幕間

お酒を飲む中で

 更新が遅れて申し訳ありませんでした……。

 大学のレポートとテストが嵩んで執筆に時間を充てられませんでした。

 ようやく終わったので、また更新していきます。

どうぞ、ここからのゆりスナ!をよろしくお願いします!


 今回は最終日前日の夜の出来事です。

 どうぞ、ご覧ください。


──────────────────────


 合同連戦が終わり、由莉たちが寝静まってからのこと。

 リビングにいた阿久津と音湖は対面で座りながら、滅多に飲まないお酒を口にしていた。


「にゃあーーたまんねぇにゃー」


「男臭いですよ。まったく……晩酌をしようと思ったらちゃっかり来るんですから」


「いいじゃないかにゃ〜あっくん〜」


「視線が暑苦しいです」


「にゃぁ……」


 既に音湖はそこそこ酔っているが、阿久津も同量飲んでいるのに酔う気配がない。


「あっくんは酔わないのかにゃー?」


「酒には耐性があるので。簡単に酔いはしないですよ。逆にねこは無さすぎるんですよ」


「ぶーー」


 不貞腐れたようにグラスに注がれた甘いアルコールを一気に飲んだ。ほっ、と熱い息を漏らしながら、頬杖をついた。


「でにゃ〜見てないで来にゃよ、2人とも」


「あははっ、ばれてたか」

「だ、だから言ったのに〜っ」


 後ろの壁からひょこりと顔を出したのはパジャマ姿の桜とももだった。2人の抜群のスタイルが薄着も相まって遺憾無く外に現れている。

 互いにピンク色の服だが、桜は濃いめ、ももは淡いものから性格も滲んでいるかのようだ。


「おや、いたのなら来ればいいじゃないですか」


「そうか? なら一緒に座らせてや〜」

「お、お邪魔します……っ」


 阿久津の隣に桜が、音湖の隣にももが席に着く。

 や、否や、桜は音湖のそばの開封済みのアルコールジュースの入った缶を掴むと躊躇いもなく飲んだ。これにはももは驚いて立ち上がる。


「さ、桜ちゃん……お酒は20歳からだよ……!?」


「ええのええのっ、こん時くらい破らせてや〜言うてもあと1年やで? 今も来年も変わらんわ♪ ほらほら、ももちもどうや? 一緒に大人の階段を登らへんか?」


「……わたしはいいっ。お酒は……まだ心の準備が……」


 未成年だからと、ももは阿久津に断りを入れてから冷蔵庫にあったりんごジュースを持ち出すと、マグカップに注ぎ、味わうようにゆっくりと飲み進めた。


「ふぅ……おちつく───」

「ええな〜お酒はええな〜♪ 気持ちよくなってきたで〜」


 と、既に桜が酔っ払い始めたようで、声色がいつもより上機嫌そうである。その前には既に空になった缶が1つ虚しく置かれていた。


「ええぇ!? もう飲んだの……!?」


「あ〜だめや〜すぐにこうなってまうわ〜母上もお酒飲むと凄かったらしいからなぁ……遺伝やな〜」


 顔がほんのりと桜色になりながら、身体を横に揺らしていたが、流石にやりすぎたようでお酒テンションが急に冷めていった。


「う……一気飲みしすぎてもうた……あ、ももち、ちょっとそのジュースくれへんか?」


「いいけど……桜ちゃん大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、……あっ、氷も欲しいな……ちょっと待っててや? すぐに良くなるからな、ふふっ」


 なにやら意味ありげな気もした。

 まぁ、考えすぎだろうとそのまま待っていると、すぐにグラスに氷を縁まで敷き詰めてジュースを並々まで注いでやってきた。


「待たせたな〜ももち〜」


「うん……本当はだめなんだけど……ほどほどにしなきゃだめだよ?」


「わーかってるよ、4人でなんて滅多にないんやから特別なだけやで? ももちも、もう中身無くなっとるからあたしが汲んだるよ」


「うん、ありがとうねっ」




 ──────────────────


 話をする中で、桜は普通の水分も交えながら3本目を空けてめちゃくちゃ上戸になっていた。ももはつられるようにしてジュースを飲んでいく。


「ももち〜ももちはすごいなぁ。あのでかいライフル使えるようになるなんてな〜」


「やめてぇよぉ〜わたしなんてみんなに比べたら歩き出したばっかりの赤ちゃんだよ〜」


「ちゃうわ〜いきなり1000m射撃出来てまうなんてそれまでずっと努力しなきゃ出来ひんって〜!」


「そんなに褒めないでよぉ〜〜恥ずかしい……っ。体も熱いし……あれ?」


 顔をほんのりピンク色にするももは、恥ずかし紛れにマグカップに手を伸ばそうとした所でようやく自分の異変に気づいた。頭が熱いだけならいいが、気分がすごく良くてふわふわしたような気分になっている。ちらっと見てみれば桜はにやにやしながら見ているではないか。


