第50話 ネルの休日
しばらく、シュバンカとウーリカを含めて世間話をして、再び高速鉄道で首都エルバンテ市に帰ってきた。
「今度はどちらに行きます?」
「そうだな、市場に行ってみようと思う」
「エルバンテの市場は旧市街にある昔からの市場で、いつも賑わっているんだ」
ネルに説明しながら、市場への道を歩く。すると、道を歩いている人々が両方に分れだした。
不思議に思って見ていると、前から馬に乗った立派な人が来ている。
どうやら、憲兵長官自らの市内視察らしい。
その憲兵長官の顔には見覚えがある。歳を取り、顔にしわが増え、頭も白髪になってはいるが、チェルシー憲兵長官だ。
チェルシー憲兵長官はエミリーの父親だが、そろそろ引退だろう。エミリーが早く、孫の顔を見せてやりたいと言っていた。
俺はここで見つかると騒ぎになると思い、ネルを連れて横道に隠れた。
俺たちが隠れた横道から大通りを見ていると、チェルシー長官の後ろには、副長官のアルジオも居る。
二人はそのまま通り過ぎるかと思われたが、俺たちが隠れている横道の所で止まるとこっちを見た。
しっかり、バレている。
だが、二人は軽く手を挙げただけで、そこを通り過ぎる。どうやら騒ぎを起こしたくないのは、向こうも同様だったようだ。
チェルシー長官たちが行った後に市場に向かう。市場では、いろんな食べ物が売られており、ネルと歩きながらそれらを食べて回る。
「ご主人さま、美味しいです」
「血とどっちが美味しい?」
「えっと、血の方で…」
即答だった。
市場で軽く腹を満たした俺たちは、教会の方へ行った。
昔の教会には聖結界が張られていたが、今の教会にそのようなものはない。なので、悪魔族であるネルも普通に入る事が出来る。
俺たちが教会に入ると、女性の助祭が待っていてくれた。
「司教さまからお聞きしています。どうぞこちらに」
俺たちは案内されて、司教室に行く。
扉をノックしようとすると、中の方から扉が開けられた。
「どうぞ、お入り下さい」
「アーデルヘイトさん、分かっていましたか?」
「ええ、なんとなく」
アーデルヘイト司教は女性の司教であり、未来に起こる事象を感知する力を持っている。
だが、遠い未来までは分からないそうで、分かるのは数十分ぐらい先までとの事だ。
「陛下、今度は北の国へ行かれたとか」
「ええ、北の国では2か国がエルバンテ国に同調してくれました。
しばらくすると、住民たちがこちらの国へも来るでしょう。ですが、文字とかを教えなければならず、最初は大変です」
「それで、まだ北の国でのお仕事はあるのですか?」
「ええ、もうしばらくかかりそうです。今は軍を中心として治安維持に努めていますが、官僚を送ったので、混乱も収まるでしょう。
ところで、アーデルヘイトさんは、たしか中央教会への栄転の話があると聞いていましたが…」
「そちらは、断りました。私はこの地が好きですし、今更、中央に戻る気はありません」
アーデルヘイトさんに北の国の話とネルを紹介して、俺たちはエルバンテ教会を後にして、トウキョーにある自宅に戻った。
すると、既にミュが帰ってきており、キッチンで夕食の支度をしている。
それを見て、驚いたのがネルだった。
「ミュ自身が、夕食の支度をするのですか?」
「ご主人さまに毒のある物を食べさせる訳にはいきませんから、夕食は私たち嫁が作ります」
ネルの疑問にミュが答える。
「そ、それでは、私も…」
ネルは手が不器用だ。夕食を作ると言っているが、本当に作れるのだろうか?
「ガチャーン」
早速、皿の割れる音がした。
「もう、ネルはいいですから、あっちに行って下さい」
「いえ、私にも何かやらせて下さい。妻として、主人のために何かやるのは悪魔の努めです」
それは違うと思うぞ。
ミュもその気持ちが分かるのだろう。それからは、細かく指示を出している。ミュは人に教えるのが上手だから、ネルもそう遅くならないうちに料理が出来るようになるんじゃないか。いや、なればいいな。
俺が食堂の横にあるカウチでTVを見ていると、嫁たちが帰ってきた。
最初に入って来たのは、エリスだ。
「あら、ミュごめんね。手伝い出来なくて」
「いえ、ネルが助けてくれたので大丈夫です」
「ネルが助けた」と聞いて、ネルも満更ではなさそうだ。
「「ただいま」」
今度は、エミリーとマリンも帰ってきた。
「タケルはどうした?」
「まだ学院のドミトリー生活ですよ。たしか、来年から自宅通学が許されると思いました」
「そうなのか、では、この7人で食事としよう」
俺たちは7人で食卓を囲んだ。
ネルは今日あった事、聞いた事を他の嫁たちに話をしていく。
「エリスはネルの話の事は知っていたか?」
俺が500年前の事をエリスに訪ねる。
「知っていたけど、ネルの方が詳しいわ。私に与えられる知識は歴史の年表みたなものだから、実際に体験した人には遠く及ばないわ」
エリスは前の女神だった先代エリスのクローンで、培養液の中で20年育てられた。
その時に神の知識として脳内に今までの知識が全て与えられる。
だが、それも中には断片的なものしかない時もある。
夕食が終わり、風呂に入ると寝室に行く。
その夜、俺は嫁たちから体力の限界を知らされる事になった。
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