第4話 太らないJKと腹の出た社畜

「さて、次はどうする?」


 何となく街を歩きながら、チョコバナナを食べ終えた後。

 俺は弥生にそう尋ねた。


「そうだなー……」 


 ひと悶着の少し後、すっかり落ち着きを取り戻していた弥生は少し考えるようなそぶりを見せてから。


「じゃあ、ご飯食べたい。ちょうどお昼時みたいだし」

「食ったばっかなのにまた食うのか。太るぞ」

「わたし、食べても太らない体質だから」


 ふふん、と弥生は得意げに胸を張る。そこそこ大きい。実に効率の良い脂肪の付け方だ。


「んなこと言ってられるのも今の内だけだぞ」

「なんかそれ、おにーさんってよりおっさんっぽい台詞だよね」

「俺はまだ25だ」

「それでも高2のわたしからすれば、だいぶ歳上だけど」

「……そうか。女子高生的には、25はだいぶ歳上か」


 地味にショックかもしれない。


「そりゃあ、ねえ。25って言ったら、わたしの人生の半分くらいの年月を余分に生きてるわけだし」

「……なるほどな」


 改めてそう言われると、なんか自分がもう若くない気がしてくる。 

 食生活一つ取ってもそうだ。学生時代と変わらない食い方をしていたら、腹にいらない肉が溜まるようになってきたし。

 俺はやれやれと、スーツの上からでは分からない程度に脂肪のついた腹に手を触れる。


「あ、もしかして」


 と、弥生は何かに気づいたように、にししと笑って。


「おにーさんさ。近頃お腹周りが膨らんできて、それを気にしてたり……とかする? メタボ? メタボ?」


 ここぞとばかりにからかってきた。


「……五年後も同じ食生活してたら絶対悲惨なことになるから覚悟しとけ」

「あはは。わたしは今を全力で生きてるから大丈夫」


 明るい笑みに合わせて、なんか若気の至りっぽいよく分からない返しをしてくる弥生。

 その理屈でいくと全力で生きた成果が独り身ってことになるんだが、いいのかそれは。


「ははっ」


 口から、笑い声が漏れ出す。


「え。そんな笑うとこ、今」


 と、弥生が意外そうな顔をした。


「あー……いや、なんだろうな」


 聞かれて俺は、我ながら驚く。歯切れの悪い言葉を返す。


 今の、笑い。

 確かに、声を出して笑うような場面ではなかったかもしれない。

 なのに、自然と口から漏れ出ていた。


 ……自然に笑う。

 そんなの、いつぶりだったか。どうやら俺の心は自覚していたよりも遥かに、孤独な社畜生活で廃れていたらしい。

 そして。そこに活気を呼び込んでくれるのだと思えば。

 この生意気極まりない女子高生が旅の連れ合いってのも、悪くない。


「今度は急に黙りこんじゃって……なんかキモいよ?」


 流石に少しばかり、口が過ぎるけど。


「……それで、メシ食いたいんだったか」

「あ、うん」


 強引に、話題を戻す。弥生は一瞬戸惑うが、頷く。


「今食べたのってさ、わたしたちの世界にもあるようなモノじゃん」

「まあ、完全にチョコバナナではあったな」

「だからさ、もっと異世界らしい感じの、変わった料理とか食べたくない?」

「確かに……興味あるかもな」


 ここらで本格的に、異世界の食文化を堪能してみるのもありか。

 俺は胸ポケットから、異世界旅行を堪能することに特化したチートアイテムことパスポート(文鎮)を取り出した。


「おい、質問いいか」

『なんでしょう』

「お前って、音声ガイドの機能もあるんだよな」

『はい、あります』

「じゃあ、この世界で人気の料理が食える場所に案内……とかできるのか?」

『ええ、お任せください』


 気の向くままにやることを決めていく、というのも旅行の醍醐味だ。

 腹の脂肪なんて、今は忘れよう。


 俺はいつになく高揚感を覚えながら、弥生とともに次なる目的地へと足を運ぶのだった。


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