第69話 降伏勧告
徐々に砂塵が大きくなって来ると同時に、その全貌も明らかになってきた。
「ヤマトのレーダー員は兵団の後ろに注意。いつ、ファネスルが来るかも分からん」
エルバルト提督が隊員に指示を出す。
「望遠カメラは撮影画像からAIアルゴリズム解析を行い、その陣容を解析せよ。収音装置も、相手の声を捕らえ周波数解析から、声紋解析を実行し、作戦指示を暴き出せ」
「「了解」」
ヤマトはいつからそんな小技が出来るようになったんだ。知らない間に装備がどんどん高性能化していく。
「カメラ画像、解析終わりました。兵士の数、およそ2万、先鋒は槍隊、その後ろに弓隊がいます。それ以降は歩兵ですが、騎馬隊と戦車隊はいません。
それと投石機があります」
装備はこちらとは比較にならないぐらいクラシックだ。これだと、最新兵器のヤマトで十分対応ができるだろう。
「鳥人とイーガルはいないか?」
「鳥人、イーガルは見当たりません」
カメラ画像解析からは陸上部隊のみだ。
「衛星画像からも特別おかしな点は見当たりません」
やはり、この2万がすべてのようだ。
相手の情報を探っていたが、河原に軍を停止させ、こちらの部隊と睨み合っている。
軍団を指揮するレイド将軍が、拡声器を使って勧告を行う。
「ネルエランドの大皇后、メドゥーサは既に我々が倒した。お前たちに勝ち目はない。速やかに降伏せよ」
「大皇后さまが倒されるなど、信じられない。お前たちの言っている事は嘘だ」
兵団から将軍と思われる豚族の男が出て来て言う。
今回、ノンデイル将軍は後方に居る。
何かの理由で、この軍の指揮はノンデイル将軍が指揮している訳ではないようだ。
「本当だ、既に王宮もないぞ」
だが、俺たちの言葉に軍は動揺している。
「お前たちは俺たちと同じ人族や猫族だ。出来れば助けたい。俺たちの言う事を信じてくれ。大人しく投降するんだ」
更に言うと、動揺が広がった。
「お前たち、敵の言う事を信じるのか?第一、俺たちとすれ違った軍はいないのに、どうやって王宮に行ったと思っているんだ?」
「我々は空を飛んで行った」
コネルエ川の上空に陸亀ホエールが現れると、あながち空を飛んで行ったという事も嘘ではないことが分かるだろうと思い、陸亀ホエールを俺たちの上空に持って来た。
その姿は相手を驚かすに十分だ。
「どうだ、これで信じて貰えるだろうか?我々は空を飛ぶ魔道具も持っている」
ヤマトの後方に停泊しているミズホの甲板から、爆音を立てて、戦闘機が発進し、対峙している間の上空を通り過ぎると、凄まじい爆音が兵士たちに降り注いだ。
「どうだ、まだ嘘だと言うのか?」
さすがに、ここまで見せられると信じない訳にはいかない。
「降伏などせん。もし、このままだと、後ろのファネスルの餌にしかならん。我々は戦う以外の選択はない」
その言葉を聞いた兵士に脅えが広がった。
「ファネスルが後ろに迫ってきているというのか?」
「全員がバラバラの方向に逃げればいいんじゃないか?」
集音機からはそんな声が聞こえる。
「このまま逃げてもどうせ追いつかれる。戦って川向うに行くしかないのだ」
「川向うに逃げても同じだろう」
「そうだ、ここは逃げるしかない。それで食われるかどうかは運だ」
「ズギューン」
一発のライフル弾が発射された音がすると同時に、豚族の将軍が落馬した。
「将軍が倒された。逃げるなら今の内だ」
人族や猫族、犬族、うさぎ族の下級兵士が一斉に逃げ出す。
「こ、こら、待て、待たんか」
豚族と鼬族の上級兵士が逃げる兵士たちを留まらせようとしているが、崩壊し始めた軍はもうどうにもならない。
そこには、豚族と鼬族の兵士が残った。
「画像解析の結果から、残った兵士は2000です」
直ぐに入手できた情報から分析を行い、その情報は携帯端末を通じて各自に伝えられる。
「くそっ、こうなれば我々だけで戦うしかない。隊列を作れ」
倒れた豚族の将軍に代わる、別の豚族の将軍が指揮を行っている。
「突撃!」
「おおっー」
「ドーン、ドーン」
突撃を開始した兵に戦車隊の砲撃が始まった。
砲弾が相手方に届くたびに突撃を開始した兵士が空中に舞う。
それを見た、他の兵士の足が止まった。
逃げ出した兵士も遠くからそれを見ている。
「お前たちに勝ち目はない。大人しく投降するんだ」
「投降したところで、どうせファネスルの餌になるだけだ。逃げるぞ」
とうとう、豚族や鼬族の上級兵士も逃げ出す。中には皮鎧のまま川に入る者も居るが、皮鎧は水を吸うと重くなるので、溺れる可能性が高い。
人族、猫族などの下級兵士のうち、俺たちに投降した兵士は小型船を使って、スノーノース側の河原に運んで、食事などを与えた。
この後、スノーノース市に運び、自立の訓練を行う事になるだろう。
だが、誰もいなくなった河原に騎馬に乗った一人の将軍が現れた。ノンデイル将軍だ。
「ノンデイル将軍、既に大皇后もいない。速やかに投降せよ。我々はあなたに対し、恨みはない」
「シンヤ殿には鉄の剣といい、作戦の参謀といい、恩がある。だが、私はシンヤ殿の下に入る訳にはいかない。出来ることならここで剣士として戦いたい」
「私が相手をしよう」
そう言ったのはホーゲンだった。
ホーゲンが一人、戦車の前に出た。
それを見た、ノンデイル将軍も馬を降り、歩いてホーゲンの方に向かう。
ノンデイル将軍は鉄の剣を捨て、背中に背負っている長剣を出した。
片や、ホーゲンも背中に長剣を背負っている。
二人は一定の所まで来ると、そのまま向かい合った。
「ノンデイルだ」
「エルバンテ帝国大尉、ホーゲン・キバヤシだ」
「キバヤシとは?なるほど、シンヤ殿と関係があるのか?
「陛下は兄だ」
「獅子族なのに人族の弟なのか、なるほど、シンヤ殿は人情家らしいな」
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