エピローグ 逃亡者は笑わない。
田中とのやり取りがあって二日後県立がんセンターに深夜に進入しようとして男が捕まった。留置所から逃げ出した島である。
留置所にもどった島は何も言わなくなった。
今までは自分の悪口を言われて激高し3人を相手に喧嘩して一人に一週間の怪我をおわせたことは認めていたのであるが「なぜ逃亡したのか。なぜ県立がんセンターに入ろうとしたのか」何一つ言わなくなった。
「何か隠してますね?」刑事の加瀬は一課長にかたった。
「確かに一人に怪我をさせたのは罪だが相手が3人にこっちは一人十分情状酌量の余地はあるとおもうんだがなぁ」一課長は顎に手を当てる。
「あの一課長。島の事件で目撃者が来てるそうです」若い刑事が電話の内容を伝えた。
「え?」
一課に現れたのは深山翼と田中であった。
「で何の御用で?」加瀬は田中に聞いた。
「彼が激高したのは未来あすかの悪口を被害者たちが話していたからです」
「未来あすかさん?」
「ええ。島君の元彼女です」
「ほう」
「あの日島君と私はたまたま相席になり馬が合いましてね、話していくうちに彼がアイドルの未来あすかさんの元彼氏だと知りました」
「ほう」
「実はあすかさんはステージ4の末期のがん患者で県立がんセンターに入院しています。」そして深山に語ったことを加瀬たちに話し始めた。
「私は新薬の臨床の事やアイドルとしての彼女の立場があったため本当のことを言うことができませんでした。でもここにいる深山さんに話を聞かれすべてこの場でお話ししたいとおもいお伺いした次第です」
加瀬は一通り話を聞いた後
「ありがとうございます。私はちょっと忙しいのでこの、新人がお相手いたしますので」と加瀬は取調室に急いだ。
一か月後田中たちの開発した臨床が県立がんセンターで行われることとなった。
その場には田中と深山翼がいた。
「深山さん。田中さん、私頑張ります」あすかの声は生き生きしていた。
「がんばってくださいね、彼のためにも」と翼は言った。
「はい」若く張りのある声が周囲に光を集めるようだった。
「あすかさん。そろそろ行きましょうか?」と看護師さんが車いすに乗ったあすかを連れて行った。あすかの薬指には指輪が光っていた。
「そうそう、深山さん島君の事件検察が不起訴にすることになったらしいです。戻ってくるのも遠くはないでしょうね」
「そうですか。それはよかったです。では失礼します」深山は白杖を使ってエレベータのほうに向かう
「へー「未来あすか「獄中結婚」ねぇ」と待合室からスポーツ紙を読む男性の声が聞こえた。
「どこかできいたこえ?」一瞬白杖が止まる。
彼は誰なのか?
それはまた別の話。
逃亡者は笑わない。 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます