第48話 500年前の戦争

 ショッピングセンターにあるミュ・キバヤシ本店に行くと、社長のアールさんと、副社長のフェイユさんが居た。

 二人に、新しく妻となったネルを紹介する。

 ネルにも二人を紹介する。

「エ、エルフ族…」

「ネル、どうした?」

「500年前の大戦の時、エルフ族は北の国に逃げて来たはず…」

「何?」


 ネルが500年前の大戦の話をした。

 それに合わせて500年前のネルの事も聞いてみる。

 ネルは500年前はエルバンテ帝国になる前のカーネル国に住んでいたという事だった。

 そこには悪魔族も住んでおり、悪魔族は人々の生を吸い取る事で生活していたが、ある時その事が住民に知られる事になった。

 悪魔族が人の生を吸い取る事が分かった街はパニックになり、悪魔族追放の狼煙が上る。

 だが、それに悪魔族も反発した。各地に散らばっていた悪魔族は集結し、人族と対立するようになり、ついには紛争に発展してしまう。

 最初は小さな紛争だったが、それは徐々に大きなものに拡大していく。

 そして、大陸を2分する大戦へと発展していったという事だ。


 だが、その紛争に否定的だった者も居る。まず、獣人と呼ばれる種族はその紛争に否定的な立場を取り、両方に加担しないとし、中立の立場を保った。

 この中には、エルフ族やドワーフ族も含まれる。

 反面、それは人族の怒りを買う事になり、後にではあるが、獣人は人族から迫害され、国を追われる事になる。

 敗れた悪魔族も同じように、国を追われるが、悪魔族はその後にも人族から指名手配され、見つかると死刑になった。


「ネル、悪魔族の魔法力は人族に比べ、非常に強いが、それでも負けたのか?」

「ええ、人族はなにせ兵の数が多かったですし、人族の中に勇者と女神さまが現れました。それに、悪魔族にも裏切りが出て、悪魔族は一枚岩ではなかったのです」

「人族は魔王と戦ったと聞いているが…」

「魔王ではなかったです。普通の悪魔族でした。オーロラも悪魔族の仲間でした。その時、オーロラは『雪の女王』なんて呼ばれていました」

 へっ、もしかして童話にある、雪の女王か?

「悪魔族はどれくらいの兵だったんだ?」

「正確には分かりませんが、大体10人ちょっとだったはずです」

「えっ、10人と数万人で戦ったのか?」

「人族は数十万人ですね」

「それで、女神はエリスの事だろう、悪魔族の裏切りってミュの事か?」

「そうです。噂では、今のミュの母親が勇者に篭絡されたらしいです」

「勇者の名前って知っているか?」

「私は紛争が起こって直ぐにネルエランドの方に非難したので、悪魔族として戦っていませんでした。そして直ぐに眠りに就き、目が覚めたら、人族の国で戦争があったと聞いただけです」

「それで、悪魔族を率いていた者は倒された?」

「悪魔族を率いていた、『デーモン』という悪魔は、倒されましたが、それ以外の悪魔族は逃げたと聞いています」

「しかし、ミュの母親は?」

「ミュの母親は勇者が生きている間は、それこそ丁重に扱われていましたが、その孫の代になると、やはり悪魔族という事で徐々に迫害されるようになり、そのうち、王都を捨ててどこかに行方をくらましたと聞いています」

 以前、遥か東の方に居たミュの母親には、そういう理由があったのか。

「ネルは大丈夫だったのか?」

「私は、死にませんし、今のネルエランドに居ましたので、戦火に関係はなかったです。」


「前置きが長くなった。それで、エルフ族は?」

「人族隊悪魔族の戦いは集結しましたが、人族は多くの人が亡くなりました。ですが、獣族やエルフ族、ドワーフ族は戦いに加わらず、早々と非難したこともあり、殆ど被害はありませんでした。

 こうなると、人族は何故加担してくれなかったのかと、中立を守った者たちを非難するようになり、ついには迫害するようになりました。

 獣族たちは王都から遠くに逃げましたが、エルフ族は人族と交易があり、人族との貿易で多大な資産を持っていたが為に特に迫害され、ついには王国領土を出たと聞いています」

「つまり、エルフ族は人も出さないし、金も出さなかったと…」

「そういう事だと思います。そして、エルフ族は、私の国であるネルエランドにやってきました。エルフ族だけではありません。獣族も多くやってきました。

 しばらくは、ネルエランドで暮らしていましたが、今度は鼠族がやって来て、前からそこに居た住民たちは迫害されるか、北の地へ追いやられました。

 エルフ族は更に北へ行ったと聞いた事がありますが、今も生きているのかどうかは分かりません」

「鼠族は、どうして後になって逃げて来たんだ?」

「戦争に勝利した人族は破壊された国を立て直す事にし、勇者は率先して働きました。そこに資産を蓄えていた鼠族が協力するとして、加わりました。

 ですが、ある程度国の形になった時に、鼠族はその正体を現しました。

 勇者を殺して、国の実権を握ったのです。ですが、それは女神エリスと悪魔族の生き残りだったミュの怒りに触れました。

 二人の怒りは凄まじく、サン・シュミット山脈とサン・イルミド川が交わる辺りで対立し、女神エリスとミュの魔法で、サン・イルミド川の地形が変わったと言われています。

「そこはもしかして、大きな滝になっているとか?」

「そうです、ご主人さまは、良くご存じですね」

 げっ、あの大滝は前のエリスとミュの母親によって造られたのか。

「その時、敵になっていた鼠族、豚族、鼬族の連合軍のうち、生き残った者は北へ逃げ、ネルエランドにやって来て、先に逃げて来ていたエルフ族などを迫害し、ついには追いやって自分たちの国を建てたのです」

「そ、それでエルフ族の行方は分からないままなのでしょうか?」

 フェイユさんが聞いてきた。

「エルフ族は美男美女ばかりです。嫌でも目立ちますが、その行方は知られないままです。反対にどうして、エルフ族の方がここに居るのでしょう?」

 今度はフェイユさんが話し出す。

「私も両親から聞いた話です。その大戦が終わり、しばらくは平和な日々が続いたという事ですが、そのお話にあったように、勇者が死ぬと中立を守ったとして、迫害されるようになり、獣族やエルフ族などは徐々に地方に移り住むようになりました。

 ですが、迫害は酷くなる一方で、楽園と言われた北の国を目指して、多くのエルフ族は移住していったそうです。

 ですが、一部のエルフ族だけは、その移住の船に乗れず、今のエルバンテ領内の片田舎に住むようになったと聞いています。

 ですが、エルフ族だと分かるとまた迫害を受けると思い、街から離れた場所に村を造り、自給して決してエルフ族と分からないようにして生きてきました」

「それでは、フェイユさんの仲間はまだ居るのですか?」

 もし、村があれば街で生活させたい。

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