【ハロウィンSS】 みんなのハロウィン

「ん……やぁ……っ、そ、そこはぁ……」


「がう〜〜〜」


「やめ、やめぇ………ふあぁ!?」


 柔らかい感触がそっと耳元をくすぐり声が上がる。

 耳たぶが2つのぷにぷにしたものに挟まれ赤ずきんにしわができるのも気にならないくらい声を上げた。


「がるるる……」


「た、食べないでくださぁい……ひゃあん!」


 刺激が強い部分に触ったのか、さっきまでとは比べ物にならない高さの声が響く。

 舌なめずりをしながら、涙目の少女をマウント姿勢で楽しそうにしている。


「がおーー食べちゃうぞ〜」


「ひゃっ、もう耳を甘噛みするのやめてくださぁい……」


「ぐるるる〜〜っ」


 ベットの上で戯れているのは、赤ずきんを被った女の子とオオカミのような耳を付けた少女。

 今現在、人狼が赤ずきんちゃんを押し倒している、そんな状況だ。


「むぅ〜〜〜、いいかげんにしないと、悪いオオカミさんはショットガンでお腹をドカンってしてあげますよっ」


「くぅん……いいじゃんっ、璃音ちゃん」


「だめですよっ。も〜」


 口惜しそうに粘る由莉も纏めて起き上がった璃音は目の前の愛くるしい相棒である少女を見つめた。狼の耳のようなものを付け、頬に3本のひげが描かれ、腕ももふもふな毛皮を使っているようで可愛さが目立ちまくっていた。

 同性なのにも関わらず璃音はもう由莉にメロメロだった。


「かわいいです……璃音が独り占めしたいくらいですよぉ……」


「璃音ちゃん……もぉ……」


 胸の中で由莉を感じるように優しく壊れないように璃音はぎゅっと抱きしめた。由莉もされるがままにまだまだ成長途中な胸の中にうずくまった。


「まったく……ボクを外さないでよね。これ時間めちゃくちゃかかったんだから……。てか、2人ともすっごく可愛いんだけど」


 と、そんな2人の前に新たな仮装姿の子が現れた。

 紫のラインが入った黒の短パン、それに合わせるように同じ二色のボーダー柄のニーハイソックスがクールな印象を漂わせる。上には腕や、胸部付近を覆うように着ている黒い下地の上から包帯をぐるぐる巻きにし、顔にもおでこの上に2~3巻きして左のこめかみ辺りでリボンを形作っているところにキュートさも見られる。ちらっとへそが出ているのもポイントだ。

 少しだけ恥ずかしそうにしながら伏し目で2人をチラッと見た。


「……どう? マミー?ってやつをイメージしたらしいんだけどさ」


「すごい……かっこいい気がするのに、かわいい……」


「お姉さま……すてきです……!」


 由莉も璃音も目をキラキラさせながら天音の衣装を誉める。不安げな表情も一気に明るくなった。


「ならよかったよっ。天瑠もそろそろ来るかな……」


 来るまでには2分とかからなかった。

 楽しさを声に孕ませて出てきたのは、言うならば『黒猫魔導士』だった。

 布は黒を使っているのと対称に袖先やフードの端っこ、スカートの裾には雪のようなもこもこのファーが着いている。さらには名前にもあるようにフードは猫耳がついていて、しっぽやホウキ、かぼちゃの入れ物とアクセサリー全開の衣装となっている。


