第6話 捨て児

「ラピス、この先に何かあるか確認してきてくれ」

 ラピスはビビを上空に誘い、前方の方に飛んで行く。

 30分ほどすると、ビビに乗ったラピスが帰ってきた。

「旦那さま、この先に村がありましたが、人が居る様子はありませんでした。魔物の姿もありません」

 ラピスの報告を受け、俺たちもこの先にあるという村を目指した。

 1時間ほどで、村の入り口に着くが、正門は破壊され、人が住んでいる様子はない。

 その村に入ってみると、所々に死体がある。

 だが、死体は魔物か動物に食われており、とても直視できるような物ではない。

 村の奥に向かうと、キラーラット6匹が死体に群がっている。

 魔物だって生き物だ。死んだ者はどうであれ、餌にしかならない。

 それは人間だからとかというものではなく、これが自然なのだ。だが、見ていて気持ちの良いものではない。

 そのうちの一匹が俺たちに気付いた。

 死体に群がっていた他のキラーラットもこちらを見る。

「キィー、キィー」

 こちらを威嚇してきた。このままなら我々も通り過ぎる予定だったが、キラーラットが襲ってくるようなら、こちらも対処しなければならない。

「ゴッドアロー」

 俺はキューリットから貰った武器を取り出すと、ゴッドアローを射た。

 こちらに向かって来た、キラーラットにゴッドアローが命中すると、キラーラットの頭が吹き飛ぶ。

 それを見た他のキラーラットは、どこかに隠れてしまう。


「おーい、誰か居るか?」

「…」

 返事がない。もう一度、呼んでみる。

「おーい、誰か?」

「…」

 やはり、返事がない。

 俺たちが助けたシシバ村で、隣村が猪牛に襲われ全滅したという話があったが、恐らくこの村がそうなのだろう。

 村の建物が、何か衝突したような壊れ方をしている。

「どうやらここが、シシバ村で聞いた猪牛に襲われて全滅したという村のようだな」

「シンヤさま、ここで亡くなった人たちを天国に送ってやりたいと思うけど、良いかしら?」

「俺もそうしたいと思っていた。エリス頼めるか」

「それでは、直ちに。神の名において、彷徨える魂を浄化したまえ。ゴッドプリフィケーション」

 エリスが唱えると村全体を白い光が覆った。すると、地面に横たわっていた遺体が白く包まれ、その遺体が地面に吸い込まれるように消えていく。

「さて、行くとしようか」

 俺と5人の妻たちは全滅した村を後にした。


 王都へ向かう道を一列になって進んでいると、陽が傾いてきた頃、別の村が見えてきた。

「あの村で泊まれるか、聞いてみようか?」

「シンヤさま、大丈夫かしら」

「我々は、よそ者だからな、断られるかもしれないが、何もしないよりはましだろう」

 俺たちは村の正門の前に来たが、門は閉まっている。

「我々は旅の者です。今夜一晩、村に泊めて頂きたい」

「…」

 返事がない。しかし、塀の向こう側から人の息吹を感じる。前の村のように全滅している感じはしないが、我々がよそ者なので警戒しているのだろう。

 もう一度聞いてみる。

「我々は旅の者です。今夜一晩、村に泊めて頂きたい」

「…、よそ者を泊める事はできない。ここを立ち去れ」

 やはり、よそ者なので警戒しているのだろう。

 俺たちがまだ正門の前に居ると、門の上から石が飛んできた。

 だが、投石された石はエリスとミュの二重結界で弾かれる。

「どうやら我々は思った以上に嫌われているみたいだ。ここは立ち去る事にしよう」

 俺と嫁たちは村の正門から引き返した。


 ラピスに上空から休めるような場所を探させたところ、遠くないところにネルエ川の支流が流れている事が分かったので、川の畔で一泊することにする。

 キチンに水を飲ませていると、川の真ん中付近を小さな船が流れていくのが見えた。

「マリン、あの船をこっちに寄せてくれるか」

「兄さま、分かりました」

 マリンが川の中に飛び込み、船の方に近づいていく。

 船に辿り着くと、船首の方を持って、こっちに引っ張って来た。

 見ると長さ1mほどもない。船には蓋がしてあり、そのまま見ると棺桶のようだ。

 ミュが船の蓋を開けると、そこには幼子が粗末な産着に包まれていた。

「エリス!」

「分かってる」

 エリスが赤ちゃんに手を翳すと、白い光が赤ちゃんを包む。しばらく、そうしていると赤ちゃんが泣き出した。

「おぎゃー、おぎゃー」

 見ると犬族のようだ。

「獣人の赤ちゃんだな。まだ、生まれてそう何日も経っていないようだが…」

「そうね、この子はお腹がすいてるようだわ」

「だが、今、誰も乳は出ないだろう」

「心配しないで」

 エリスはそう言うと、乳房を出すと、赤ちゃんに含ませた。

「エリス、乳が出るのか?」

「ええ、タケルの時に出るようにしたのが、そのままにしてあったから。シンヤさまもそっちの方が良かったんじゃない?」

「う、うーん、そうかな」

「エリスさま、私にも乳が出るようにして下さい」

 ミュがエリスに懇願している。


「旦那さま、私にも乳が出るようにして下さい」

「そうです、私たちにも乳が出るようにして下さい」

 エミリーの言葉にマリンが同意する。

「いや、待て、それは神の思し召しだから、俺だけではどうにも出来んし」

 ラピス、エミリー、マリンがエリスを見る。

「その駄女神には期待できないぞ」

「…」

 俺の言葉に、ラピス、エミリー、マリンが黙る。

「ちょっと、ラピス、エミリー、マリン、その沈黙はどういう意味よ」

「あっ、いえ、特に意味はありません」

「あなたたち、覚えときなさい」

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