合同連戦-クロく染まるソラ-
2戦目まで終了。
第1戦
〇天瑠vs天音✕
✕由莉vs音湖〇
✕阿久津vs桜〇
第2戦
〇阿久津vs天音✕
〇音湖vs天瑠✕
〇由莉vs桜✕
第3戦
由莉vs天音
桜vs音湖
天瑠vs阿久津
第4戦
桜vs天瑠
天音vs音湖
阿久津vs由莉
第5戦
桜vs天音
音湖vs阿久津
由莉vs天瑠
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─モニタールーム─
「……お姉様……」
2戦目、らしくない負け方を喫して倒れ込んでいる天音を璃音は心が締めつけられそうな思いで見ていた。
(天瑠……いつの間にか強くなってたのはびっくりした……見てたけど……動きが違った。音湖さんと練習してたのは知ってるけど……まだ時間そんなに経ってないよ? 本気の音湖さんと少しだけ渡り合えてたし……天瑠……何があったの?)
決して天瑠が悪いわけではない。むしろ、強くなければいけなくて、予想以上の出来事に璃音は喜びたいくらいだ。
けども……その一戦から自分たちの育ての恩人が思うように戦えず苦しんでいる姿は見ていられなかった。
助けに行きたい。今にも飛び出して天音を元気づけてあげたい。励ましてあげたい。
そう思っても……自分にはその資格がない。それをしてあげられるのは……今戦っている人だけだ。
だから……璃音は神様に祈るように、次の戦いに願いを乗せるしかなかった。
(由莉ちゃん……お願いします。どうか……お姉様を……立ち直らせてください……っ)
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合同連戦第3戦 由莉-天音
(次の相手は……天音ちゃんか……もう少し後が良かったなぁ……)
1戦目は音湖と当たり、幾許と耐えられずに敗北したものの、2戦目の桜戦では桜の刀とライフルを使った巧みな攻めに苦戦するも、なんとか弾を当てることに成功して勝利した。
さらには自分の戦闘終了が1番遅かったみたいで休憩もまともにさせてもらえなかった。
真正面からの戦闘になれば勝つのは難しいだろう。
戦いの方針を立てた由莉はもう一度装備を確認すると、自分の1番の親友でありライバルとの対決に臨んだ。
─森林ステージ─
(さて……と。まずは役に徹しよっか)
気配を辿って、由莉は大体の居場所を理解する。
……あからさますぎて逆に不安になるくらいに。
(……天音ちゃん……何かあったね。でも、この荒れ具合は……おかしい)
────────────────────
「はぁ……っ、はぁ………っ」
……焦る。
「勝たなきゃ……絶対に……っ」
……荒れる。
「っ、だめだ……これじゃ、ゆりちゃんにも……」
……慌てる。
「なんで……? こんなこと今までなかったのに……っ!」
激しくなる胸の動悸に表情を歪ませ、持っている小太刀が手汗で滑りそうになる。
初めてだ。仕事の時でさえこんなことはなかった。
手傷を負っても、この胸の苦しみは起こらなかった。
激しいプレッシャーが天音を全方向から推し潰そうとする。この精神状態は……変わりそうにない。
もし、このまま最後の戦いになれば?
この状態で敵と殺し合いをして……勝つのはどちらだ?
