第59話 人質救出作戦

「どうやら、もう一人死なないと速くならないようだな」

「分かった、直ぐにそちらに行く」

 そうは言うが、相変わらずゆっくりだ。

 だが、そう距離がある訳ではない。じきに人質の居る場所に来た。

「よし、捕らえろ」

 モークレア将軍がそう言うと、周りにいた兵士たちがロープを持って俺の方に来た。

 その時だ、俺の前に魔法陣が現れたと思った瞬間、その魔法陣から人が出て来て、ロープを持った兵士たちに斬りかかった。

「ギャー」

 そこへ、槍の両方に三日月形の刃を付けた武器を持った鳥人たちが降りてきて、その争いに加担していく。

 白い鳥人と黒い鳥人の混成部隊だ。その部隊は人質の方へ行き、人質を確保した。

「さあ、早く船の方へ」

 そう、マリアが言った時だ。マリアに向かって人質が斬りかかった。

「きゃー」

「何をする!」

 そのマリアを助けたのは黒い鳥人のロンだった。だが、マリアは左腕を斬られて血が滴り落ちている。

「エリス」

「分かっている。ヒール」

 エリスが治療魔法を唱えると、マリアの腕の傷が塞がって行く。しばらくすると完全に元に戻った。

「どうして、襲って来た」

「は、母が人質になっています。何かあれば、お館さまを殺せと…」

 この人は、ネルエランドで自宅として与えられた邸宅で、侍女として勤めていた人族の女性だ。

 この女性の母親は既に殺されているだろう。任務通りに進んでも、そうでなくとも二人とも殺されたのだろう。鼠族はそんなに甘くないはずだ。

 それは彼女も分かっているかもしれないが、それでも一縷の望みを持つのは仕方ないのかもしれない。

「君の母さんは既に殺されているだろう。なので、今更、俺を殺しても仕方ないぞ」

「ああ」

 マリアに斬りつけた女性は顔を覆って泣いた。

「分かれば、武器を捨てて投降するんだ」

「そんなのは分からないじゃないか?俺の娘はまだ生きているかもしれない」

 娘を人質に取られている、父親と思われる男が言う。それに同意する人も何人か居る。

「そうだ、お前を殺せば、息子が帰ってくるかもしれない」

 半分くらい、そんな声が上がる。

 そんなやり取りをしていた所へ、兵団の後ろから黒い者が上空に上がるのが見えた。

 それは黒い鳥人だ。例の思想教育を行われた鳥人たちに違いない。

 俺たちの鳥人たちと敵の鳥人が上空で戦いになった。だが、俺たちの鳥人は、槍の両端に刃を付けた武器を持っている。

 片や相手側には武器がない。

 鳥人は片手に武器を持って飛ぶとバランスが崩れてうまく飛ぶ事ができないので、武器となる剣は、背中に背負って降りてから切り込むというのが、攻撃のパターンだった。

 だが、俺たちは槍の両端に刃を付けたので、飛んでいる場合でも、すれ違いに相手を傷つける事ができるし、バランスも崩れない。

 上空の戦いで、武器があるのと無いのでは、戦力が違う。相手側は徐々に押されている。

「父であり、母である国王陛下のために、ここは持ちこたえるんだ」

 相手方の鳥人のリーダーらしき者が叫んだ。

 それでも、精神だけで有利にはならない。相手は既に10人以下になったが、それでも退こうとはしない。

 それに傷つけられたら、空から落ちる事になり、それはイコール死ぬ事になる。

 そしてとうとう、全員が居なくなった。

 その頃には輸送船から上陸艇が来て、人質を回収し出したが、半分くらいは俺たちの方に来ようとはしない。

「お前たちは任務に失敗した。帰っても生きていられる可能性はないぞ」

 説得しているが、それに従う者は少ない。

 上陸艇には、エルバンテ軍が乗っている。人質と反対に上陸した兵団は直ちに相手方に襲い掛かった。

 その先方にはホーゲンが居る。反対側からはウォルフの軍隊も来た。更にその向こうにはポールの軍が、こちらはゴウの軍も来た。

 それから、続々と後からエルバンテ軍が来る。そのうち、セルゲイさん、ミスティ、ミントも来たが、やっかいな事にご隠居さまも来ている。と、言う事はマシュードたちも来ているだろう。

 大丈夫か?と思っていたが、あいつらも意外と善戦している。


 河原のあちこちで戦いが繰り広げられ、混戦となっている。こちらの兵たちにも被害が出始めた。

 川の畔に救護所が作られ、エリスが治療に当たっているが、運び込まれる人も徐々に多くなっていく。

 それをエリスが片っ端から治療すると再び戦場に出ていくので、混戦の中にも、俺たちの方が有利になって来た。

「くそー、退け、退け」

 とうとう、モークレア将軍が退却命令を出した。

 ネルエランド軍が王都の方へ退いていく。

 それに合わせて、人質のうち半分もそれについて逃げて行った。

 彼らは帰ってもその責任を問われ、生きてはいないだろう。

 俺たちは今まで、いくつかの戦争を行ってきたが、それでも死者は出なかった。だが、この戦いでは、既に3人の死亡が確認された。

 3人は遺品だけを残して、この地に埋葬する。自分の国に埋葬されないのは可哀そうだが、戦いの中では仕方がない事だろう。

 俺たちの軍の中では、それで怒っている者も居る。

「加速器重粒子砲でいっきに片をつけましょう」

 そんな意見もあるが、ここからでは王都は距離があり過ぎる。射程外なのだ。

 俺だって、人質を取る手段には怒っている。

 だが、今は負傷した人の治療や兵の休息が必要だ。

 ミズホや輸送船の中も急遽、病院となって治療にあたるが、エリスが居るので、即死でない限りは命が助かっている。


 人質となっていた人の半分はこちらに確保したので、どれくらいの情報を得られるか分からないが聞いてみる。

 だが、王宮の中の情報はほとんど得られなかった。

 身分から言えば、王宮の中には行った事もないから、情報を持っていないのは分かり切っていたが、俺たちもそれだけ情報が無かったのだ。

「それで、ヨークハイトが亡くなってから実権を握ったのは誰だ?」

「はい、大皇后さまです」

「大皇后?それは先々代の王妃という事か?」

「いえ、それが良く分からないのです。かなりの年齢のようですが、話し方からするとそれ程年齢が高いとは思えません」

 謎は残るが、大皇后という者が新しい王となったらしい。

 その点だけの情報でも得られたのは大きい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る