Episode9

「遅いよ!」とユウに言われるかと思ったが、そもそも本人がここにいなかった

おかしいな、ユウはログインしてるはずなのに

なぜそんなことが言いきれるかというと、フレンドリストを開けば自分のフレンドが現在ログインしているかどうかはわかるのだ

そしてユウの名前の横には「状態:ログイン」という表示がある

もしかしたら部屋の携帯にユウからメールが入っているかもしれない

そう思った俺はWOVからログアウトし、自室にある携帯のロックを解除した

やっぱりか・・・

案の定、ユウからのメールが入っている

どうやら1時間くらいごとに送ってきているようで、メール自体は3通だった

1通目には「時間過ぎても来ないから部活の後輩と一緒に行くよ。その子としばらくパーティー組むから。事情はなんとなくわかるけど、今度説明しろよ?」という内容が、2通目、3通目には「ちゃんと休憩とりなよ」とか「一人暮らしだからってご飯抜くとかしないほうがいいよ」とかお前は俺のおかんか!と言いたくなるような内容だった

まあ、俺のおふくろは俺が物心つく前に事故で亡くなったみたいなので、おふくろがどういう存在なのか俺にはよくわかってないわけだが

と、過去の話をしても何も変わらないからな、とりあえずユウの携帯に返信を送り、軽食を取り、俺はまたWOVの世界へと旅立った



―――――――――――――――――――――――――



そんなこんなで夏休みが終わり、二学期が始まった


「おはよう、ヒュー・・・陸弥。久しぶり」

「ん?ああ、優か。おはよ」

「ああってなんだよ、ああって」


優が怒っている振りをする(実際ちょっと怒ってる)

ちなみに優はけっこう中性的な顔立ちをしているので、そんなことをしても怖くはない

というか笑えてくるレベルだ

俺が笑いをこらえるのに必死になっていると、優が「なんだよ、もう・・・」と拗ねていた

クラスの女子が「可愛い・・・」とつぶやいていたが、幸いにも優には聞こえていなかったようだ

本人が聞いていたら赤面ものだが

それより、と優が少し真剣な表情になって聞いてくる


「陸弥はレベルどこまで行ったの?」

「ん、俺か?俺は38まで頑張って上げたけど」

「38!?」

「おう」

「す、すごいね・・・。僕なんてまだ26だよ」

「そりゃログインしてる時間が全然違うだろ」

「そうだけどさ・・・」


優があからさまに落胆した表情を見せる

優は成績優秀で、定期テストでもだいたい一桁に入っている

俺はいつも赤点をぎりぎりで回避するくらいのレベルだよ?

そこ、もっと勉強しろとか言わない

話が逸れた

優は予備校にも行っていて、夏休み中は夏季講習にも参加していた

だから課題を終わらせるのに時間がかかり、WOVにログインする時間が極端に少ないのだ

それでもがんばって毎日3、4時間はインしていたのだから大したものである

そういえば部活の後輩って誰だろ

優は確か文芸部だったからその後輩だと思うんだが・・・

聞いてみるか


「なあ、優」

「うん?」

「お前部活の後輩とパーティー組んでたよな?」

「うん、それがどうかしたの?」

「それって俺も知ってる人?」


もしそうだとしたらあいつしかいない

優の幼馴染の・・・


「うん。陸弥の考えている人で合ってると思うよ。僕の一個下の幼馴染の陽菜(ひな)だよ。でも、それがどうかしたの?」

「いや、お前の後輩でWOVやってるとしたらあいつくらいしか思いつかないからな」

「あはは、確かにね」

「今度陽菜ともフレンド登録しとこっかな・・・?」

「そうしなよ。陽菜のやつ、僕がお前がWOVやってるってことを教えたら『今度会わせて!』ってすごい勢いで言ってきたから」

「まあそこが陽菜らしいと言えば陽菜らしいんだけどな」

「そうだね」


陽菜というのはさっきも言ったとおり俺とユウの後輩で、優の幼馴染だ

本名は橘陽菜(たちばなひな)で優のことは「優くん」俺のことはなぜか「お兄ちゃん」と呼ぶ

典型的な元気っ娘でスポーツなら大概何でもできる

文化部なのにね

俺?人並みくらいだよ?

帰宅部にそんなものを期待しちゃだめだよ?

・・・茶番は置いといて

なぜ陽菜が俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになったのかはよくわかっていない

そのことを少し前に優に聞いたらジト目で返された

・・・解せぬ

ま、今日は始業式だけなのでけっこう早く家に帰れるので帰ってすぐログインするとしますかね

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