見えない絆

翌日翼は県がんセンターに向かった。バスの乗り継ぎが多いため自宅からタクシーで家を出た。

がんセンターはもちろんがんを専門に治療する病院だが一方でもはや治らないそういう人たちが死を待つホスピスとしての役割も担っている。

知り合いの記者が同行してくれた。

普段なら絶対に未来あすかは合わないが翼が失明していることを知ると会うことを承諾してくれた。

未来あすかは「ホスピス」にいた。

「すみません、本来なら秘密であるところを」

「いいんです。私もう長くないから」

「突然ですが「高橋未来」という男性に心当たりは?」

「いえ。知りません」

「そうですか。。。。。」

「そういえば」あすかは何かを思い出した

「ここに入院してからファンの方が毎日手紙を送ってくださって。。。」

「男性ですか?」

「ええ」


しばらくの沈黙が続きあすかは泣き出した。

「もう、恋もできないんですよね?あと半年したら死んじゃうんです。わーーー」

ぽろぽろ出す涙と嗚咽のように出す声先日きいた依頼人から渡された音声に符合した。

「あの、つかぬ事をお聞きしますが元恋人や男友達なんかいませんか?」

「恋人なんていませんよ。アイドルは恋してはいけない生き物なんです。」

翼はポケットの中から録音機を出してみせた。

「すみません。どこが再生のボタンでしょうか?私機械音痴ですので大事なデーターを消してしまうとこまりますので。。。」

あすかはゆっくりと再生ボタンに細い指を置き力を入れた。

昨日聞いた音声が流されていく。

「この声ってあなたの声ではありませんか?」

あすかはこくりとうなずいて見せたが当然翼には見えない。

しばらくしてあすかはそれに気が付いた。

「あ、はい。私の声です」

「録音はあなたの発言でしょうか?」

「はい」

「で、会話のお相手は?」

「え??」あすかは戸惑った。


「これはたぶんドラマの音声だとおもいます。私が出たドラマにこんなセリフがありました」

「ああ、それですか「私が変だな」とおもったのは」

「変?」

「音声の声以外の音これが続かないんですよ。たとえば大雨の中電話を掛けたとして途中で雨の音が消えたとしたら不思議ですよね?」

「ええ」

翼は白杖を上げてこう語った。

「私は目が見えません。だからほかの事が気になって仕方ありません。怖くて仕方ないんですよ。変な格好をしていないか?話している相手が怒っていないか?私は人の顔色を見ることはできません。しかし声の強弱で感情を推し量ることはできます。」

「あなたのおっしゃったことの半分は嘘です。本当のことを教えてくださいませんか?」


「ばれてましたか?やっぱり本当の女優にはなかなかなれませんね。」そういってあすかは涙をぬぐった。


「私は恋人がいました。島くんってちょっと不良っぽいけど優しい男の子です。中学が同じでその時から付き合い始めました。

彼の家は母子家庭で中学を卒業したら小さな工場で働き始め私は高校に通っていたんですが高2の夏にたまたまスカウトされて東京に。。。」

「東京に行った後の音声ですか?」

「ええ。私がアイドルとして売れ始めてすぐに彼が私に別れ話を切り出したんす。「好きな人ができたから別れてくれって」」

「でも嘘だとすぐわかりました。だって島くん声がいつもとちがうもん」

「クス」と翼はわらった。

「探偵さんわらいましたね?」あすかはほほに笑みを浮かべた。


「でも去年末に私の体にがんが見つかりまして。もう、、、手遅れだったみたい。

最後に地元にもどったらもしかして彼に会えるかもしれない。

いや、会えなくたっていい。彼とおんなじ空気をすっていたかった。ただそれだけです。」


「それが最後の願いです」あすかのほほを真珠のような大きな涙が伝わっていた。








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