Episode8

もう何体あれを倒しただろうか

あたしとヒューガさんがマッドスパイダーと戦い始めてからもうすぐ30分が経過しようとしていた

あたしのトラウマはとうに消え去り、今は普通に戦えている

ポップしてくるペースはだいぶ落ちたけど、未だに終わりが見えない

あたしの目線の先にはあたしを二回も助けてくれた人、ヒューガさんがいる

さっきお姫様抱っこをされたときはすごく恥ずかしかった

でも、すごく安心できた

それになんとなく、学校で見たことのあるような気がする

たしか、一つ年上の・・・

あーだめだ、名前がわからない

というか直接話したことがあるわけでもないし、ちょっと見かけたことがあるかもしれないくらいの人の名前を知っているわけがなかった

でも笑っているときの顔と普段の顔はかなり似ていたと思う

もし同じ人なら話してみたいな~


――――――――――――――――


エミが頭の中でとても戦闘中とは思えないことを考えていたとき、ヒューガは真剣にこの状況を打開する方法を考えていた

このままじゃ埒が明かない

だんだんポップする数は減ってきてはいるけど、厳しい状況であることに変わりはない

どうするか・・・

もう一本短刀を出して戦うか?

だめだ、補正が発動しない

でも一本だけじゃ絶対にジリ貧だ

・・・待てよ、補正なんてなくても手数が増えれば何とかなるんじゃないか?

試してみるか


「エミ、悪いがしばらく持ちこたえてくれ!」

「30秒以内でお願いします!」

「了解!」


30秒もあれば十分だ

俺はウィンドウを呼び出し、右手に<月影>、左手に今まで装備していた<クレセント・ダガー>を装備した

ここまで15秒、エミにこれ以上負担をかけるのは不味いからそろそろ戻ろう

変更は終わったし


「もう大丈夫だ!今からペースを上げる、やばいと思ったら下がっていいぞ!」

「わかりました!でも、下がったりはしませんよ、まだヒューガさんに助けてもらった恩を返せてないですからね!」


そう言いながら笑顔でサムズアップしてくる

まったく、この短い間にずいぶん頼もしくなったもんだ

これが彼女本来のものなのかもしれないけど

俺も二刀を構え、いつの間にかポップが止まり、エミのおかげでずいぶんとその数を減らしたマッドスパイダーの群れに単身突っ込んで二刀を振るう

思ったとおり、イレギュラー装備状態によってダメージの補正がなくなっていたが、まだ熟練度が低い分手数で十分以上にカバーできている


「これなら・・・!」


どんどん二刀を振るうスピードを上げていく

硬い甲羅の間を狙って俺の振るう剣の刃が通り抜けていく

少し離れた場所ではエミの使った風魔法がマッドスパイダーを切り刻んでいる

一匹、また一匹と数を減らしていくマッドスパイダー


「あと、5匹!」


俺とエミは最後の力を振り絞り、ついにマッドスパイダーを殲滅した


「マッドスパイダー殲滅及びエミのトラウマ克服作戦終了だ。ミッションコンプリート。お疲れ様、エミ」

「お疲れです、ヒューガさん。あと、それ言わないでください」

「はは、ごめん」


プクッと頬を膨らませてエミが不満そうに言ってきた

それというのはもちろん、トラウマ克服作戦のことである

俺がそれを言った時に顔に少し赤みがさしていたので、恥ずかしいのだろう

それにしても・・・


「めちゃくちゃ疲れたな。しばらく街でゆっくりしたい・・・」

「あはは、そうですね。あたしもすごい疲れました」


俺の言葉に反応してエミも同じような感想を呟く

いや、元はといえばお前のせいだからな

注意するのが遅れた俺も悪かったが、ダンジョンなんだから自分の周りや足元は自分でしっかり警戒していなければドジを踏むどころか命が何個あっても足りない

まあ、某アニメのようなデスゲームではないから何回死んでも大丈夫なわけだが、できることならゲームの中でもあまり死にたくはないし、仲間(パーティーメンバー)にも死んでほしくない

そのことをダンジョン内での注意点も含めて話したら、シュンとしたり瞳をウルウルさせたりと表情が目まぐるしく変わっていて面白かった

その後はスムーズだった

いつの間に近くまで来ていたのか、出口はすぐに見つかり、平原を休憩しながら進んで、街に着いたのは午後3時を過ぎたころだった

街に戻ってからエミとのパーティーを一度解散し、フレンド登録をして、エミと別れ、ユウとの待ち合わせの場所へ早足で向かった

待ち合わせ時間を大幅に過ぎて、ユウ怒ってるかな・・・?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る