「桜……やりましたね」

「やったにゃやったにゃ、あーあ、どうなっても知らないにゃ〜」


 とっくに阿久津と音湖は気づいていたようで、肩を竦めて呆れ顔だった。ももも何かを悟ったようで睨むようにして桜に視線を向ける。


「……お酒……飲ませた?」


「ふふふっ、アルコールの入ったやつに変えといたんやで? ももち、気持ちええやろ?」


「もぉぉぉ! なんでそんなことするのぉぉぉ〜〜っ、こんなこと知られたら蜜檎さんに怒られちゃうよぉ! こんなこと……悪いことなのに……ううぅぅ……っ」


 激昴したかと思えば崩れるように机に突っ伏して泣き出した。さすがに親友が泣き出したことには桜もびっくりして、若干ふらつきながらも、ももの傍に駆け寄った。


「も、ももち……?」


「わたしはぁ……いい子でいなきゃいけないのぉ……っ、じゃないとだめなんだよぉ……」


 自分はいつも良いことをしなければならない。

 でないと、死んだ妹に顔向けすら出来ない。

 その重圧はまだまだももの中に残り、それがアルコールが入った影響で外にこぼれ落ちた。


「どうしよぉ……飲んじゃった……わたし、悪い子だよぉ……っ」


 それなのに未成年飲酒をしてしまったと、ももは頭を抱え、唸るようにして泣いた。

 その昂りが一旦納まった絶妙なタイミングに桜が斬りこむ。


「なぁ、ももち? ももちはさぁ、悪いことをする事は絶対にダメなことやと思うか?」


「悪いこと……だよぉ……っ」


「やっぱ、ももちは頑固やなぁ〜。ま、そこがももちのいい所なんやけどな? ま、茶番もそろそろにして……少し真面目に聞いてや? ふらついてても、意識はまだあるやろ?」


 涙を拭きながら、阿久津がおつまみにと作ってくれた鶏ムネ肉のカレーチーズ焼きを頬張っていたが、急に冷静を装う桜に、ももも早めに飲み込むとふらつく頭で何とか気持ちを正した。

 いつも精神訓練はこなしていたものの、成果があまり現れなかったももだが、ここと言う時には冷静になることが出来た。


「んでな、ももちには伝えとかなあかん事があるんや。ももちは優しくて正しい子やとあたしは思ってる。誰かのために頑張れるええ子や。けどな、何かを守りたいなら、いつか人として正しい道を踏み外す。それでも、あたしらはやらなきゃいけない。あたしは母上との約束を守るために、この刀を『活人』のために振るう。そのためにここにいるんや。……ももちにも理由があるやろ?」


「……うん……」


 自分にも覚悟はあると胸に手を当てる。前を見て進むんだと瞳の中にはっきりとした意志があった。桜も親友の想いに深く頷く。


「先に言ってまうと、最後は自分の信じるもんを貫くことや。だめだと分かっていてもな、自分の中にある1本の芯を曲げたらあかん。ももちはそれがやっと出来ようとしてるから、言っとかなあかんと思ったんや」


 グラスを片手に桜は小悪魔のようにくすりと笑いながら、中にある氷を揺らし、気持ちのいい澄んだ音を響かせた。


「ふふっ、今回はあの子らが全部解決してまったからな、友達として何も出来ないのは心苦しいし、これくらいはさせてな?」


「桜ちゃん……!」


 桜の言葉は不思議と心の中に溶け込んだ。

 これから自分が入るだろう世界での覚悟を教えてくれたことには感謝しか出てこなかった。

 じんわりと心が揺さぶられ、場はなにやら感動ムードに包まれる。


「ま、そんなわけで、もっと飲もうやっ」


「うんっ……ありがとう。って、桜ちゃんわたしに流れで飲ませようとしてるだけじゃん!」


「あははっ、バレてたか〜っ。ノリツッコミとはなかなかやるなぁ〜」


「もおぉぉぉ〜っ、もう飲まないんだからっ。明日帰るのに、飲まされたこと由莉ちゃん達にばれたらどうするのっ」


「いや〜ごめんなぁ〜、ふふっ。でも、今言ったことは覚えておいて欲しいんや。ええな?」


「もぉ……分かったよっ」


 ちゃかされ、ぷいっとそっぽ向いてご機嫌斜めのももは明日のために、阿久津が作る料理に手を出す。おつまみにと出された料理はキャベツや鶏ムネ肉、ゴマなどの肝臓をアルコールから守るための食材ばかりだった。

