逃亡者は笑わない。

若狭屋 真夏(九代目)

問題のある依頼人

その日警察の留置所から一人の男が脱走した。傷害の疑いで検察に送検される前夜の出来事であった。

その夜から大捜索が始まり同時にニュースでは彼の写真と名前が流された。

その次の日深山探偵事務所に依頼人が訪れた。

「高橋未来」男はそう名乗った。

「でご依頼のほうは?」翼は彼にそう尋ねた。

「初恋の人を、探してほしいんです」

「初恋の人を探すといわれましても私はこの通り目が見えません。お力になるとは到底思えないのですが。。。」翼はとまどった。

「実は風のうわさで聞いたのですがどうも彼女は整形しているようでして、声のデータは残ってるんです。」

男はそういうと録音機のボタンを押した。


「ごめんね。ほんとにごめん。。。。もうダメかもね。私たち」女性の押し出した声が聞こえた。

「えーとこれは、どんなときの音声ですか?」

「行き違いが生じまして別れた時の物です。。この時の気持ちを忘れないように残しておいたものです。」

「はあ」

「私たち目が見えるものはとかく視覚に頼りすぎだと聞いたことがあります。しかし先生なら。。。」その先は言わなかった。

戸惑いながらも翼は聞いた

「彼女を見つけてどうするつもりですか?もしストーカーをするつもりなら私は協力できません。」

「贖罪ですよ。それとも「未練」ってやつでしょうか」

そう言って男は調査費を置いて出て行った。


彼が出て行って翼は悩んだ。探偵というものは何事にも常に疑っていなければいけない。それが依頼人であろうとも。

高橋未来なる人物の発言はところどころ合致しないところが多すぎる。

最後に聞かされた音声データも少し加工してある節がある。

それに砂漠から一粒のダイヤを探すような途方もない作業。探し当てることは不可能に近い。

それでも依頼を強制的に受けてしまった以上探さねばいけない。


翼は白杖をもって夜の街へと出かけた。

翼がたどり着いたのが「クイーンリリー」というおかまバーである。

ドアを開けると「カランコロン」と音がする。

「あら~翼ちゃん、めずらしいわね」出てきたのはクイーンリリー、この店のままである。

「ひさしぶりです、リリー」

「もう。相変わらず愛想ないのね。おかまのあたしが女子力つくように個人レッスンしてあげようかしら?」

「いや、おかまに教わったらただのおかま力です。」

「いやーだ。毒舌になってきたわね。」周囲のみんなが笑う。


「ところで今日はどんな情報がほしいのかしら?」

つまりこのクイーンリリーは翼の情報屋なのだ。

今までの情報をリリーに伝えたがなしのつぶてであった。

依頼人の事もはっきりわからないらしい。

「でも。。。」リリーはふと思いついたようだった。

「未来でおもいだしたんだけどアイドルの未来あすかが県のがんセンターに入院してるって噂があるわ。まだマスコミもつかんでない情報よ。まあ関係ないとは思わないけどね」


振出しに戻った。いや一歩も進んでいない。

とりあえず県がんセンターに明日はいこうと思い就寝した。

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