強くなりたい、ただそれだけ
時は少し進み合宿6日目。
由莉・璃音・もも組が少しでも、ももの命中距離を伸ばそうと練習する中、天音・桜組はバッチバチにやり合っていた。
「月牙蓮華流連術『
「くぅ……っ」
桜の刀の重量を感じさせない軽やかな16連撃に天音は苦心しながらもなんとか捌ききる。だが、そこに隙がある訳ではなく、次々と模擬刀の斬撃が振り降ろされていく。
「んんん〜ええな、13歳でそれなら上出来もええとこや」
「そりゃどうもっ! 今度は……こっちからっ」
桜の刀を二刀をクロスさせて受け止めた天音は体をひねりながら左手で持った刀を下から滑らせて桜の脇腹を削ごうとする。が、桜に先読みされそれすらも受けられてしまう。
だが、一瞬桜の攻撃の手が緩まったことにより、天音の攻撃の時間が訪れた。手数の多い天音は桜にまともな呼吸をさせることなく斬り込む。
「それじゃあ……やってみるよ……っ! 『双龍演舞』ッ!!!」
この数瞬だけはと、天音は身体の力を振り絞る。
攻撃は最大の防御、なんて言葉を具現化するかの如く繰り出される猛撃に流石の桜も必死に耐える。
だが、本気の天音の斬撃はあまりにも速く、桜は受ける時に誤って少し力を込めすぎてしまう。
それが隙となり、天音の刃が桜の首に据えられた。
「かあぁ………馬鹿やったわぁ……」
「はぁ……っ、疲れた……」
互いに木刀を放り出すと、2人は共倒れになった。
何戦も何十戦もこんな全力戦闘が続いたおかげで、もう自力がからっきしだ。
「はぁ……っ、さすがに負けまくるのは嫌やな」
「そんなの……ボクだって嫌だ。それに、いきなりボコボコにしたの桜じゃん……」
「あははっ、一泡吹かしたろ思うたんや。月牙蓮華流奥義『
初見の猛攻は無理だ、なんて言いたい天音だったが、これが実戦だったらと思うとかなり怖かった。
勝負に言い訳していいのは遊びの中だけだ。
遊びでやっているのでは無い。最後の戦いで……絶対に死なないように、敵を殺さなければならないのだ。
誰が一人欠ければ、きっと端から崩れ落ちる。
天音も由莉も天瑠も璃音も、絶対に欠けてはいけない。何時までも一緒にいるためには…………絶対に超えなければいけない壁なのだ。
「……な、天音」
「んぁ、どうしたの桜」
天井を見ながら、汗だくになった赤茶の髪の毛を上に掻き揚げたまま、相対していた少女へ向けて賞賛の意を称した。
「あんた凄いな。二刀を自在に操れてるし、あたしの月牙蓮華流を真似しながらアレンジした技を作ってまうもんな」
「桜の流派がボクの戦い方に合ってたからだよ。ボクも手数派だからさ。それにしても技なんて考えたことなかったし技名なんて恥ずかしい……」
自分でつけた双龍演舞もなんか厨二っぽいと恥ずかしがるが、桜はそんなことは思っていなかった。
「ええやんっ。技として作られたものは何かしら強みがあるわけやろ? 例えば『燕返し』……って、あれは創作の技らしいから別のでやろか。江戸時代、新撰組の沖田総司は『三段突き』ってのを使ってたらしいんや。正式名は『無明剣』って言うんやけどな、聞いて分かる通り突き技や。突き技は『死に技』って言われること多いんやけど、なんでか分かるか?」
「と、突然質問しないで……頭がやっと回り始めたんだからさ……えっと、突き技が死に技な理由……単に隙が大きすぎるからじゃないの?」
「そうやよ。一度突きを繰り出すと、次の一手を出すのに手間取って、もしも躱され反撃されたときに防御が出来ない致命的な弱点があるんや。その点、沖田総司の突きは刀の構えは水平にして刃を必ず外に向けておくことで、突き技から一転して斬る技に繋げることも出来たんや。江戸時代の建物は天井が低かったからな。おめおめ刀を大振りしたら天井に突き刺さって抜けなくなってバッサリやからな」
かなり長々と話され、若干耳から飛んでいたが、天音はこの話の意味は何となく捉えていた。
「つまり……強みがある剣術に名前がついてるってこと?」
「そ。自分で名前を付けておけば剣の筋をイメージしやすいし、得意な型から殺れることだって出来る。何度も何度も、腐るほど反復練習して、身体に染み込ませる。その点で言えば銃もそうや。才能のありなし関わらず、やればやるほど力は伸びるし、当てられるようになる」
「それは……うん、ボクも同じ意見だよ」
桜の意見は事実だった。天音も由莉のようになりたくて狙撃銃を手に取り鍛錬を続けていたが、何度も何度も撃って身体に感覚を馴染ませた。
「けど……それでも恥ずかしいなぁ……」
「ええねんって。……確かにちょっと厨二チック……あ、」
「あ、じゃない! 頑張って考えたのに……!!」
「冗談やってば。おてんばな女の子の可愛げのある冗談やと思ってな」
「……突っ込みたいけど、借りもあるからやめとく」
笑顔で手を合わせてぺこりと形だけの謝りを渋々受け取る。正直、もうヘトヘトなのだ。
「はぁ……疲れたわぁ……」
「明日は連戦だったよね?」
「せやな。5連戦とかキツいけど、現場では言えないからな。……天瑠ちゃんとも久々にやれるからな。気張っていかなあかんな」
「ボクもだね。まだまだ負けるつもりはないけど……油断は出来ないからね」
…………その時、こんなことを言いつつ天音は若干、天瑠を見くびった面があった。
天瑠は確かに強い。暗殺系はまず天瑠に負ける。が、それでもまだまだ天瑠には実力面で負けるつもりはなかったのだ。
天音は知らない。
自分のお姉さまと同じように肩を並べて立つために、何をしていたのか────。
──────────────────
─森─
「はっ……!!」
───シュンッ!
