第7話 役人

 赤ちゃんは乳を飲み終えると欠伸をし出した。

「エリス、この子をアロンカッチリアさんのところに連れて行って貰えるか?」

「そうね、私もその方がいいと思う」

 エリスが魔法陣を広げると、寄宿舎の学院長であるアロンカッチリアさんのところへ連れて行った。

 この子は、学院の一部となった寄宿舎で育てられる事になるだろう。


 エリスは30分程で戻って来た。

「エリス、どうだった?」

「アロンカッチリアさんとエルザさんが居たので頼んできたわ。こちらの国の状況を伝えたけど、二人ともびっくりしていたわ。それとこれ」

 エリスが差し出したのは魔道具の携帯型電話だ。

「自宅に行ったら、アリストテレスさんから渡されたの」

「それは、エリスが持っていてくれ」

 エリスが帰ってきたので、ミュたちが作ってくれていた夕食を採る。

「ねえ、シンヤさま。カイモノブクロと転移魔法があるから、こんな所に泊まらなくてもいいんじゃない。

 家に戻ってゆっくりすればいいじゃない」

 エリスが言って来るが、こちらに居ないと分からない事もある。

「エリスが言いたい事は分かるが、なるべくこちらに居て、様々な事を調べたい。それに夜中にも、さっきのように子供が流されてくるかもしれない」

 俺は川に流されてきた子供の事を言った。

「そうね、でも、たまには帰る事も考えてね」

 他の嫁たちを見ても同じような目をしている。

 衛生的な街で文化的な生活を営んで来た者からすれば、野宿とかは精神的に辛いものがある。

 いつ、魔物に襲われるかもしれないし、時にはならず者にも襲われるかもしれない。

 それは分かっているが、今夜は野宿にする。

 キチンをキューリットが改造してくれたカイモノブクロの中に入れると、地面に埋めた。

 今度はその中に俺たちも入り、シーハの葉と石で蓋をした。こうすると、魔物にも人にも見つかり難い。

 翌朝、カイモノブクロから出て、朝食にする。

 キチンやビビ、それにフェニにも餌を与えて、再び王都へ向かって出発する。


 昼前に関所と思われる場所に着いた。

 今までは村しかなかったので、国の出先機関となるような場所は初めてだ。

 俺たちはその関所に入って行く。

 受付のところに来たが、役人は不在だ。

 そのまま通り過ぎようとしたところ、奥から人が出てきた。

 顔と鼻が丸く、頭に耳がある。豚族だ。

「ちょっと待ちな。ここは関所だ。黙って通るとは何事だ」

「受付に誰もいなかったので…」

「関所破りは最悪死刑だ。ところが、俺は寛大と言われているゼルバさまだ。物によっては刑を軽減してやれるぞ」

「つまり、金を寄越せと」

「いやいや、そう言ってる訳じゃない。要は気持ちだよ、気持ち」

 こちらの物価が分からないので、いくらが妥当かは不明だ。

 こういう時は、一番安い金額を出してみる。

 俺はミュからカイモノブクロを受け取ると、錫貨を取り出した。

「どうか、これで」

「1枚か?6人連れだろう」

 俺は6枚の錫貨を差し出す。

「ふん、分かっているじゃないか」

 ゼルバと名乗った役人はそれを受け取ると、俺たちを通した。


「ラピス、上空からこの先で地形が変わるようなところがないか確認してくれないか。恐らく、あそこの役人たちが襲ってくる可能性が高い」

「分かりました」

 ラピスがビビで上空に上がって行く。

 俺たちはいつもよりゆっくりと歩いて行いると、30分ぐらいしてラピスが帰ってきた。

「この先に森があります。恐らくそこで、襲ってくるでしょう」

 ラピスの意見に俺も同意する。

「そうだろうな。そこで対処するか」

 みんなも俺と同意見だったようで、黙って頷いた。

 俺たちは速度を上げて、森に入った。速度を上げたといっても、馬で十分追って来れる速度だ。

 森をかなり入ったところで、後ろの方から「パカッ、パカッ」という蹄の音が聞こえて来た。

 どうやら、先ほどの関所の連中が追いついたようだ。

 ところが、役人たちが追いつく頃に、目の前にヘビーアナコンダがトグロを撒いているのに出くわした。


 前には魔物のヘビーアナコンダ、後ろには関所の役人が60人ほど来ている。

「前門の虎、後門の狼だな」

 俺が言うと、ミュが、

「ヘビーアナコンダは1匹です。ヘビーアナコンダを先に片付ける方が良いでしょう」

「それもいいが、ヘビーアナコンダに役人を襲わせるか。下手に役人に手を出すと、何かと文句を付けられ兼ねない」

「こんな土地で誰が文句を付けるというんです」

 そう言ったのはラピスだ。

「たしかにそうだな。だが、余分な戦いは避けたいな」

「それで、どうしますか?」

 ラピスが戦法を聞いてきた。

「全員で、ヘビーアナコンダを飛び越えよう。すると、役人連中がヘビーアナコンダと対峙する事になる。

 後は高みの見物だな」

「「「「「はい」」」」」


「おいおい、何を相談しているか知らないが、お前たちの前にはヘビーアナコンダが居る。こちら側に逃げたいなら相談に乗るぞ。

 取り敢えず、一人につき、金一掴み払って貰おうか」

「どうせ、金を受け取ったら、そのまま殺すつもりだろう。何を正義の味方のように言っている」

「お前たちは自分たちが、置かれている状況を分かっていないようだな。俺たちの言うとおりにすれば、命だけは助かるかもしれないじゃないか。あー、どうだ」

「さて、どうかな。では、いくぞ、ワン、ツー、スリー、GO」

 俺たちは全員でヘビーアナコンダの方に駆け出し、全員がキチンを操って、ヘビーアナコンダを飛び越え、ヘビーアナコンダの後ろに出た。

 キチンは脚力があるので、地面に寝ているヘビーアナコンダは軽々と飛び越える事が可能だ。

 俺たちが飛び越えると、役人たちはヘビーアナコンダと対峙する事になった。

 ヘビーアナコンダは舌を出して、様子を伺っている。

 それを見て、青くなったのは豚族の役人たちだった。

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