[フードコート]

 久しぶりに友人六人で集まってランチをした時の事。

 最初はそれこそ、近況だとか、恋バナだとか、明るい話に花が咲いていたが、食事も終わるころには、誰からともなく、バイト先の愚痴の言い合いになっていた。

 そんな中、不意に一人が、漏らした不満がこの話の切欠だ。

「うちの店、ほとんど毎日、変ないたずらする奴いるんだよね」

「イタズラ?」

 誰ともなく問いかけると彼女は困ったように少し笑って続けた。

「大体、午後にやられるんだけどさ」

 彼女は某ショッピングモールのフードコートでクレープを作るバイトをしている。その店舗の前にある共通の椅子やテーブルが、話の舞台のようだ。

「四人がけの席…場所は決まってないんだけど、子供椅子を三つ、大人の椅子を一つ。絶対にその組合せになってんだよね」

 子供を三人連れてくる人が複数いるのかな?と思って少し大げさだな、という印象をもったが、話の続きを聞くと何とも微妙な印象になった。

「うちのフードコード、子供の椅子ちょっと少ないんだよね。なのに一か所に三つも置いて、空の紙コップと新聞広げて、見つけた時にはもう、誰もいないの。それがほとんど毎日」

「えー、何それ。ちょっと気持ち悪くない?」

「そうなんだよ。こっちも頭きてさ、絶対捕まえてやろうと思ってるんだけどいつの間にかやられてて…」

 そう続ける彼女に頷き返しながら、ふと脇を見るとどうも隣の席の子の顔色が優れない。

「どうかした?」

 小さく問いかけると彼女は実は…と呟いた。

「…それ、うちでもあるよ」

 彼女は某アミューズメントパークのレストランに努めている。

「えーっ」

 流石にそれは冗談だろう、と笑いながら見ると、その子は真剣な様子で俯いて、少し震えているようだった。

「毎日両方の店に来るなんてそんな…」

 あはは、と笑いながら流そうとするが、彼女は暗い目で、最初に言い出した子に問いかけた。

「広げてある新聞って、〇〇新聞じゃない?」

 彼女が言うのは地方紙の名前だ。

「う、うん!」

「やっぱり…」

 何となく気持ち悪い空気になってしまった。この後は買い物に行く予定になっている。

「ネットとかではやってる悪戯じゃない?」

「あー、不気味な話みたいな感じで都市伝説目指してるとか?」

「きっとそんなもんだよ」

 みんなでそんな風に慰めながら、気分を切り替えようと席を立ち始めた。

 直後、

「ひっ」

悲鳴が上がる。

 すぐ隣の席には、いつの間にか子供の椅子が並べてある。一番遠い席だけが通常の大人用の椅子で、そちらに向けて新聞が広げてあった。そしてその斜め上に、まだ湯気の立ち上る紙コップが一つ、置かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る