第68話 メドゥーサの首

「ぐっ、そのような魔道具があるとはな」

「将軍、既に軍には、なっていません。今ならまだ手当をすれば助かります。降伏をしなさい」

「こ、降伏だと、私は栄光あるネルエランド軍の将軍だ。ぶ、部下だけ死んで私が生きているなど生き恥を晒して生きていけぬ」

「命を大事にしなさい。降伏するのです」

「は、はぁ、はぁ、こ、断る。うっ」

 モークレア将軍は最後にそう言うと、愛用の剣を喉に突き刺して絶命した。

「モークレア将軍、あなたは敵ながら立派な将軍でした。我々はあなたの事を忘れないでしょう」

 エミリーが、将軍の遺体に向けて言葉を贈った。

「ビビ」

 ラピスがペガサスのビビを呼ぶと、上空に居たビビが降りてきた。

 ラピスとエミリーはビビに乗って、モークレア将軍の亡くなった地を後にした。


「大変です、ファネスルの進行方向が変わりました。ファネスルが引き返しています」

 俺も衛星画像を確認したが、たしかに王都の方へ引き返している。

「アリストテレスさん、これは…?」

「推定ですが、この時期は南からの風が吹きます。それは我が領地エルバンテを過ぎ、サン・シュミッド山脈を越え、ここネルエランドでは吹きおろしの風になります。

 そして、その風は先ほどの戦場を過ぎて、ここコネルエ川に至ります。

 つまり、先程の戦場で死んだ人の血の臭いを運んで来る訳です」

「その臭いに反応したと?」

「その可能性が高いです」

「この先、考えられる事は?」

「まずはあそこにある死んだ兵士を食べるでしょう。問題はその後です。やはりこちらに向かうのか、それとも5頭がバラバラの行動を起こすのか。

 バラバラに行動し出すと、被害が大きくなる可能性があり、最悪はスノーノースやダリアンまで行かれると、そこは地獄になるでしょう」

 ファネスルがスノーノースやダリアンで暴れる姿は想像したくない。

「今の内に対処するしかないか?」

「その方が良いと思います」


 俺は携帯端末を取り出し、エリスに連絡した。

「エリス、ファネスルが迷走し始めた。今の内に対処しないと、ファネスルがあちこちに現れ被害が大きくなることが予想される。

 早急に対処できないか?」

「今、そっちに向かっているわ。もう直ぐ陸亀ホエールよ」

「旦那さま、私とエミリーは陸亀ホエールに到着しました」

 エリスとの会話にラピスが割り込んできた。

「ラピスは陸亀ホエールで待機してくれ。今からエリスたちがそっちに行く。

到着次第、ドローン操作者の『レンレン』を連れていってくれ」

「了解」

「アスカにも伝えてくれ。あまりファネスルに近づくなと。あのファイヤーボールはかなりの射程があると思った方がいい」

「お父さま、了解です」

 アスカからの通信も入った。


「今、エリスさまたちが到着しました。それでは作戦どおり行います」

 ネルの箒にぶら下がっているメドゥーサの首をドローンに取り付けると、ドローン操作者のレンレンがドローンを操作して、メドゥーサの首を空高く上げた。

 その後をネルが追って行き、かなり上空で目隠しを外す。

 ミュはレンレンを抱きかかえると、ドローンを追って、上空に上がる。

 その後をビビに乗ったラピスとエミリーが追う。ネルも箒に乗ってそれを追う。


 ミュとレンレンはファネスルの方に向かう。

 ファネスルに近づくと、ファネスルがファイヤーボールを放って来る。

 それをミュは華麗に躱し、ファネスルに近づく。ドローンもファイヤーボールを躱していくが、それは操縦者のレンレンの腕が良いからだろう。

 レンレンがドローンを操作して、ファネスルの前にミドゥーサの顔を出した。

 ファネスルの10本の首がそのメドゥーサの首を見ると、その目から徐々に石になっていく。

 身体が大きいので、石になるのも時間がかかるが、5分ほどで石になった。

 同じように次のファネスルも石にしていく。

 そのようにして、3頭ほどを石にしたが、4頭目に行ったときに油断からか、ドローンをファイヤーボールで落とされてしまった。

「ヤマトCIC聞こえますか?3頭は石にしましたが、4頭目でドローンが破壊されました。ですので、生きているのが2頭います」

 その2頭は戦場に倒れた兵士たちの死体を食っていたが、食い終わると、再びコネルエ川に向かって進みだした。

「生きているファネスル2頭を衛星画像で確認しました。こちらの方へ向かってきますが、さっきより大分スピードが落ちています」

 腹が膨れたということだろう。慌てて追いかける必要がない。


「シンヤさま、落ちたメドゥーサの首だけど、粉々になって、今じゃ石の欠片だわ。どうする?」

「それで、問題が無ければ引き上げて貰っていい。アスカも引き上げてくれ」

「分かりました。そちらに向かいます」

「それじゃ転移するわ。みんな乗ってビビもいいわね」

 エリスが魔法陣を広げると、ヤマトの甲板に全員が現れた。

 こちらに来た全員で再び作戦会議を行う。

「まず、ノンデイル将軍の率いる軍団を先に対処するようにしましょう。その後にファネスル2頭に対処しましょう」

 アリストテレスさんが作戦を指示した。輸送船からは陸戦に備えて戦車隊を川岸に並べる。その戦車隊を指揮するのはジェコビツチさんに決まった。

 その戦車隊の後ろには、ホーゲン、ウォルフ、ポール、ゴウが率いる部隊が並ぶ。

 だが、この人たちも戦車隊の後ろにいる。

「婿殿、今回も我らが加勢するぞ」

 そう、ご隠居さまだ。そして、その横にはマシュードたちも居る。

「義父上、あまりホーゲンに迷惑はかけないで下さい」

「儂をなんだと思っている。婿殿が、あっと驚く仕事をしてやるわい」

「お館さま、ご隠居さまの事は我々にお任せ下さい」

 お前たちだから心配なんだよ、とは、口が裂けても言えない。

 戦いの準備が終わった頃、遥か向こうに砂塵が見えた。

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