第28話 ピラミッドの美女
翌朝、宰相に拝謁した俺たちは、昨夜の事を言ってみた。
「それで、女王陛下に拝謁したいと考えております」
「陛下は、ここにはいない。ここから約1日のところにある、建造中の宮殿におられる」
「では、そこを訪ねてみます」
「それならば案内をつけよう。『ソーチャ』」
呼ばれたソーチャという女性が、一歩前に進み出た。
「聞いていたな?シンヤ殿たちを陛下の宮殿までご案内しろ。ついでに陛下のご様子と面倒も見て来てくれ。
前に訪れてから、そろそろ30日になるからな」
「ご命令、承りました」
「それから、シンヤ殿、このソーチャは陛下の侍女となっている。何かあれば、ソーチャに聞かれるが良い」
ソーチャという女性は20代前半だろうか。北の国のためか肌が透き通るように白く、髪は黒色だ。
白い肌に赤く見える唇が、蠱惑さを感じる。
翌朝早く、ソーチャの案内で、女王陛下の宮殿に向かう。
ソーチャは、こちら特有のがっしりした馬に乗って行く。
そして、夕方になる頃に見えて来たのはピラミッドだった。
「あれは、ピラミッド」
「ピラミッド?いえ、あれが宮殿です」
俺の居た世界で、ピラミッドと呼ばれていた三角錐の建造物が道の先に見える。
ピラミッドの麓に到着するが、そこでは、たくさんの労働者が働いていた。
「シンヤさま、100年かけてここまで建造できました。後数年で完成する予定でございます」
100年もかけてピラミッドを作ったのか。しかし、それで、宮殿とはどういう事なんだ。
もしかして、女王陛下は既にミイラになっているんじゃないだろうか。
ネルエランドで聞いた、女王が血を吸うとはミイラの事だったのではないだろうか?
そう考えれば合点がいく。
昔のエジプト人も王の復活を信じていたということだし、あながち間違いではないのかもしれない。
宮殿の見張りをしている兵士に宮殿内に立ち入る事を告げ、ソーチャに案内されて中に入る。
中はいくつかの通路があるが、ソーチャは迷う事なく、その通路を行く。
俺はピラミッドの中に入った事は無いが、聞くところによるとピラミッドの中にも隠し通路や隠し部屋があるということなので、同じような物かもしれない。
そして、ひときわ大きな部屋に来るとその真ん中に石棺が置かれていた。
やはり、ミイラなのだろう。
ここには宮殿付の侍女というのが居て、俺たちといっしょに部屋に入ってきて、掃除をしている。
掃除が終わると、石棺の手入れをし出した。
「これより、石棺を開けます。女王陛下に拝謁する者は近くに、お進み下さい」
いや、ミイラなんて見るのはちょっと怖いぞ。ホラー映画のように、起きてきたらどうするんだ。
俺が尻ごみしていると、ソーチャが、
「シンヤさま、もっと前へ、そこでは陛下に拝謁できません」
「は、はあ」
嫁たちを見るが全員、ミイラだと思っているのか、誰も近くに来ない。
仕方ないので、俺が代表で石棺のところに行く。
「では、開けて下さい」
ソーチャが指示すると、侍女たちが台車と蓋を開ける専用のフォークリフトのような物を持ってきて、簡単に開けてしまった。
これがミイラだと、中に棺桶があるのだが、棺桶はなく、そこには白いマットに寝かされた、黒髪に肌の白い美しい女性が眠っていた。
この女性も、白い肌に赤い唇が特徴的だ。
そして、美しい。
俺の嫁たちも美しいが、それにも引けを取らないぐらい美しい。思わず、目が釘付けになってしまう。
「シンヤさま、女王さまってどんな方?」
静寂の間にいきなりエリスの声が響いた。
「わっ」
「「「「「あっ」」」」」
俺はエリスの声にびっくりして、中を覗き込んでいた棺桶の中に落ちた。
だが、落ちただけではない。眠っている女王陛下の唇と唇が合わさってしまった。
これはキスだが、意図があってした訳ではない。単なる事故だ。
俺は目を開いたままだったが、その時に女王さまの目も開き、俺と目が合った。
「ひっ」
俺は息を飲み込んだが、その時に女王さまの息が俺の身体の中に入ってきた。
「むむむ」
俺は、嫁たちに助けられ、棺桶の中から出た。
「シンヤさま、女王陛下に触ったでしょう」
「あれは、エリスが急に声をかけるからじゃないか。まったく、死人とキスをしたのは初めてだ」
「え、何ですって」
「いや、事故だ、事故」
「シンヤさま、今、何と。陛下と口づけされたとか」
「いえ、不可抗力です。そうです、事故なんです」
俺たちが、その場で揉めはじめた。他の侍女もジト目でこちらを見ている。
その時だ、石棺の中からひとりの女性が起きてきた。
「「「「「女王陛下」」」」」
ソーチャを始めとする侍女たちが跪く。
俺たちはポカンとして、その光景を見ている。
起きた女王陛下は、侍女たちに向かって言った。
「踏み台を持て」
その声は、温かみがあり、優しく心に語り掛けて来る声だ。
侍女が踏み台を石棺の中と外に設置すると、女王陛下はその踏み台を使って外に出てきた。
着ている白いドレスが妖艶な感じがする。
石棺の前に立った女王陛下は、真っすぐに俺の方に来た。
「ご主人さま、これからよろしくお願い致します」
「へっ、ご主人さま?」
「却下!」
そう言ったのはミュだ。
「ご主人さまと呼んで良いのは私だけです。他の人は別の名で呼びなさい」
「いや、そうじゃないでしょ。どういう事よ」
嫁たちが俺に説明を求めるが、俺だって分からない。
「い、いやー、どういう事なんだろうね」
俺はそう言うが、女王陛下は顔色も変えない。
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