第29話 新しい妻

「ご主人さまは私に接吻をして長い眠りから目覚めさせてくれました。私は永久にご主人さまのものです。

 さあ、ご主人さま、今から永遠の誓いを交わしましょう」

 嫁たちを見ると全員の目が吊り上がっている。今夜は、また荒れそうだ。

「ちょっと、意味が分からない。もう少し、分かるように説明してくれないか?」

「先程も申しましたように、ご主人さまは、私に接吻をして下さいました。

 眠れる女性を起こすのは、昔から殿方の接吻と決まっております」

 いや、そうじゃないだろう。それは眠れる森の美女のお伽話であって、真実ではない。

 女王さまの話は続く。

「接吻をした以上、私たちは永遠を誓い合った仲です。私と一緒に未来を生きましょう」

「いや、待ってよ。永遠を誓い会うってどういう事だ?」

「私が今から、ご主人さまの血を吸います。するとご主人さまも私と同じバンパイヤになれます。

 そして、ご主人さまが私の血を吸う事で、永遠の命を得られます。

 そうやって、二人永久に生きていくのです」

「「「「「却下」」」」」

 嫁たちが、却下した。

「貴方たちは何者?部外者は黙っておいて頂きたいわ」

「私たちはシンヤさまの妻です。夫の命を守るのは妻の努め、あなたに自由にさせません」

「あらー、既に妻が居たのね。でも、いいわ、どうせ先に死ぬのだし、それから私と一緒に暮らせる年月の方がずっと長いわ」

「あなたなんかに、シンヤさまは渡せないわ」

 エリスが嫁を代表して言う。

「そうだ、俺だって、永遠の命なんていらない。人間は命に限りがあるから輝けるんだ」

 俺がそう言うと、女王陛下が後ずさった。

「今まで、永遠の命を求めて、この国に戦いを挑んで来た者はいたのに、ご主人さまはその永遠の命が要らないと言うのですか」

「そうだ、俺は死ぬときは、この嫁たちに看取られて逝きたい」

「ご主人さま、それはだめです。私も一緒に逝きます」

「いや、ミュにはアスカのために残って貰いたい。アスカが俺だと思って一緒に生きてくれ」

「ご、ご主人さま」

 ミュが泣く。


「こうなれば、力ずくで、ご主人さまを私のものにします」

 女王さまが、こちらに進み出た。

「聖バリア」

「きゃっ」

 女王さまがエリスの張った聖バリアに弾かれた。

「「女王さま」」

「「「女王さま」」」

 女王陛下に侍女たちが駆け寄る。

「そ、その者はもしや…」

「神の名の元にバンパイヤを退治します」

 エリスの手に白い光が集まりだした。

 だが、侍女たちが女王陛下の前に立ち、両手を広げている。

「退きなさい、で、ないとあなた方も退治されます」

「いえ、女王陛下は、この国と人民を救って下さいました。その女王陛下を見捨てる事はできません」

「シクシクシク」

 女王陛下が泣きだした。

「私はご主人さまの血が無ければ、また長い眠りに戻らなければなりません。もう一人でこの冷たい石棺に眠り続けるのは嫌です。シクシクシク」

 女王さまは、また泣き出した。

 エリスがそれを見て、手に集まっていた光がなくなった。このように慈悲深いところはやはり神だ。

「お願いです。女王陛下にシンヤさまの血を下さい」

 侍女たちがお願いしてきた。

「それは認められないわ。血以外なら考えなくもないけど」

 エリスの言葉に他の嫁たちも頷いている。嫁たちも女王を気の毒に思ったのだろう。

「血以外ですと、精でも良いです」

「「「「「えっ」」」」」

「いやー、それはちょっと」

 俺も精は無理だ。第一嫁たちが何と言うか。

「しょうが、ないですわね」

「そうですね」

 ラピスとエミリーが承認した。

「兄さまが人の役に立つならマリンは我慢します」

 マリンも承認した。

「そ、そうね。でも、何かあったらいけないから、全員で立ち会うわ」

 ミュを見ると、

「私もご主人さまが良いなら、ご主人さまに従います」

 ミュが私と言っているという事は、怒っていないと言う事だ。


 結局、全員で宮殿から王宮に戻る事になり、翌朝、俺たちはキチンで、女王さまは馬車に乗って来た道を戻って行った。

 王宮に戻ったら、ワイシコフ宰相以下が驚いて迎えてくれる。

「じょ、女王さま、どうしてお目覚めに…」

 その問いには侍女のソーチャが答える。

「では、今から寝室に入ります。決して出て来るまで開けてはなりません」

 女王陛下が、そう言うと、俺たちは寝室に入った。

 結局、一人で済む訳もなく、俺はフラフラになるまで奉仕することになり、それは朝になっても終わらず、結局夕方まで続いた。

 俺もこの歳になったので、身体には無理があったが、俺がダメになる度にエリスが回復魔法をかけるので、夕方までスル事が出来たのだった。

 そして、太陽もかなり沈み始めた頃、寝室から出てみると、祝いの席が設けられていた。

「ワイシコフ宰相、これは?」

「はっ、陛下のご結婚のお祝いでございます」

「「「「「却下」」」」」

「可哀想だと思ったから、精をあげる事は許したけど、妻にする事までは許していません」

「「「「そうです」」」」

 嫁たちも嫁にすることは、反対のようだ。

「でも、定期的に精を貰わないと長い眠りに就いてしまいます。どうか、お願いします」

 その言葉を聞いて、ワイシコフ宰相以下、全員が土下座している。

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