「わぁ……みんな可愛い……!」


 マミーに赤ずきんに人狼、色も鮮やかな仮装に本当にどこか別の世界へ来てしまったのでは?なんてことも思い目を輝かせていた。


「天瑠の衣装……すごいかわいい……!」


「うんっ、璃音もすっごく似合ってるよ!」


 自慢の妹だと興奮気味の姉はホウキを放り投げ、抱きつき、ぷにぷにの頬と頬をくっつけた。

 双子の2人は今やフードを被り髪型も後ろが見えないせいで本当に同じ女の子が2人いるかのようなドッペルゲンガーが起こっていた。

 そんな仲良しすぎる双子の様子をそばで見ている天音と由莉まで気持ちがふわふわしてきた。


「楽しそうだね、天音ちゃんっ」


「ゆりちゃんもだよ。あ〜もう、本当にかわいいなぁ〜前だったらボクが独り占めしてたのにな〜」


 軽々とお姫様抱っこした天音はすぐ前にいる最愛の親友のキョトンとする顔を覗き込んだ。

 腕の中に天使がいるようにしか思えず、この愛おしい抱き心地、重さ、由莉の全てを二度と手放すことなんて出来そうになかった。


「もう……絶対に離さないよ?」


「……うんっ」


 何もかも、そう誓い合う2人はくっつけば誰であろうとそこには踏み込めなかった。いつも一緒にいる璃音であろうと、由莉のために動いてきた天瑠であろうとだ。

 ……と、4人集まってうだうだしてもいられないと天音は惜しいと思いながらも由莉を降ろすと2人で先頭に立った。

 既に2人の身長差は頭一つ以上あり、由莉に至っては双子よりも小さい。

 それでも───そこに立つ資格があるのだ。


「よし、じゃあ……そろそろ行こっか」


『おー!』


 まずは隣の部屋だと。

 ごくりと唾を呑み、全員が臨戦態勢(?)になる。

 天音は腕から垂らした包帯を振るように、天瑠はホウキをドアの前に向け、璃音はかごのリンゴを投擲しようと構え………由莉は嵌めている狼の手を見せるようにしながら「ぐるるる〜」と威嚇する。


(((かわいい……)))


 天使のかわいい威嚇なんて聞くだけで耳の保養だった。

 ずっと聞いていたかったがそうしてもいられないと、天音がドアを叩き4人揃って声を張り上げた。


『トリックオアトリートっ! お菓子をくれなきゃいたずらするぞぉ〜〜!』


 言い終わるのとほぼ同時にその部屋は開かれた。


「ハッピーハロウィンにゃあああああーー!!!」


 どさあぁぁ!と効果音が聞こえてもおかしくない、雪崩込む山のようなお菓子。

 どこから持ってきたんだと言わんばかりの量に4人は奔流に呑み込まれた。


「って、多くない!?」


「にゃっはは〜これくらいがちょーどいいってもんにゃ」


 埋もれた4人が顔を出すと、高笑いする音湖の姿があった。その姿は『シスター』と言ってもいいだろう。黒と白の修道着に身を包み、シンプルな作り故に豊満な胸が目立ち、スタイルの良さが際立つ。

 少し特徴的なのは黒い布で右目を覆うように巻き付けていることくらいだ。


「この1年のお礼にゃ。ほんの一部だけどにゃ」


「ね、音湖さん、それでもこの量は……」


「こーでもしなきゃ、うちの気が収まらないんだにゃ。うちも勝手にあげたんだから、みんなも勝手に貰ってくれにゃ」


 黄色の半瞳が優しく由莉たちを灯した。

 愛情の全てを見せようとして、まだまだ全部は出しきれない、そんなもどかしさも含め、ハロウィンの贈り物だった。

 今度は由莉が自ら前に出ると、ここまでのことをしてくれた音湖に頭を下げた。


「ありがとう……ございます、音湖さんっ」


「にゃはは、いいってことにゃ。そう恭しくされても困るからにゃ? 由莉ちゃんはいつも通りの由莉ちゃんでいて欲しいにゃ。それが、うちのささやかな願いでもあり、みんなが思ってることにゃ。そうだよにゃ?」


「「「はいっ!」」」


 太陽のように自分たちを照らし、いつも自分たちの前に進む由莉。その信頼は何があろうと絶対だ。

 ……そう分かっていても、こう明言されるのにはまだまだ慣れないようで頬を赤らめながら下を見てムズムズしていた。


「み、みんなぁ……」


「にゃははっ、諦めも肝心ってことにゃ。さて……とにゃ、あっくんも色々準備したみたいだからそろそろ行ってやるにゃ」


 笑いながら肩を叩いた音湖は全員で協力してお菓子の山を袋にまとめ、由莉たちの部屋へと持ち帰った。

 次は阿久津の部屋だ。


「ちゃっかり音湖さんも付いてくるんですね」


「ふふん、当たり前だにゃっ。愛するあっくんの仮装姿なんてそうそうお目にかかれるものじゃないにゃ」


 絶対に一番楽しみにしてるよね?

