第58話 人質
「ウェンティはどんな人が好みなんだ?」
俺が今時の子に聞くような質問をしてみる。
「ホーゲン大尉」
あいつめー、こんな学院生を夢中にさせやがって。かっこいいやつは全て敵だ。
「ホーゲン以外は?」
「ウォルフ大尉」
結局は三獣士か、くそっ。
「旦那さま、何かご機嫌が悪くなる事がありましたか?」
「い、いや、何でもない」
また、ラピスに心を読まれた。
そんな恋バナで盛り上がった船内だが、そんな事ばかりもしていられない。
ネルエランド国内の情報をどうやって得るかが、問題となっている。
「エリスさまの転移魔法で、王宮に侵入し、盗聴器を仕掛けますか?」
メンデルスという中尉が言う。
「魔法盗聴器を仕掛けたとしても、ここまで届かない。衛星盗聴器は王宮の中心部だと電波が届かないし、筐体が大きくなるので発見され易い」
「ミュさまの遠隔監視の水晶は?」
「あれは映像だけで、音声が聞けない」
「そうすると、相手側に内通者を募るとか?」
「鼠族、豚族、鼬族は無理だろう。期待できるのは人族だ。俺たちの世話をしてくれていた人の中には人族が居たが、王宮には入れないので、得られる情報も限られる。それに、俺たちが居なくなったので、既にあの邸宅には居ないだろう」
「いっそ、ノンデイル将軍に、というはダメでしょうか…?」
「彼の態度から、何か弱みがあるみたいなので、ダメだろうな」
俺たちの会議は行き詰った。
「取り敢えずは、このまま外からと衛星からの情報だけで対応するしかなさそうだな」
「陛下の言われるとおりですね」
アリストテレスさんにも案がないようだ。
衛星画像からネルエランドの首都と王宮を監視しているが、首都を含めて警戒が厳重になっただけで、変化は無いようだ。
だが、それから1週間ほど経った時だ。コネルエ川の向こうに鼠族、豚族、鼬族で構成された兵2万人程が並んだ。
だが、その兵士たちの前には人族100人が並んでいる。
「シンヤ・キバヤシ、お前には現国王も前国王もそれにニードリアン陛下、ムーギリアン陛下殺害の容疑で手配されている。
大人しくこちらに来て貰おう。来ない場合は、こうなる」
そう言って、鼠族の将軍であるモークレア将軍が人族の一人を斬った。
「ぎゃー」
斬られた人はその場に倒れる。恐らく、既に絶命しているだろう。
「モークレア将軍、あなたは人質を取るような人ではなかったはず。それなのに何故、このような卑怯な事を…」
「何を言うか、陛下を騙し討ちにしたのは貴様ではないか?それを卑怯などとおこがましい」
「我々は騙されて王宮に誘い出されたのだ。卑怯だったのはヨークハイト王の方だ」
「ふん、今更何を…、それでどうするんだ。来るのか、来ないのか?」
人質の中には俺たちがネルエランドの邸宅で暮らした時に世話をしてくれた人族の侍女も居る。
その人を関係ないと無視はできないが、直ちに人質を解放する手段もない。
「どうするんだ、さっさと答えを出して貰おう」
モークレア将軍が川向うから叫ぶ。
「俺が行こう」
モークレア将軍に俺が叫んだ。
「待って下さい」
そこに口を挟んだのは、アリストテレスさんだ。
「陛下をどうするつもりだ」
「どうするとは?当然、王宮に連れて行き、裁判を行い、その罪を明らかにする」
ネルエランドに裁判なんてない。それは明らかな嘘だ。裁判に掛けれる前に殺されるだろう。
「本当だろうな、もし嘘なら、エルバンテの全兵力を持ってお前たちの国を攻撃するぞ。俺たちの武力は、既に知っているだろうからな」
アリストテレスさんのこんな強い口調は初めてだ。
「それでは、これからそちらに行くから、少し時間を貰おう」
話をしながら作戦を考える。
「人質は陛下と交換する条件でこちらに引き取りますが、もし渋るようなら、陛下が相手に行く直前で、エリスさまに転移して貰い、結界を張って貰います。その転移には、10人程の腕に覚えのある人に行って貰います」
10人は嫁たち6人とホーゲン、ウォルフ、ポール、ゴウに決まった。
「その時はフェニにも援助を頼みたい」
アリストテレスさんがフェニに言うと、「ピー」と一声鳴いた。
10人が暴れている間に、4軸垂直離着陸機で乗り込む事も決まった。
だが、4軸垂直離着陸機って呼びにくいから、何か名前を付けようよ。
「我々にも任務を与えて下さい」
言ってきたのは、白い鳥人の長老ブリマーの娘のマリアだ。
「いえ、我々にこそ」
今度は黒い鳥人の長老ララバードの息子のロンが言って来た。
「確かにやって貰いたいことはあるが、危険だ」
アリストテレスさんが二人の参加を認めない。
「いえ、危険なのは承知です。それを承知で申し出ています」
二人の目は真剣だ。
「なら、エリスさまたちが転移魔法で、突入したら、空から急降下して、人質を確保してくれ」
先に乗り込む10人はいいが、その後の対応はアリストテレスさんが細かに指示を出すことになった。
「おい、速くしろ、もう一人死ぬ事になるぞ」
モークレア将軍の声がする。
「分かった、直ぐにそちらに行く」
なるべく時間を稼ぐため、手漕ぎの船でヤマトからネルエ川の対岸に向かう。
その間にも、ミズホとヤマトの船内では、戦いに備えて迅速に対応している事だろう。
俺の乗った小舟が岸に着いた。だが、急いで行く訳ではない。できるだけゆっくりと歩く。
「速くしろ」
モークレア将軍が急かすが、それには応じずにゆっくりと歩いていく。
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