火を見るより明らかだ。
このままならば……天音は次の戦いで死ぬ。
「くそ……っ、くそぉ……っ」
相手には見えない木の影にもたれかかり、自分の不甲斐なさに心臓を握りつぶされそうになる。
天瑠に負けた。守ろうとしていたのに、呆気なく負かされてしまった。認めろと叫びつつ、認められていない。
不安定な精神状態の中、もう戦いは始まっていることを自覚してなんとか立ち上がる。
「勝て……ボクは升谷天音……瑠璃の意志を受け継ぎ、天瑠と璃音を育てるために生きてきた……元黒雨No.2……たとえ……見える空が黒に染まっても……ボクは……勝つんだ」
ゆらりと立ち上がり、順手で持っていた小太刀を……逆手に持つ。
「…………」
戦いの意味を……変える。
生きるためじゃない……
殺すために。
……誰が殺された
パパ……、ママ……
瑠璃…………
……誰のせいだ
全部……あの組織のせいだ。
ならば……『てめぇ』の願いはなんだ。
(ボクは……黒雨を……誰一人残らず……『復讐』のために……、)
「『殺す』……邪魔なんて……させてたまるかァ……ッ!!!」
黒く……クロく……染まる。
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「あ……ああぁ………っ」
見るだけで……天音の殺意は伝わってきた。
久々に感じる……この雰囲気。ドス黒く、いつもあの時、漂わせていた空気だ。
璃音は胸を強く握った。
「お姉様……だめなんです……それじゃあ……解決しないんです……っ」
今の……『クロ』時代の天音なら強い。だが、この覚悟には欠落があった。璃音には分かった。
「だめ……やめて……っ」
「璃音ちゃん……? どうしたの?」
「止めないと……お姉様を止めないと! 使ってるのが非殺傷の武器だとしても……今のお姉様は……誰かを殺そうとしています……っ!」
…………仲間が見えていないのだ。
なぜ、天音がNo.2として『同族殺し』を許されていたのか。邪魔なやつを消すためもあったが……元々の天音の戦い方が問題だったのだ。
本来の『クロ』は……その場を黒く塗り潰すが如く、敵も味方も全員殺す……殺戮者だった。
瑠璃が来るまでずっとその戦い方だった。もし、その時まで考え方が戻っていたのだとしたら───!
「由莉ちゃんが……危ない……っ」
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───それは由莉にも分かった。
「な、、なにこれ……こんな殺気……だったっけ」
敵意?殺意?
馬鹿馬鹿しい。これは……殺戮そのものだ。
(天音ちゃんが……狂ってる。原因は……負け。誰に負けたら……こうなる……?)
なんて考えるも、鼻から分かっていた。
(天瑠ちゃんに初っ端負けて……その後、桜さんか阿久津さんか音湖さんかにボコボコにされた。……間違いない)
ならば、天音の精神状態が異常なのも理解しうる。でも……由莉は怒った。
(それは……だめだよ)
───15分後。
「ハァアアア……ッ!」
「くっ……」
牽制用の銃弾も使い果たし、肉弾戦となった2人の攻防は一進一退だった。天音の双剣を由莉はナイフで受けるのを中心に避け続ける。
終わらせる気なんてなさそうだ。一度体制を崩せば、そのまま天音に殺されるかもしれない。
「フゥ……!」
「…………っ」
天音の姿は……あまりにもかけ離れすぎていた。
これは……果たして戦いなのだろうか。
分からない。が……言えることはあった。
……天音が自分の届かない場所に行こうとしている。
自分の意義を半ば崩され、前の姿に還ろうとしている。由莉はそんな天音を……どうにかしようと考えた結果────、
「……はぁ……」
ため息をついた。
自身の装備の軽さを利用して後ろに思いっきり飛び下がると、天音に言葉をぶつけた。
「なに? 天瑠ちゃんに負けたのがそんなに悔しい? ……ちょっと人を馬鹿にしすぎてない?」
「……ッ」
「どうせ勝てる、そうタカをくくってたんでしょ。守っていかなきゃって気持ちは分かるよ。私だって璃音ちゃんのことは守りたい。もちろん、天瑠ちゃんも。だからって……いつまでも自分が勝てるなんて自惚れ、やめなよ」
いつか、越えてくれなければいけない、越えてくれると信じていた由莉にはそんな気持ちは抱かなかったのだろう。
いつまでも、守っていかなきゃいけない。そんな2人の常に上にいなければならない。だから……勝って当たり前。負けなんてありえない。
「その考え方、私は大っ嫌い」
由莉は絶対に許すことは出来なかった。
最初は何一つ守れる力のなかった由莉からすれば侮辱も甚だしい。
悪く言うならば虫唾が走り、反吐が出る。そして、強者が弱者に負ける典型的な例そのものだ。
なればこそ、由莉は立ち上がらなければならない。弱者だった由莉が死に物狂いで努力して、圧倒的強者だった天音を倒した身として。
「勝つよ。あの時の言葉、もう一度言うよ」
さぁ、あの時の……暴走した天音を救う時とは意味が違う。間違った方向に行こうとする大好きな友達を正す戦いだ。
それでも、敢えて同じ言葉を使おう。
ゆっくりとナイフを突き出し、その先にいる天音を見定めて睨む。
「天音ちゃん、私と勝負しよ?」
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