 そう心の中でつっこむ4人だが、確かに阿久津がどんな姿で現れるのかは興味があった。予想しようと思えば出来るのかもしれないが、それは野暮というものだ。


 そんなこんなで目的地へと辿り着いたが……何やら違和感を覚えた。


「……冷たい……?」


「阿久津さんの部屋からですね……」


 足元に冷気を感じるも、確実に演出の類だと思いつつ全員がワクワクを心の中に秘めた。

 急かすように、音湖がサッと前に出ると扉を軽く叩いてみる。


 ───トントン


 ……しかし誰も来ない。


 ───トントントン


 ……しかし誰も来ない。


 ───ドンッ、ドンッ


 ……しかし誰も(ry


「じれったいって言ってるんだにゃあ!?」


 ───ボガァァァンッ!!!


 痺れを切らした音湖は反対側の壁まで走ると、壁を蹴って急加速し、部屋の扉に回し蹴りをぶちかまし破壊してしまった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「にゃ……にゃはは〜癖でやっちゃったにゃ♡」


『何やってるんですか!!??』


 顔を揃えて追い詰める少女たちの気迫に、やらかしちゃいました?とウィンプルの上から髪を掻きながら笑っていたが……蹴破ったことにより中がはっきりと、……訂正しよう。ぼんやりと見えていた。

 扉の向こうは紫色に照らされたドライアイスが溢れ、部屋は全体が黒くまだ全容が分からない。


 音湖さん、100%怒られるだろうな。

 4人は共通の理解を示しながら中に入ると、部屋の奥に人影が見えた。


「荒い登場だが……眷属たちよ、歓迎しよう」


 暗さに目が慣れてくると、そこには『ヴァンパイア』がいた。

 金色の髪に緋色の目。

 黒の衣装で身を包み、裏地が血の色の襟が高いマントを羽織っている。

 片手には真っ赤な液体の入ったグラスがあり、一口。


「いい夜だ……」


 ニヤリと笑うと牙が鈍く光り、目の前の少女たちの注目を一身に集めている。


「さて、我が眷属たちよ。今宵はよくぞ来てくれた」


「…………」


「ささやかではあるが宴の準備が────」




「あ〜ジュースだにゃ、片付けしてて喉乾いてたから助かるにゃー」


 ササッとシスターが現れたかと思いきや、ヴァンパイアの手からグラスを奪い取り一気飲みしてしまった。


「ふぅ、生き返るにゃ……って、にゃ? 何やってるんだにゃ?」


「何をやっているか? 教えてやろうか? 

『お前こそ何をしているのですか!!!??』」


 容赦のないゲンコツが脳天を直撃した。


「いっっっだぁ!?」


「まったく……っ、恥ずかしながら衣装も考えて、赤色のカラコンも付けて、役作りも頑張っていたのにも関わらず……扉をぶち壊し、雰囲気をぶち壊し……やはり音湖は音湖ですか」


「う……」


「本当に……そういう所は直さなければならないと言ってるではないですか。もっとしっかりしてください。それでみんなの前に出すなんて私が嫌ですよ。今のままでは夢のまた夢ですからね?」


 軽い説教を食らった音湖はしゅんとしつつ、すごすごと由莉たちの後ろに戻った。

 さて、続き───とはいかなかった。

 羞恥を耐えてやっていたのだ。流石に切り替えは難しい。


「……あーー……もうこのままでいいですかね。言い直すのめちゃくちゃ恥ずかしいものなので……」


 だが、それは認められません!


