第49話 キバヤシ市
「いえ、その村の最後の人が私になります。村人は流行り病で亡くなりました。私もその病に患りましたが、私は死なずに、どうにか生き残りました。
そして、誰もいなくなった村を後にして、このエルバンテの街に出てきたのですが、そこで助けてくれたのが今の主人です」
そこからは、アールさんが話す。
「まだ、私の両親が生きている頃の話です。私はまだ若く、店の若旦那として父親について商売の修行中でした。
ある日の朝、店を開けようとして、裏口から出て来たところに人が倒れていました。
それがフェイユです。フェイユは着ている物は見すぼらしく、最初は女性とも思えませんでした。
とにかく息があったので、丁度出て来た、そう、その頃はまだ丁稚奉公だったイオゲルと一緒に店の中に運んで介抱しました。
ですが、フェイユの身体をきれいにしようと思い、服を脱がすとエルフだという事が分かりました。
エルフ族は見つかると憲兵たちに連れて行かれます。両親と私、それにイオゲルはその秘密を守り、フェイユを匿いました。
フェイユは元気になると店の裏方の仕事を手伝うようになりましたが、フェイユは商売の判断が的確で、私の店はエルバンテの大店と成る事が出来ました」
「主人とご両親、それにイオゲルは私に良くしてくれました。私は、エルフ族がこの世界に認められない事は知っていましたので、特に私に優しくしてくれた主人に嫁ぐ事にしました」
「フェイユは、私に嫁いでも、店の切盛りをやってくれましたが、陛下が同じ呉服店を出されたのをきっかけに、この世界でフェイユを外に出してやりたいと考え、店を畳む事にしたのです。
今のままだと、フェイユの世界は、この店の中だけでしたから」
「ですが、陛下がこの世界を変えて下さったおかげで、私も外に出れるようになりました。その事は感謝しておりますし、このような事業にも携われて、私たち夫婦は幸せ者です」
俺とネルは二人の話をしんみりとして聞いた後に、アールさんとフェイユさんの所を後にした。
「ご主人さま、次はどちらへ?」
「キバヤシ州にあるキバヤシ市に行こうと思う」
「どうやって行くのですか?」
「この先の駅から、地下トンネルを通って行く、高速列車が出ているからそれで行くかな」
「へー、そんなのがあるんですか?楽しみです」
俺たちはタクシーで駅に行き、高速列車に乗った。
キバヤシ州はサン・イルミド海峡の海底トンネルを抜けると、30分程でキバヤシ市に着く。
そこでまた、タクシーで代官邸を目指す。
昔と違って、代官邸は開かれているので、中庭までだったら誰でも入る事が出来る。
だが、その先は厳重な警備になっている。
「失礼、シュバンカを呼んで欲しいんだが…」
俺は警備兵の所に行って、そう伝えた。
「いきなり来て、代官を出せとはお前は何者だ」
「えっと、俺は皇帝のシンヤだが…」
「「ははははは」」
警備をしていた2名の兵士が笑った。
そうだよな、俺の顔も知らないし、ネルしか連れていないので、通して貰えないよな。
その時、一人の侍女が館に入るのが目に入った。
「おーい、ウーリカ」
「こ、こら、第一侍女長のウーリカさまに対して、呼び捨てなどと…」
ウリーカがこちらに来た。
「ウーリカさま、すいません。直ぐに追い払います」
「何だ、皇帝がこんなところで、ブラブラしていていいのか?」
ウーリカが「皇帝」と呼んだので、警備兵が目を丸くしている。
「今、入れてくれるように交渉していたところだ」
「そうか、ならさっさと入れ。ところで隣の女は誰だ?」
「ああ、それは部屋に行ってから話す」
「あ、あのう」
「ああ、こいつはこの国の皇帝をやっている「シンヤ」というやつで、一応、代官の雇い主になっている。
ちょっと、通るがいいか」
「……、どうぞ、どうぞ」
うん、この言葉、どこかで聞いたような。
俺はウーリカに連れられて、シュバンカの所に向かうが、すれ違う人が横に避けて、全員が頭を下げている。
「ご主人さまは凄いです。すれ違う人みんなが、頭を下げているなんて」
「いや、これはウーリカに対してだと思うぞ。入り口の所の対応を見れば分かるだろう」
「トントン」
ウーリカが、ある部屋の扉をノックした。
「はい」
中から、侍女が扉を開ける。
「あっ、ウーリカさま」
それに続いて、俺とネルが部屋に入る。部屋の中では、官僚らしき数人がシュバンカと話し中だった。
その後ろには、その官僚の部下らしき役人の数十人が書類を持って立っている。
机に向かって来た俺たちを見て、席に座っていた官僚が立った。
「あら、シンヤさま、お戻りになったのですか?」
官僚の後ろに立っていた役人が、「えっ」とした顔をする。
それと同時に、席を立っていた官僚が全員跪いた。
「コラ、皇帝陛下の前で失礼にあたる。直ぐに跪け」
官僚の一人が言うと、同時にその場に居た全員が跪いた。
「あなたたちも、シンヤさんが居る方が肩が凝るでしょうから、席を外して貰っていいわよ」
シュバンカの言葉を聞いて、官僚たちが部屋を出て行き、残ったのは俺とネルとシュバンカにウーリカだ。
「うちの主人に、身体が訛っているからほぐして来いって言ったら、嬉々として北の国に行っちゃって。もう、しょうがない人」
「ははは、凄く楽しんでいましたよ」
「ところで、隣の人は?」
「えっと、6番目の妻のネルエデッィトです。ネルと呼んで下さい」
「……」
「皇帝、懲りないな、お前は」
ウーリカに窘められた。
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