 しかも、どれも反則的に美味しいのだから、水分と共にたくさん食べてしまった。


「もぐもぐ……阿久津さん、ありがとう……ね」


「いえいえ、気にしないでください」


 阿久津も責任があるからと料理作りに精を出していた。別れの時にふらふらになっていては示しがつかない。

 その優しさにももは赤くなった頬に触れ、ふと、阿久津に声をかけた。


「えっと……少し……いい?」


「はい、なんでしょうか?」


「呼び方……変えて……いいかな?」


 これには阿久津はぴくりと反応し、調理を中断した。桜と音湖も同様にももに注目を集めた。


「えっと……ねこちゃんも、桜ちゃんも、距離感近いのに、わたしだけ遠いの……いやだなって……」


 事実的な同世代の4人は阿久津こそ、3人への態度はほぼ分け隔てないが、阿久津への呼び方はももを除いて、呼び捨てやあだ名と距離感が近かった。当時のももは弱虫だったのもあり、距離感の遠い「さん」付けをしていたのだが、その時の自分を越えようという意味もあったのだろう。

 阿久津も気持ちを汲み取り、快諾した。


「呼び方くらい、別に構いませんよ?」


「うん……じゃあ……阿久津『くん』、ありがとうねっ」


 一歩踏み込んだ呼び方にその場にいた全員がももの成長を感じていた。この合宿で咲き始めの花のようにももは立ち止まっていた足を動かし始めた。……もっとも、それは闇へと影を堕とす道でもあるのだが。



 ────────────────



「あーー飲みすぎたかもにゃ……でもまぁ、寝たらすっきりするから別にいいんだけどにゃ」


 飲み始めてから1時間ほど経ち、音湖はトイレに行くと席を外し、部屋に向かった。すぐに済ませて戻ろうとすると、ももの声が先に聞こえた。


「さ、桜ちゃんっ、その話は───」


 まだまだやるのかにゃ?と音湖は向かおうと光へ踏み出し────、


「なぁ、阿久津〜。あたしと付き合ってくれへんか?」


「……っ!?」


 踏み出すのをやめた。


 足音をゼロに、心の乱れを無くす。

 そのまま隠れるようにして、声に耳を澄ませた。


「結婚するなら阿久津しかおらへんと思ってるんや。あたしはな〜、同じくらい強い人と結婚したいんや。……ほんまはあたしは阿久津のこと……好きなんや」


「さくら……本気なのですか?」


「……本気やで。嘘偽りなく、あたしは阿久津が好きや。師弟じゃなく……夫婦になりたい。そう思うてる」


 阿久津も話を聞いている。絶対無理というわけではないのは間違いなかった。

 だが、それ以上に桜が本気だったことに音湖は激しいショックを受けた。


 ……理由なんて簡単だ。

 自分と桜、どっちを選べと阿久津が質問された時、選ぶ方なんて決まっている。

 いや、でもまだ、そう思った矢先に……、


「阿久津はどうなん? あたしのこと……好きか?」


「そうですね……好きではありますよ」


「ほんまか!?」


「嫌いならもっときつく当たりますよ」


「じゃあ……結婚して、って……言われたら?」




 それ以上、音湖には聞けなかった。


「……っ」


 耳を塞ぎ、目を閉じ、静かにその場を離れた。

 そのまま部屋に帰った音湖は1人、灯りも付けず真っ暗な中でベッドに身を投げると布団を頭から被った。


 ───もっと早くから分かっていたかもしれない。

 もし、阿久津のことが本気で好きな人が自分以外にいれば……この恋は絶対的に叶わない。

 その現実を受け止めたくない、ただ子供のようにあの場から逃げた。

 そこに最強と呼べる姿はなく、恋が崩れゆくのを認めたくないただの女の子でしかなかった。


「……あっくん……」


 本当は誰にも渡したくない。

 けど、それはエゴだ。阿久津の気持ちが第一だからなんて思っても……虚しかった。

 急にあの影が遠くなった気がした。思えば思うほど……胸に黒いもやが生まれた。


「そう……だよにゃ。うちじゃ……いや、そんな考えじゃだめだよにゃ」


 暗い考え方は暗い未来しか与えない。

 これまで黒く染っていい事はあったのだろうか?

 今の自分を見れば馬鹿馬鹿しいくらいの自問だった。

 戻ってどうする、進む時なんだと、音湖は悪い事と捉えることをやめた。


「もし……そうであっても、あっくんと結ばれた人を素直に祝福するべきなんだにゃ。……でもにゃ、」


 そこで言葉を止めた音湖は部屋を明かりで満たすと、天井の光源に手を伸ばす。

 些細な願いだ。もう叶わないとしても───、


「それがうちなら……もうそれ以上を望むことはないんだけどにゃ」


 視線を自分の使うタンスに向け、表情を崩した。

 ……今度、告白しよう。この戦いが終わったあとでも……そこでなら、きっとこの思いと決別も出来る。

 密かに決意を固めた音湖は2人が戻ってくるまでは待っていよう、そう思っていたが、2人が心配して見に来る頃には音湖は珍しく完全に寝落ちしてしまったのだった。







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