『さっきので!!!!』


「え、いや、しかし……」


『お願いします!!!!』


 先程のかっこいい阿久津に魅了された由莉たちはもっと聞いていたかったのだ。いつになくクールな姿、今度はいつ見られるか分からないと猛抗議する。

 これには阿久津も折れてしまい再スタートとなった。


「では、改めて……ごほん。よくハロウィンの宴に集ってくれたな、眷属たちよ。ささやかではあるが宴の用意も直ぐに出来上がる。それまでの時間潰しにそこに菓子でも食すといい」


 指を指した先には確かにお菓子であろうものが5つあった。

 食べていいか、と聞く前に吸血鬼はマントを翻して行ってしまった。


「……かっこいい」


「ねっ。ちょっと厨二ぽいけど」


「なんかドキってしちゃったね、璃音」


「うんっ。そうだね、天瑠っ」


 ドキドキする4人を見ながら、音湖は誇らしげに豊満な胸を張っていた。


「そりゃ、あっくんはかっこいいからにゃ。もちろん、誰にも渡すつもりはないにゃ♪」


「そうですけどー、扉を蹴破るのはダメって言ってるじゃないですかっ。阿久津さんも怒りますよっ」


「う、面目ないにゃ……」


 まぁ、とりあえず、と。阿久津が置いていったお菓子でも食べようかという話になって天瑠がそのトレイをそそくさと持ってきた。

 大きな土色のシューの中にチョコレートムースとおばけのクッキーが飾ってある、そのお菓子はハロウィンにはうってつけと言ってもいいものだった。


『いただきまーすっ』


「あむっ……んん〜っ♪」


 一口かじるだけで外のカリふわな生地と中にぎっしり入っている甘さ控えめのクリームが口の中で大騒ぎしている。材料までもがハロウィンに活気づけられたのでは?なんて思うくらいだ。

 大きめではあったが、ぱくりと食べてしまった女の子たちは満足し、笑顔が咲き溢れた。


「美味しかった〜っ。でも、まだお腹ぺこぺこだね」


「うん……楽しみすぎて朝ごはんも少ししか食べなかったしね」


「璃音もです〜」

「天瑠も〜」


 夜ご飯はまだかな?なんて思っていると、思考を読んでいるのか準備が出来たと言うので全員で駆けつけると、そこには豪勢な食事が用意されていた。

 ハロウィンを題材にしているのもあり、手のひらに乗るくらいの小さなかぼちゃ『プッティーニ』の中身をくり抜いてそこにクリームスープを入れたものを初めとし、パンプキンパイや、かぼちゃの入ったグラタンなどのかぼちゃを使った料理。もちろん、スペアリブやハンバーグと由莉たちの好物も用意されてあった。


 予想以上の料理に少女たちは瞳の中に星を浮かべ、疾風の如く椅子に座った。阿久津と音湖と由莉、天瑠と璃音と天音と対辺に3人ずつ座ると、元気に『いただきますっ!』と口にし、それぞれが好きな物を食べ始めた。

 そこには先程とは比べ物にならない幸せそうな笑顔があった。この笑顔のために、料理を作れるのだと本人も嬉しそうにしていた。

 阿久津も食べよう、そう思った時、服を引っ張られ横を見ると音湖が少し目配せしながら見てきた。


「どうしましたか?」


「えっと……にゃ。うち……似合ってるかにゃ?」


 ずっと聞きたくてたまらなかった。阿久津の目に止まることが一番嬉しいんだと思い続けた音湖だが、これでは何も聞けずに終わりそうだと話を持ち出したのだ。

 そういうこと、と阿久津も納得すると立ち上がる。

 食べている由莉たちの手も止まり2人の動向に注目した。


 そっと手が伸び、白くきれいな肌に触れそのまま顎へ。聖職者のシスターと夜の王であるヴァンパイア、その対比もあってか2人の存在は余計に際立つ。

 強制的に視線を合わせられた音湖は瞳と瞳が交わりあうのを感じ次第に顔が紅潮していく。

 ゆっくりと息が吸われる。言葉を発する前兆だ。

 普通の音湖なら一瞬で気づくだろうが、今はそんな状況になかった。期待と不安、両方が混ざる中、阿久津はこう口にした。


「とてもよく似合っていますよ。私は5人の中で音湖が一番好みですよ」


「……あっくん……!」


「今すぐにしたいですが……出来ないのがとてつもなく惜しいです。なので───それまではこれでお預けです」


 ───いずれ来たるその時、本物をあげましょう。

 そんな意味合いも込め、阿久津の指がそっと音湖の唇に乗せられた。

「わぁ……」とオーディエンスの少女たちも口元に手を当てながらなるべく静かに見守っている。

 対する音湖は予想外のことが起きすぎて脳が処理不能を起こしてしまっていた。嬉しいなんてチープな言葉しか考えても考えても出てこなかった。


「あっくん……うち……嬉しい……」


「ふふっ……っと、いけないいけない。マスターに送る写真を撮り忘れてましたね。少し時間を取ってもいいですか?」


 もっとと言う暇もなく、阿久津が思い出したように部屋へとカメラを取りに行ってしまった。

 そのわずかな間だったが、音湖は嬉しさのあまりここで死んでしまうのではというくらい興奮し、顔が人生で一番紅くなっていた。


(にゃあああぁぁ………♪♪♪)


