【ももの過去編fin】役立たずのもも
それから蜜檎は近くにいた仲間に連絡を取り、なんとか救出された。
事故のことやももの家族について、付近のカメラから現状を報告された時は蜜檎はさすがにももが不憫でならなかった。
父母は爆発の直撃でバラバラになり、妹はももが庇ったようだが肺や血管を破片が貫き、別の病院で懸命な治療が行われたがまもなく死亡したと報告書には記載されていた。
そんな惨状の中で背中の火傷だけで生き残ったのは奇跡以外の何物でもなかった。
(……もも……)
今、魘されながら側で眠るももに自分は何が出来るか自分なりに出来ることを模索した。
(……どうするかしらね……学校には行かせないといけない。お金くらいならいくらでも使ってあげられる。けども……ももの傷は簡単には癒えないわね……)
「ぃか……ないで……くるみ……」
「…………」
寝ながらも苦しむももを蜜檎はただ優しく見守った。辛くて泣きそうな時は手を握ってあげた。
「もも……」
─────────────────
何週間か経つと、ももはすっかり蜜檎に懐いて側から離れようとはしなかった。
「蜜檎さん、膝枕してくださいっ」
「また? 飽きないわねぇ……」
蜜檎も自分の膝枕を貸してあげた時はあまり魘されないことを知っていたし、気持ちよさそうにしているももを除けるのもなんだったのでそうしてあげた。
「もも、大丈夫?」
「はい、おかげさまでなんとか……」
「そう? ならいいけど……」
黒紫の髪を撫でながらこの時間、いつも蜜檎はももにしてあげられることを考えている。
(取り敢えず、学校に行けるように手筈は済ませたわ。……ももにあれを見せる……いや、それは……気が重いわ。だってそれは……ももに……)
ぐっすり眠るももに蜜檎はどうしてあげるのが一番なのか分からずにいた。
(だめね……子供のことなんて全然分からない。親ってこんな風に考えて育ててたのかしらね……)
─────────────────
それから凡そ1年。
ももが学校に行きたいと言うまでに少し時間を要したが、転校生という形でその地方の学校へと通ったももは少し馴染めずにはいたが、問題ないくらいには生活出来ていた。
そして、小学校を卒業し、中学生への準備を始める春休み。
蜜檎は決意を固めてももを呼んだ。
「蜜檎さん、話って……」
「……もも。実は、あなたに黙っていたことがあるの」
「え……っ?」
「…………ももは今の国をどう思う?」
「……嫌です。ここでも同じ学年の子が事件で……死にました。くるみも……この国を変えるために、みんなを笑顔にするために何かしたいって……っ」
「……ワタシたちはね、その為に戦ってるのよ。こんなゴミのような国を変えるために……ね。ももにはもう隠さずに教える。その上で……これからの事は判断しなさい」
蜜檎は自分たちのことを全て話した。
その為に……悪人を殺す組織なのだと。
「……っ!!」
ももは聞いた途端に足がすくみその場でへたり込んでしまう。
声が震えて上手く言葉が出ない。
「……それ以外……ないんです……か?」
「ないわ。こうしている間にも人は死んでる。4秒に1人は死んでるなんて話も随分前にあったけど、今の世界ではそんなもので済まされない。あなたの……被害にあったあの事件、他に20人以上死んでる。……子供も大勢いたわ」
「……っ、なんで……そんな酷いこと……どうして……そんなことが……っ!」
「自分たちが得をしたいからよ。国の根幹さえ悪い組織に加担してる者もいるらしいわよ。……それがこの事態を引き起こした。悪い利益のために理不尽に命が奪われ続けているのよ」
「じゃあ……みんなが死んだのは……」
「……あの後、犯行声明が出されたわ。自分たちの仲間を解放しろ、さもなくば被害は拡大すると。……そのために……たくさんの子供が……この国を変えていく将来のある子供たちが死んだのよッ!!!」
蜜檎は机にヒビが入るくらい掌を打ち付けた。その怒りと涙は……ももの心を少し変えた。
「もも……もう少しアタシたちが頑張っていたら……あなたはきっと今も幸せに暮らしていたはずなのよ。……だから……そのせいでももの家族全員を奪わされて……しまったんだと思うと……アタシは辛い……っ」
「みつ、ご……さん…………」
「……ごめんなさい。少し待ってちょうだい」
蜜檎は耐えられないとティッシュで目頭を摘んだ。だが、目じりから涙が流れ出していた。
ももは……どれくらい蜜檎が自分のことを想ってくれているかを知った。
こんな自分のためにそこまで怒って、そこまで泣いてくれるのかと。
血の繋がりもないのにそこまでされるなんて考えてもなかった。
「……もも……今なら逃げてもいいわよ……アタシたちは人殺しの組織よ。こんな危険な人と一緒にいても───」
「…………そんなこと……言わないで……ください……っ!」
ももは走り出すと、まっすぐ蜜檎の元へと飛び込んだ。
