第27話 不在の女王
「少々待たれよ、今から宰相に連絡をしよう」
ラミトリウスはそう言うと、魔道具の電話を取り出した。
この魔道具は俺たちの国では教会で使われていたが、俺たちの国以外で初めて見た。
「宰相がお会いになられるそうだ。この村の裏から出ている道を行くと良い」
「村長、このまま行かせても良いのですか?」
「男1人に女5人、あの者たちの中に髪の黒い者がおったな。あれは悪魔族の可能性が高いし、それに俺の心を読もうとてしている者も居た。
あのシンヤという者だけでなく、他の連れも只者ではないだろうよ。
下手に手出しすると、この村が全滅する事にもなりかねんし、あの男の言葉に偽りがあるとも思えなかったしな」
俺たちは翌朝、ボダービ村を後にし、王都への道を行く。
ボダービ村を出ても、針葉樹の変わらぬ風景が続く。
時々、小型の魔物が出るが、俺たちの相手になるほどのものではない。
3日後、俺たちは王都の入り口に着いた。
門兵が検閲しているところが検閲所だろう。俺たちもその列に並ぶ。
俺たちが乗っているキチンが珍しいのか、並んでいる人たちがこっちを見ている。
こちらの馬は俺たちの国の馬と違い、がっしりした身体つきをしている。
これも寒さに耐えるためかもしれない。
「シンヤ・キバヤシか、宰相から聞いている」
そう言って、検閲所を通過して、街に入ると、ネルエランドとは比べ物にならない街があった。
道は全てが石畳になっており、街もきれいだ。
住んでいる人も生き生きとしており、これもネルエランドの抑圧された人々とは比べ物にならない。
俺たちはそのまま、中央にある王宮に向かう。
王宮でも兵士に宰相への面会を求めるが、すんなりと通される。
「以外と友好的ですね」
ミュが言うが、俺もそう感じている。
そして、謁見の間に行くと、玉座には誰もおらず、その横に宰相が立っていた。
「シンヤ・キバヤシと申します。お初にお目にかかります」
「私は宰相の『ワイシコフ』と言う。遠路はるばる良く来られた」
「ところで、国王陛下がお見えになりませんが?」
「陛下はここには居られない。別の場所にてお休み中だ」
「ご病気か何かでしょうか?」
「いや、そうではないが…。兎に角、陛下はお会いできぬが、貴殿たちは私の方で応対しよう」
その夜、王宮において、ささやかながら夕食会が持たれた。この場に国王やその家族が不在なのは、嫁たちも不思議がっていたが、それでも出てくる料理は山海の珍味があり、心づくしが感じられた。
「ネルエランドの国王陛下からは、我々に友好の使者として参るようにとの依頼でしたが、国交を築くお考えはありませんか?」
宰相のワイシコフに言う。
「100年ほど前ですが、ネルエランドから同様の申し入れがあり、その際に国交を持った経緯があります。
しかし、10年ほど経って、鼠人たちはわが国に亡命と偽り、押し掛けてくるようになりました。
我々はそれを受け入れましたが、それを咎めたのが、ネルエランド国王です。
亡命者を引き渡すように求めて来ましたが、我々は人道的立場からそれを断りました。
すると、ネルエランド側は兵を出して王都に迫りました。王都では、亡命者が決起し、ネルエランドの兵士を王都に引き入れようとしました」
「なんと、それは本当でしょうか?」
「本当です。亡命者はネルエランドのスパイだったのです。亡命者はネルエランドに入って時間も経っていた事もあり、我々も信用していましたが、それが仇になりました」
「それで、その結果は?」
「女王陛下が強力な魔法力でどうにか押し返しました。それに懲りて、ネルエランドはしばらく大人しくしていたようですが、この度、何も知らない、シンヤ殿を遣わしたという事を考えると、恐らく、何かしらの考えがあるのでしょう」
「どうして、我々の事を信用したのですか?」
「一つは人族である事。人族は簡単に騙されやすい。2つ目は強い魔法力を持った方が居る事でしょうか?
女王陛下が不在の今、我々も強力な魔法力を持った方たちと相手をしたくない」
「なる程、そして出来れば自分たちの方に引き入れたいと…」
「正直に言えばそうです」
このワイシコフという宰相、なかなか核心を話してる。だが、どこまでが本当かは分からない。
「確かに、鼠族は信用できないかもしれませんが、あなた方だってどこまで信用できるかというと我々には判断できない。
第一、その女王陛下も見えない」
「女王陛下はその時に使った魔法力が強大だったため、今も眠りについておられます。そして、陛下には家族はおられませんでした。
我々はその陛下の元、何代にも渡って、この国を支えてきました」
その話は信用できるのだろうか。
「エリス、あのワイシコフという宰相の言った事は信用できるのか?」
俺は当てがわれた部屋で、嫁たちに聞いてみる。
「考えられない事ではないわ。強い魔法を使う者は、寿命は長いけど、それでも、人間で100年も生きているのは不思議だわ。
もしかしたら、冷凍睡眠とかになっているとか?」
冷凍睡眠という言葉に嫁たちの顔が引き攣っている。
「本当かどうか、その女王陛下のところに行って確認したいな」
「シンヤさま、本当に確認するだけ?」
「ミュは、ご主人さまに従います」
ミュが「私が」と言わず、「ミュ」がという時は、怒っている時だ。
「本当は、その女王さまを見てみたいんじゃないでしょうね」
ラピスよ、それは勘繰りすぎだ。
「もう、これ以上夫人は必要ありません」
エミリーよ、だから、そうではない。
「マリンは兄さまが所望されるなら、新しい姉さまが増えても構いません」
そう言うマリンは、実は腹黒いかもしれない。
俺は久々に地雷を踏んだ事を実感した。これで今晩は嫁たちによって、フラフラにさせられるだろう。
明日の朝は、また太陽が黄色く見えるかもしれない。
気が付くと、俺の周りに嫁たちが目をウルウルさせながら集ってきた。
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