。それと土と言えば、アロンカッチリアさんです」

 名前を呼ばれたアロンカッチリアさんが、びっくりしている。

「やっと俺の出番か、ここまで待ちくたびれたぜ」

 アロンカッチリアさんがタケルの近くまで行って、肩を叩いた。

 今度は、それに答えるようにタケルが作戦を説明する。


「作戦は分かった。では、直ちに土をヤマトに運び込もう」

 アリストテレスさんの指示で、大量の土がヤマトの中に運び込まれ、砲身の所に持って行くと、アロンカッチリアさんが土で砲身を固め出した。

「アロンカッチリアさん、砲身と土の間は水を入れるので、10cmぐらいの空間は残して下さい」

 俺が、アロンカッチリアさんに指示を出す。

「おお、分かっている」

 3つの砲身全てが土で覆われた。

 だが、これには欠点もある。砲身が動かないのだ。なので、ファネスルがある一定の位置で止まってくれないと仕方ない。

 これについても、またタケルが発言した。

「今度は大量の鏡が必要です。

 それを聞いて、本国に大量の鏡を持ってくるように通信回線で指示をする。

 すると、明日の輸送機で持ってくるとの返信があった。

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