「みなさん、こっちに来てくださ〜い」


 阿久津に呼ばれると同時に飛ぶように行ってしまう音湖を由莉たちは幸せそうに見つめていた。


「……私たちも行こっかっ。みんな、笑顔だよっ」


「うんっ」

「うん!」

「はいっ!」


 4人も集まると、ダイニングの少し高くなった所にカメラを設置し終わった頃で、後は時間差でシャッターが切られるようにボタンを押すだけだ。


「10秒でなります。自由なポーズでいいですからね。……せーの」


 ピッ、ピッ、ピッ、……


 3秒で阿久津が音湖の傍に行くと最初は全員直立だった。

 それではつまらないと由莉が隣にいる天音にひそひそ話をし、由莉の隣にいる璃音と天音の隣にいる天瑠が目を合わせ何をするかを決め、音湖が1歩離れるのに4秒。


 ピ─────っ。


 残り2秒。屈んで顔が並んだ天音の頬に由莉の唇が当たった。「なぁ……っ!?」と変な声が出る。

 音湖はその1歩を踏み出す。



 残り1秒。天瑠は顔を真っ赤にする天音に、璃音は大好きなお姉様にキスをする由莉に思いっきり抱きつく。音湖は思いっきり阿久津へと飛び込み、その本人が慌てながら受け止めようとして───。


 ───パシャリっ。


 賑やかで、楽しくて、最高の写真が撮れた。

 誰が見ようと幸せの波が心に伝わってくるようだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ──東北支部──


「ハロウィン……かぁ……去年までそんなこと意識することもなかったよ」


「うん、そうだね……」


 ももの呟きに反応するように逆さにぶら下がる1人の子がいた。よっ、と半回転して見事に着地を決めると、ももの手を取り笑顔を見せた。


「でもさっ、これからは毎日楽しいことは楽しもうよっ。笑って過ごせるのが一番いいもんっ、ね?」


「うんっ。じゃあ、蜜檎さんのとこに行こっか」


「よぉ〜し! おねぇからたくさんお菓子貰っちゃうぞ〜っ」


 元気な様子を愛おしそうに見つめるももは一緒に手を繋ぐと、また先へと進んだ。

 後ろはもう振り返ることなく、ただ前へと───。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ──中四国支部──


「桜、ほら今日はハロウィンだろ?」


「……ありがと」


 好きそうなお菓子を父親から貰った桜は目をそらしながらもお礼を言った。


「……な、桜」


「なんや?」


「今度、時間あればどこか行ってくるか」


「だから、あんたは支部長やろに。仕事すっぽかしてどこ行く気やねん。……まぁ、時間が空いたら付き合ってあげんでもないわ」


 微妙な空気は変わらない。が、それでも2人の距離は少しは狭くなったのかもしれない。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ピロンっ。


「ん……メールか。阿久津からだな……」


 送信されてきた写真を見た1人の男は元気そうな子供たちの様子に笑みが浮かんだ。


「そうか……幸せに過ごしているなら、私は構わない」


 自分がその場にいなくとも、この様子なら大丈夫だろうと。かわいい子達一人一人を眺め、中央付近で目が止まった。天使の笑顔を見せている子に、これからもずっとそうあって欲しいと願いつつ、ゼロは動き始めた。

 1人歩くゼロの姿は誰の目にも止まらない。

 それでいいのだ。これからの旅路には同行人はいらない。各地を回ろう、そう決めていたのだ。


「そうだな……まずは■■■にでもいくか───」


 皆んなが歩きだし、ゼロも歩き出す。

 そうして物語はまた進んでゆく。

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