第56話 ネルエランドからの脱出

 俺たちの後ろを騎馬隊が追ってくる。だが、キチンは騎馬よりも速いし休憩も少なくて良い。

 徐々に俺たちが引き離したが、今度は前を見ると関所があり、門が閉まっている。その上には兵士が弓を構えていた。

「ミュとネルはファイヤーボールで塀の上の弓兵に対処、マリンはウォーターリングで門を破れ」

「「「了解」」」

「「ファイヤーボール」」

 ミュとネルがファイヤーボールを塀の上を目掛けて投げつけると、塀の上に居た弓兵がことごとく黒焦げになる。

「ウォターリング」

 マリンが水のリングを出し、門に向かって投げると門が粉々に破壊される。

 その門を潜って、関所の反対側に抜けた。

 その後ろを関所の兵士たちが騎馬で追ってくるが、やはり俺たちには追い付けない。

 後ろが見えなくなったところで、川の畔にキチンを降ろし、休憩する。

 キチンも生き物だ。水と餌と休憩は必要だ。

 だいぶ離したと思っていたが、遥か彼方に砂塵が見えた。

「やつらも、しつこいな。まだ、追ってくる」

 急いでキチンを駆り立て、再び逃走する。

「アリストテレスさん、聞こえますか?ヨークハイトが死にました。それで我々は相手に追われています。ミサイルの使用をお願いします」

「了解。陛下の位置と相手の位置を確認しています。そこから逆算してミサイルを撃ち込みます」

「すまないが、お願いします」

 俺たちは、また追ってくる軍を引き離した。その時だ、空の上に光る物体を見た。

 ヤマトから発射されたミサイルが来たのだろう。

「ミサイルが来る、先を急ぐぞ」

 俺が言うと、全員がキチンの手綱を叩いた。

 ミサイルが爆発してもエリスとミュの結界があれば、問題はないが、地形が変ってしまうため、その後の走行が出来なくなってしまう。

 もし、ミサイルの爆発で無事な兵士がいたら、そこで追いつかれてしまう可能性もあるので、出来ればミサイルからは離れたい。

 ミサイルは俺たちの遥か後ろに飛んで行ったと思った瞬間、物凄い爆発音が後方から聞こえた。

「ドドーン」

 後ろを振り向くと、後方に砂塵が上がっている。

「よし、もう少しだ。急ぐぞ」

 再び追手が来ることも考えられるので、ここでぐずぐずしてはいられない。

「陛下、4軸垂直離着陸機を発進させました。どこか広い場所で回収します」

 アリストテレスさんが、衛星電話で通話してきた。

「了解。4軸垂直離着陸機が見えたら、そこに移動する」

 しばらく走ると草原があり、そこで4軸垂直離着陸機に回収して貰う。


「それで、ヨークハイト王が亡くなった後はどうなるのでしょう?」

 マリンが聞いてきた。

「うーん、そこまでは分からないな。宰相が実権を握るのか、それとも別の人物が立つのか、ノンデイル将軍という事も考えられる」

「ノンデイル将軍が王になれば、ちょっとは違ってくるのでは?」

 ラピスが言うが、それだとこの国にも期待が持てる。

「陛下、ご苦労さまでした」

 4軸垂直離着陸機の扉が開くと、アリストテレスさんが顔を出した。

「「「お父さま、お母さま、おかえりなさい」」」

 アヤカ、アスカ、ホノカの三姉妹も出迎えてくれた。

 今、俺たちは4軸垂直離着陸機を降りて、迎えに来た陸亀ホエールの上に居る。

「そういえば、ネルはアヤカたちと初対面だったな、これがアヤカで、これがアスカ、そしてこれがホノカだ。それで、こっちがネルエディット、通称ネルだ」

「えっ、えっと、この子がアヤカちゃんで、こっちがアスカちゃん、そして、こっちがホノカちゃんね、私がネルエディットです。よろしくお願いね」

「「「お母さま、よろしくお願いします」」」

「ネル、母親となったからには三人の区別が付かなければならないが、分かるか?」

 それを聞いて、娘たちが立ち位置を変えた。

「えっと、えっと、こっちがアヤカちゃんで、こっちがアスカちゃんで、それでこっちがホノカちゃん」

「「「ブー、外れ、フフフ」」」

「えっー、外れ」

「ね、ミュは分かるの?」

「分かります。これがアスカで、こっちがアヤカ、それでこっちがホノカです」

「「「正解です」」」

「えー、何で分かるの?」

「母親なら当然です」

 なんだか、ミュが誇らしげだ。

「マリンは?」

「私もちょっと……」

「エミリーも?」

「私は分かります。だって三人を取り上げたのは私ですから」

「えー、そうなんだ」

「エミリーも自分の子が欲しいわね」

「え、ええ、まあ」

 追っ手から逃げきれたからか、陸亀ホエールの上では和やかな雰囲気になっている。

 陸亀ホエールはサン・イルミド海峡に停泊しているミズホの上空で停止し、4軸垂直離着陸機で隊員以外を残して、ミズホへ移動した。

 ミズホから今度はヤマトへ移動する。ヤマトはミズホより小さいので、4軸垂直離着陸機では移動出来ない。

 そのため、ミズホからは小型船で移動することになる。

 ヤマトに移動すると、エルバンテから来た全員が居た。

「「「「「「陛下、お帰りなさいませ」」」」」」

 クルー全員が挨拶してくれる。

「婿殿お疲れだったのう」

「義父上、ご心配をおかけしました。ラピスも無事で良かったです」

「なに、エリスさまとミュが居れば問題はなかろう」

 えっと、俺が役に立たないことは、既に分かっているという事か。

「それで、こっちがネルさんか。儂がラピスの父で婿殿の義父になる、ジェームスじゃ」

「はい、義父上、よろしくお願いします」

 ネルを全員に紹介した。

「ところで、その手に持っている箒は何じゃ?」

 ネルが手に持っている箒が不思議なようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る