「にゃっと、……いい調子にゃ。天瑠ちゃんの潜在能力、もうちょっと早く気づくべきだったかにゃ……?」
頬を掠めるように飛んできた投げナイフを片手で掴み取った音湖は遥か下にいるツインテの少女を見下ろす。
「……つかれたぁ……」
「にゃはは、そう言いながら毎日最後までやりきるのは偉いにゃ。璃音ちゃんの姉で天音ちゃんに育てられ、由莉ちゃんのことを知っているだけのことはあるにゃ。優秀すぎてうちが笑ってしまうにゃ」
巨木の枝から飛び降りた音湖は地面につく瞬間に一回転して天瑠の前に立った。
悔しそうに片手でナイフを回す天瑠だが、叶わないことは百も承知していたからため息をつくしかなかった。
「この距離から殺しにかかっても無理なんて……お姉さまとか由莉ちゃんはどうやって勝ったの……」
「この姿の時は全力を出さないようにしてるからにゃ。その時ならまだ勝ち目はあるかもにゃ〜。ま、天瑠ちゃんもそろそろ本気でやってあげるべきかなとは思ってるにゃ」
「だったらやってくださいよ! 天瑠は……もっと強くならなきゃ……じゃなきゃ、今度の戦い……1番先に死ぬとしたら……天瑠だから……っ」
天瑠は理解していた。前線に出る中で最も弱いのは天瑠自身だと。スタイルは暗殺だから、なるべく軽量にするために武器は投げナイフと拳銃、あとは手榴弾とかになるだろう。場合によってはP90を使うかもしれない。
天瑠は本音では黒雨のNo.持ちに勝てるビジョンが見えてなかった。
対戦では阿久津に負け、音湖に負け、由莉に負け、天音に負け、負けまみれの天瑠は事実上は璃音と同じ立場にあった。
それが前線に出て戦うのなら尚更だ。
「音湖さん……天瑠は……強くなっているのですか? 天瑠は……全然実感がなくて……」
「そういうもんにゃ。自分では分からないのも仕方ないにゃ」
「…………っ」
それが怖いんだと、天瑠は目で語っていた。
もう時間もないだろう。
強くなって、みんなと背を並べないといけないのだ。弱ければ何も出来ない、弱いやつが悪く、強いやつが正義になるこの世界で弱者に回ればそれ即ち『詰み』だ。
既に焦りからか、普段色んな感情を隠している天瑠には恐怖のオーラが禍々しく滲み出ていた。
そして、そんな道に迷う教え子を導くのも音湖の『師匠』としての矜恃だった。
「けどにゃ。傍から見てるうちから言わせてもらうと……びびるくらい変わってるにゃ」
「お世辞はいりませんよ……ダメならダメって……」
「うちを信じないかにゃ?」
「……だって……まだ1度も追いつけてなくて……」
「……あのにゃあ、天瑠ちゃん。うちがずっと同じ加減で相手してると思ってるのかにゃ?」
「ぇ……」
天瑠の体感はずっと同じような結果で、縮まったと思った距離も気のせいだと言わんばかりに縮まっていないようだったのだ。
何それ?と呆然とする目の前の少女に、音湖もそろそろ華を持たせるべきなのかと考えに考えた。
「…………うちも手加減して負けるの嫌なんだけど……いいにゃ。明日、連戦があるから、早朝、ここに来るにゃ。初日と同じようにやってあげるにゃ。……さてと、帰るかにゃ。今日もお疲れさまにゃ」
毎日毎日、必死になる姿をあの日の少女に重ねつつ、音湖は力を使い果たした天瑠を背負うと、山の中を駆けていったのだった。
……明日は合同連戦だ。今回の近接戦闘組である天音、天瑠、桜、阿久津、音湖、そして1人が休憩に入らないよう由莉も参加しての6人の総当り戦。
誰もが思うことはただ一つ。
『勝つ』それだけだった。
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