第54話 再びネルエランドへ

 村人には、スノーノースに来て貰う事になった。

 ミズホから輸送トラックとキチン車で村人をミズホに移送する。

 ミズホに乗船した村人はその大きさにびっくりしている。そして、一番驚いているのは帆が無い事だ。

「シンヤ殿、この船には帆がないが、どのようにして動くのでしょうか?まさか人が漕いでいるとは思えませんが…」

「この船の動力は魔石リアクターというものです。我々の国で、この動力を開発しました」

「そのような技術力がある国に、戦争を挑んだ前国王の無鉄砲さが、今、分かりました。我々は世界の広さを知らなかった」


 シシバ村は俺たちの説得に応じてくれたが、そうでない村もある。

 俺たちが宿泊のお願いに行ったところ、断られた村があったが、そこはシシバ村の長老の説得も応じなかった。

 それどころか、俺たちが来たから紛争になるのだと言われ、まるで相手にされなかった。

 俺たちが来なくても、このネルエランドはスノーノースやダリアンを攻めたであろうし、再びエルバンテも攻めるだろう。

 その時は再び、住民が刈り出されるだろう。その人たちが再び戻って来れないのは容易に想像できる。

 それでも現状を変えようとしなければ、自分たちの生きる未来はない。現状維持は滅亡するしかない。

 それをネルエランドの周辺地域から始め、スノーノースに来る事に賛成してくれた村は別の村を説得するという事を繰り返した。

 スノーノースの首都にはネルエランドから来た人々が多くなった。

 だが、遊んでいて貰う訳にもいかないので、避難して来た人にはとりあえず農作業に就いて貰う。

 その農作業にはエルバンテで開発された農機具を使っているが、今まで人手でしか農業をやって来なかった村人からすれば、青天の霹靂である。

 トラクターが畑を耕し、そこに種を植えて行く。

 米も同じだ。コンバインが田んぼに稲を植えて行く。

 それはもう驚愕の世界だ。その光景を見た村人たちは口を開けて、瞬きもしない。

 だが、我々も人を受け入れる以上、食料がないとどうにもならない。そのためには、農地の開墾は、必須だ。

 これはダリアンでも行っている。ダリアンにも避難民を受け入れているのだから当然だ。

 そうやって、ネルエランドからの住民の移送は行っていたが、当然それはネルエランドの中央も知る事になり、それが誰がやっているかを調査し出した。

 だが、それをやっているのはエルバンテという国であり、スノーノースがエルバンテ領になった事も分かった。

 今頃、ネルエランドの国王であるヨークハイトは歯噛みしている事だろう。


「よし、そろそろネルエランドに乗り込むか」

 俺が言うと、嫁たちも同意する。

「でも、シンヤさま、どうやって乗り込むの?」

 エリスが聞いたが、それは最もな意見だろう。

 他の嫁たちもエリスの意見に頷いている。

「まずは帰宅したのを装って普通に接してみるか」

「それで、バレたらどうしますか?」

 今度はラピスだ。

「逃げるさ」

「逃げる?」

「そう、孫子もそう言っている。『三十六計逃げるに如かず』とね」

「でも、どうやって?」

 ラピスが聞いてきた。

 ラピスの質問に答えるように、王宮からの脱出方法を嫁たちに説明した。

 それは、エルバンテ軍の指揮を執る軍師のアリストテレスさんとも調整を行う。


 アリストテレスさんとの調整が終わったらエリスの転移魔法で、一旦、ミズホに帰りそこからシシバ村に入る。

 そして、無人となったシシバ村から再び王都への道を行く。

 俺たちの宿泊を断った村は周辺の村が無人となった今でも、頑なに移住しようとしない。再度、移住の話を持ち掛けてみたが、相手にして貰えなかった。

 仕方ないので、そのまま王都へ進み、王都にある自宅に入った。

「おかえりなさいませ」

 執事のモメデットが迎えてくれた。

 このモメデットは鼬族であり、鼠族のスパイだ。だが、そこは承知で相手をする。

 スパイを更に、こちら側のスパイとして使う。

 そのためには嘘の情報を流して、国王に伝わるようにする。

「お戻りになられましたら、王宮に来るようにとの伝言を受け取っております」

「ああ、ありがとう。スノーノースとダリアンのクーデターに巻き込まれて大変だったよ」

「スノーノースとダリアンはクーデターだったのですか?」

「エルバンテという国の口車に乗せられた宰相たちが、女王を裏切ったという話だ」

「それで、エルバンテ軍の戦力とかは分かりますか?」

 いきなり核心を聞いてきた。

「戦闘船は2隻だけという話だ。あとは輸送船に兵士を乗せてきているらしい」

「兵士の数は?」

「そこまでは分からないが、船に乗せるだけと考えても1万人ぐらいじゃないか」

 適当に答えておく。

「それで、良く両国を落とせましたね」

「ああ、どうも裏の交渉がうまい人物が居るらしくて、早い段階で部下を裏切らせているらしい。もしかしたら、この国にも既にエルバンテに寝返った者がいるかもしれないぞ」

「またまた、ご冗談を…」

「そう思っていたスノーノースとダリアンがああなった。冗談の一言では片付けられないだろう」

「はあ、まあ、そうですが…、ところで、ダリアンにあるという不老不死の薬はどうなったのでしょう?」

「さあ、そこまでの情報はないな。あれも伝説という噂もあるし、もし、あったなら既にエルバンテの手に落ちているだろう。モメデットも不老不死に興味があるのか?」

「あっ、いえ、そんな事はないですが、あくまで噂ですし」

 きっと、鼠族の王のヨークハイトから、俺たちが不老不死の薬を探しているから、その情報も手に入れるようにと言われているのだろう。

「それで、明日、王宮に行かれる事で良いでしょうか?」

「ああ、それで頼む」

 モメデットは、そそくさと部屋を出て行ったが、外に居る連絡係に今の情報を伝えるつもりなのだろう。

 入れ替わりに入ってきたのは、人族の侍女たちだった。

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