第55話 ヨークハイト王の最後

 夕食と風呂が済んだ俺たちは寝室に来た。

「エリス」

 エリスが黙って、左手を出し、部屋の中を調べている。

 すると、無言で、花瓶の裏を指差した。そこを見てみると黒色の石がある。

 部屋の中にカイモノブクロのテントを出して、全員でその中に入る。カイモノブクロの中で発する声は外に漏れない。

「エリス、あの黒い石は盗聴器か?」

「あれは盗聴器よ。もちろん私たちの世界にある盗聴器と違って、魔法の盗聴器だけど」

「ここでの会話も大丈夫だろうな」

「それは、もちろん。ところで、明日、どうするの?」

 明日、ヨークハイト王に謁見してからの事を打ち合わせた。そして、カイモノブクロのテントを出ると、その後は差し障りのない会話を続けた。


 翌日、朝食が済んだら、キチンに乗って王宮に向かう。

 王宮の車溜めにキチンを置く。キチンは頭が良いので、逃げる事はない。

 そして、キチンの護衛をフェニに頼んでおく。

 王宮に入ると、今度は2階にある謁見の間に向かう。すると、そこには既に玉座にヨークハイト王が座っていた。

 周りには護衛の兵士や高官たちもいる。もちろん、ノンデイル将軍も居る。

「陛下にはご機嫌麗しく…」

「そんな堅苦しい事は良い。シンヤ殿の旅の話を聞きたいと思っていた。シンヤ殿たちがダリアンとスノーノースに行ってから、両国に政変が起こってな。

 もちろん知っているとは思うが、シンヤ殿たちが向こうに行くのと同時に政変が起こったのと符号しているのは、何かあったのかと思ってしまうのだ」

「それはただの偶然でございます。我々もいきなり政変が起こって、びっくりしています」

「ところで、ここを出る時、ご婦人方は5人だったはずだが、一人増えているのう」

「はい、ダリアン国で妻帯しました」

「なんと、6人目の妻となるのか?」

「そうでございます」

「それで、その嫁が例の薬を持っている、ということで良いのか?」

「はっ?例の薬とは?」

 俺がそう言った瞬間、兵士が縦に持っていた槍を横にし、俺たちをいつでも突けるようにした。

「しらばっくれて貰っても困る。不老不死の薬の事だ」

「あれは、ただの噂では?」

「噂かどうかは、シンヤ殿たちを調べれば分かる事だ」

「調べたところで何も出てきません。別室で調べて頂いても良いかと思います」

「態々、別室で調べなくとも良い事だ。今、ここで死んで貰えば、それからゆっくりと調べるからな、それっ」

 ヨークハイト王が叫ぶと、槍を持った兵士たちが槍を繰り出してきた。

「えいっ、とおっ」

 次々に繰り出して来るが、それはミュ、ラピス、エミリーそしてマリンが尽く剣で跳ね返す。

 だが、ネルは剣でなく箒で跳ね返している。この箒は何だろう。槍と相対しても箒の柄が折れることはない。

 そんな横で、俺はゴッドアローを出して、兵士を射る。

 だが、ここにこの人が出てきた。ノンデイル将軍だ。

 ノンデイル将軍はエミリーに向かうが、エミリーでもノンデイル将軍の剣は躱すだけで精一杯だ。ノンデイル将軍は、俺から与えられた鉄の剣を使っている。

「将軍、それは俺が差し上げた剣ではないか?」

「たしかにこの剣は良いし、貰った事は感謝している。だが、私はこのネルエランドの将軍だ。国王の指示に従うまでだ」

 そう言うノンデイル将軍に、徐々にエミリーは押されてきた。

「ゴッドアロー」

 俺はゴッドアローでノンデイル将軍を狙ったが、その矢をノンデイル将軍は剣で弾いた。

 ゴッドアローが狙った的を外したのを初めて見た。

 徐々に俺たちは壁際に追いやられ、俺たちの周りを兵士たちが囲んだ。

 その囲んだ兵士たちの間から、ヨークハイト王が出てきた。

「お前たちに逃げ場はない。武器を捨てろ」

 俺たちは武器を捨てた。

 ヨークハイト王は俺が捨てたゴッドアローを拾い上げた。ゴッドアローは、しまってある状態では長さ15cm程の筒だ。この筒は弓だけではなく、剣にも鞭にもなる。

「これが、光の矢を射る事が出来る弓か。それでこれはどうやって使うんだ?」

「ゴッドアローと叫べばいい」

「なるほど、ゴッドアロー」

 この筒は音声認識機能が付いている。他人が叫んでも何も起こらない。

「何も起こらないではないか?」

「そんな事は無い。筒の中に何か詰まっているのではないか?」

 ヨークハイト王が筒の中を覗き込んだ。

「ゴッドソード!」

 俺が声高に叫ぶと筒から1000℃の光の剣が出て、ヨークハイト王の額を貫いた。

 肉が焼ける臭いと同時にヨークハイト王の額に5cmほどの穴が開いている。

「クローズ」

 俺が再び叫ぶと、剣が消えた。

 その状況を見て、兵士たちが驚いている。

「今だ」

 俺と嫁たちは一斉に走り出す。俺はヨークハイト王の手から黒い筒を奪い返すと、兵士たちの輪を全員で突破した。

 嫁たちも既に剣を取り返している。

 俺たちは玉座の前に来ると、一番前にミュとネルが立ち、その後ろに俺たちが立った。

「「グローバルエクトプラズム」」

 ミュとネルが言うと、兵士たちから白い靄が二人に吸い取られていき、その場に倒れるが、人数が多く、この部屋に居る全ての兵士たちの精を吸い取るまでには至っていない。

「あ、悪魔だ」

「悪魔だ」

 そんな声がする。

「エリス、キチンの所に転移」

 エリスが魔法陣を広げると、俺たちはキチンの所に転移した。

「フェニ、ご苦労だった、今から逃げる」

 キチンに乗った俺たちは外塀に向かって走り出したが、既に正門は閉められてしまった。

「ウォターリング」

 マリンがウォターリングを門に投げつけると、門がバラバラに破壊される。

 俺たちはその門を潜り、そのまま街の外に向けて走った。

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