第61話 悪魔族
「パン、パン、パン」
いくつもの砲弾がライフルから発射される音が、通信機を通して、ここヤマトの艦橋にも聞こえる。
「次、構えよ」
再びウォルフの声がした。
「目標確認、いいか相手はすばしっこい。良く狙って撃つんだ。撃て」
「パン、パン、パン」
再び同じ発射音がする。
「よし、こっちに来るぞ。後は拳銃と剣、それに弓で勝負だ」
「ヒュン」
大きな弓の音がする。
これは恐らくセルゲイさんの強弓から矢が放たれた音だろう。
「乗り込んで来るぞ。いいか、迎え撃て」
陸亀ホエールの操作室の屋上に取り付けたカメラからの画像が、ヤマトの艦橋にあるディスプレイにイーガルの姿がはっきりと映った。
相手は、イーガルから降りて、乱戦になっているが、兵士の数はこちらの方が多い。
陸亀ホエールのカメラからも空中戦の様子は撮影されていたが、月明りもないため、遠い地点の戦いの様子は不明だった。
この点、カメラの性能には限界はある。
だが、陸亀ホエールの上には照明もあり、カメラからの映像はきれいに見て取れる。
よく見ると、ご隠居さまも戦っているが、これがなかなか強い。反対にマシュードたちの方が分が悪く、ご隠居さまに助けられている状態だ。
その中でひと際、異彩を放っている者が数人いる。一人は言わずと知れたセルゲイさんだ。
次々に降りてくる相手兵士をまるで草でも刈るように倒していく。
その次はウォルフだ。彼も弓の方が得意と言うが、なかなか剣の腕も大したものだ。
そして、その横には長い剣を華麗に操るホーゲンの姿もある。あいつめ、自分の兵士を連れて来ずに、勝手に参加しやがったな。
そして、ホーゲンの後ろを守っている二刀流はアシュクだ。
以前、アシュクはホーゲンと手合わせした際は完敗だったが、それが今ではホーゲンと渡り合うまでに成長した。そして、二人の息はぴったりと合っている。
この二人に挑むのは無謀と言っていいだろう。
ウォルフ隊は長距離戦法を得意としているが、なかなかどうして、混戦でも問題なく対応している。
相手の数も少なかった事もあるが、更に相手の人数が減って来た。
カメラでは音声までは聞こえないが、相手方の一人が手を振っている。どうやら退却するようだ。
まだ生きている兵士は、イーガルに乗って、空へと飛び出していった。
すると、ミュとネルも陸亀ホエールの上に来た。
そこへ持ち出して来たのは、移動式ミサイルだ。恐らく弾頭には気化爆弾が装着されているのだろう。
ミサイルがオレンジ色の炎を出して空へと這い上がると、飛び去るイーガルを追って行き、空中で爆発した。爆発と同時にオレンジの炎が、四方八方に広がり、その炎が消えた先に飛行する物はなく、燃えながら落下していくイーガルの姿があった。
「ご苦労だった。帰艦してくれ」
ミュとネルを回収した陸亀ホエールは警戒しつつ、スノーノースの方に船首を向けた。
ヤマトの艦橋で、王宮の話声を聞いてみる。
「それで、追っ手はどうなった。やつらを叩き潰したのだろうな」
「それが、誰一人として帰ってきません」
「我々の情報を得ようとして、誰かを送り込んで来る事は分かっていたはず。それに備えて、空中部隊も待機していたというのに、それが何の役にも立たないと言うのか。
相手はそれ程強いのか?」
「はっ、相手は我々の知らない魔道具をいくつも持っており、それがかなり強力です。それに相手には悪魔族も居ます」
「悪魔族?それはどんな者だ?」
「はい、一人はサキュバスと思われる者、一人はダリアンの王女でこちらの正体は分かりません。そして最後の一人は、人魚で水魔法を使う者であることは分かっています」
その音声を聞いた全員がマリンを見た。
「え、えっ、私が悪魔族?」
「マリン、いいか、エリスに鑑定して貰っても」
「え、ええ、分かりました。エリス姉さま、お願いします」
「マリン、ごめんね」
エリスはマリンに断りを入れると、マリンを鑑定する。
「鼠族の言う事は本当ね。マリンには魔石がある。確かに、悪魔族だわ」
エリスの鑑定結果を聞いて、マリンは茫然としている。
「私が、悪魔族だったなんて…」
本人さえ、自分が悪魔族だと思っていなかったのだ。それがその事実を知って全員がどうしていいか、分からない。
マリンが艦橋から出て行った。
「ラピス、頼む」
マリンの後ろを追いかけるようにして、今度はラピスが出て行く。
だが、俺たちも何と言うべきなのか。
しばらくすると、マリンがラピスと共に艦橋に戻ってきた。
「ごめんなさい。取り乱してしまって」
マリンがここに居る全員に謝るが、誰もそれを攻めている訳ではない。
「エリス姉さま、鑑定の結果を教えて下さい。それは私の夫であるシンヤさまや、姉さま方、それに兄弟であるホーゲン、ミスティも知っておくべき事だと思います」
「その前にまず、マリンの事から話して」
エリスがマリンの昔の事について聞く。
「私は自分でも分からない海の中に居ました。その前の記憶はありません。それから数年はその海で暮らしていましたが、ある時、その海には魔物が住み着きました。
私は、その魔物と戦った記憶があります。ですがその時、怪我をしてしまい、それからの記憶はありません。
気が付いたら、サリー姉さまのところに居ました」
ここで一息ついてから、再び話す。全員がマリンの話を黙って聞いている。
「サリー姉さまが言うには、サン・イルミド川に魚を取りに行ったら、かなり離れた岸に打ち上げられた私を見つけたそうです。その時の姿は小さい人魚で、てっきり、捨てられた子だと思って連れて帰って育ててくれたと聞いた事があります。
それからはシンヤ兄さまの知っているとおりです」
マリンも魔石を体内に持つ悪魔族だった。
もしかしたら、マリンの母親も前世の俺と戦った敵かもしれない。
「マリン、もしかしたら俺は前世で君の母を殺しているかもしれない」
「そんなの関係ありません。今はあなたは、私の夫なのです。もし、そうだとしても、私には家族がいて、この家族の絆は全員が守らなければなりません」
マリンが泣きながら、話す。
「カコーン」
マリンの目から落ちる涙が空気に触れ、真珠となって床に落ちる。
俺はマリンを抱きしめた。
「マリン、ありがとう」
その姿を見て全員が泣いている。
「だから、マリンもシンヤさまの精が好きなのね」
エリスの不適切発言に、この場に居る全員の顔が赤くなる。
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