第5話 準備

「つまり、俺が狙ったところに寸分違わず当たるという事か?」

「そうです。次、ゴッドソードを試してみましょう」

 そんな事ができるのか?今度、オリンピックに出てみよう。

「納める時は、『クローズ』と言えば納まります」

 ゴッドアローを納めると、次はゴッドソードを試してみる。同じように左手に持って叫ぶ。

「ゴッドソード」

 今度は、片方だけから粒子が出てきて、剣の形になった。

 これは、宇宙戦争を描いた映画に出てくる光の剣じゃないか。

「その剣の部分は摂氏1500℃以上ありますので、気を付けて下さい」

「わ、分かった。納める時は『クローズ』でいいのか?」

「はい、それで結構です。次はゴットチェーンをお願いします」

 俺は、続けて叫んだ。

「ゴッドチェーン」

 筒の片方から長いロープのような物が出てきた。

「これは温度が無いので触っても大丈夫です」

 触ってみると粒子のロープのようになっている。

「しなやかですが、強度は鉄チェーンぐらいあります。なので、鞭のように使うと、相手のダメージはかなりのものです」

「クローズ」

 俺が言うと、粒子のチェーンが無くなった。


「キューリット、凄いじゃないか」

「ありがとうございます」


 ゴットアローは俺の狙いどおりのところに行くとしても、ゴッドソードは剣の訓練が必要だ。

 俺はミュに指南して貰い、少しでも剣の腕を上げるようにした。

 そして、もう一つ、訓練することがある。それはキチンに乗る事だ。

 俺はこの世界に来て、馬にもキチンにも乗れなかった。

 なので、キチンに乗れるように練習をする必要があった。こちらについては、御者のジェコビッチに頼んだが、ジェコビッチは俺が相手だと思うと気を遣ってやり難そうだった。


 そして、北の国に行くまでに、もう一つやった事がある。

 それは、エミリーとマリンを嫁に迎える事だ。

 半年前、俺はサン・イルミド川を望む公主邸のバルコニーで転寝をしていたが、その時に意識が現代に飛んだ。

 現代で俺は、エリス、ミュ、ラピス、エミリー、マリンを嫁に迎えた。

 そのことをエリス、ミュ、ラピスに言ったところ、

「そうね。しょうがないわね」

「私は、ご主人さまの意の通りに」

「彼女たちの気持ちは分かっていました。私も妥当と思います」

 先に妻となっていた嫁たちは了解してくれた。

 次に本人たちを呼んで、妻としたいという事を話してみた。

「本当に、妻にして頂けるのでしょうか?ありがとうございます」

 エミリーは了承してくれた。

「私も、兄さまのお嫁さんになりたかった。末永くよろしくお願いします」

 マリンも了承してくれたので、2人を妻として迎える事にした。


 エミリーは公女ラピスの侍女だったが、ガゼット憲兵長官の一人娘だったこともあり、武芸一般は問題無くこなすことが出来た。

 マリンは人魚だが、強い水魔法と氷魔法を使える。だが、1日に1回は水に浸からないと身体が縮んでしまう弱点がある。こうなると魔法は使えない。


 そして、言葉は北の国から逃げて来たウーリカに教えて貰う。

 北の国の言葉は俺たちの国の言葉の訛りのようなものだったので、意外と習得するのは容易だった。

 そうやって、俺たちは半年間、北の国に来るためにみっちりと用意をしてきた。


 もう一つ、キューリットが用意してくれたものがある。

 それは、カイモノブクロを改造したテントだ。

 このテントは、そのまま野営するのにも使えるが、エリスの転移魔法の時にキチンを転移することにも使える。

 エリスの転移魔法も万能ではない。キチンは大き過ぎるので、一度に転移できるのは1羽だけだ。

 しかし、このテントの中に入れると、テントを持って転移すればいいので、キチン5羽とペガサスのビビを一緒に転移する事が可能だ。

 そんな事を嫁たちと話しながら、王都へ向かう道を行く。

 季節は春のはずだが、北の国はまだ春は遠い。さすがに道には雪はないが、岩陰には残雪が見える。

 そんな中を一列になって進むが、人にすれ違う事がない。

 俺の国では物流が経済によって重要な役割を果たしているので、道路の交通量はかなりの数に上っている。

 この国では、それだけ経済も発達していないということなのだろう。

 しばらく歩いていると、小川が見えて来た。ここで休憩を取ることにし、キチンにも水を与える。

「マリンはどうする?」

「どうする?」とは、水に入るかという事だ。彼女は人魚なので1日1回水に入らないと身体が縮んでしまう。

「それでは、入らせて貰います」

 そう言うと、マリンは服を脱ぎ始めた。人間だと残雪が残るこの季節では服を脱ぐのも寒いが、彼女はそんな気温でも水に入る。

 その事を聞いた事があるが、

「暑いよりは、寒い方がいいです。水の温度はさほど気にはなりません」

 との事だった。

 うーむ、アザラシなんかも皮下脂肪が多くて、寒さには強いみたいだが、マリンもそうなのだろうか。

 だが、彼女はどちらかというとスリムだ。とてもじゃないが、皮下脂肪があるようには見えない。

 服を脱いだマリンは、川の中に入って行った。

 しばらくすると、尾鰭を出して川の中を泳いでいたが、10分程で川から出てきた。

「兄さま、この川の中には魚は、ほとんどいません。寒くても川魚はいるものですが…」

「やはり、食料事情が悪いから、川魚も採り尽くしてしまったのかもしれないな」

 川から出たマリンは、長く青い髪を拭くと服を着た。

 俺たちも休憩が終わったので、それぞれのキチンに跨り、出発することにする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る