「蜜檎さんまでいなくなったら……わたしは……何もできません……っ、まだ何も見つけられていません……自分が何をしたいか分かりません……みんなの役に立てる方法が分かりません……なにも……分かりません……っ」
「っ、もも……」
「側に……いてください……っ」
蜜檎の胸に顔を埋めながら、せめてもと嘆願するももに蜜檎は「そんなことしなくても望むなら傍にいるよ」と優しく語りかけた。
安心して頷くももだったが……その信頼に蜜檎はつけ込むような形でももを試すことにした。
やれることは全部やってあげたかったのだ。
「……ね、もも。アタシのためならなんでも出来る?」
「……蜜檎さんのためなら……やれます」
「そう……なら、付いてきなさい。今からさせることは他言無用よ。それを守れるって信じてるから今から連れていくわよ」
不安そうにするももを連れて、蜜檎は別の施設へと連れてきた。
そこにいた人達はももに話しかけるも、蜜檎から離れようとせず人見知りするような素振りを見せた。
単純な話だ。蜜檎以外の人と話すことがももには難しくなっていたのだ。
「もも、挨拶くらいはしなさい?」
「ごめんなさい……」
「次から気をつけなさい。当たり前のことくらいは当たり前にしなさい」
「はい……」
歳不相応なまでに色々なことが出来ていないももを律しながら、2人は地下へと降りていった。
そこで、とある部屋へと連れていくと、ももはその場所に漂う臭いに息を鼻ですることが困難になった。
「うぅ……」
「慣れないのも当然よね。……もも、あなたに見せたかったのはこれよ」
そう言って、蜜檎は銃をももに見せた。
本物の銃を見たももは身体を震わせ、一人じゃ立つことさえ難しいくらいに怯えた。
「…………っ」
「まぁ……それが普通の反応よね。もも、大丈夫かしら?」
優しく気遣われ、ももは何度も頷くと自分を鼓舞し続けながら自分一人で立った。そうでもしなければ、もう一歩も動ける気がしなかった。
「もも、やれるだけやってみましょう? ももにこれが撃てるか色んな種類の銃で検査するわよ。何も無ければ、ここでの事は全て忘れていつも通り暮らしなさい。もしも……ももに何かしらの適正があれば……その時は、ももに判断を委ねるわよ。……やれる?」
「……は、い……っ」
涙目になりながら蜜檎の手をぎゅっと握ったももに蜜檎は選択を誤ったのかもしれないと後悔したが、やらせるだけだからと心の中を整理させた。
ももの身体能力に関しては学校で受けたスポーツテストの結果から大体予測はできていたので、それに沿った形で反動が過多にならない銃を持たせた。
ちなみに12歳の女の子にしてはなかなかいい結果ではあった。
不安がってたももだが、蜜檎が怪我をしないようにと丁寧に教えてくれる姿を見て、無駄にさせたくないと真剣に取り組んだ。
だが、結果はズタボロだった。
拳銃の腕は壊滅的、ショットガンは撃った時に肩を打ち付けてトラウマになりアウト。
ももは凄い勢いで落ち込んだ。
無能は無能で変わらないんだと。やっぱり自分には何も才能なんてないんだと。
「……だめだなぁ……わたしなんかが生きてても……しょうがなかったんだ……。もし……わたしの代わりにくるみが生きてたら銃も撃てたんだろうなぁ……蜜檎さんの役に……すごく立ててたはずなのに……どうして……わたしが……っ」
「もも」
「っ!! 蜜檎さん……」
ひたすらに自分を責め続けていたせいで蜜檎が近くにやって来たことも知らずに呟いてしまったと、思わず顔を逸らしてしまった。
「最後の試験よ。気を落とさず着いてきなさい」
「……わたしには……もう……」
「やると決めたら最後までやりなさい。中途半端が一番かっこ悪いわよ、もも」
無理だと言うももに蜜檎はやるならやって失敗してみせなさいと説いた。
それが逆転の一手になりうることだってあるのだから。
そこでももは自分の才能と呼ぶにはまだ役不足だが、力はあるものを見つけたのだった。
「……へぇ……」
「こ、これで……いいのですか……?」
200m先の的への狙撃訓練で、いきなり、ももはMk14mod2を用いて、円形の的の範囲内に7割の命中という成果を残したのだ。
「……もも、もしかしたら、あなたはスナイパーが向いてるかもしれない」
「スナイパー……?」
「そうよ。遠距離から敵を無力化させることが出来る役よ。これは才能がないと……正直難しいのよ。それが最初から備わっているのは充分な強みなのよ」
「やくに……立てます……か? わたしでも……」
傍に使っていた銃を不安そうに抱きながら、蜜檎に問いかけると、迷いながらも頷いた。
「……もしかしたらの話よ。これからやってみないと分からないけど、可能性はある。……やってみる?」
不安そうに問う蜜檎だったが、ももは精一杯頷いた。
これで役に立てるんだと、自分を拾ってくれたことへの恩返しが出来るんだと。
その時はそう思っていた。
しかし…………。
「あ……れ…………?」
幾許か時は過ぎ、ももが円形的への射撃も満射が安定し出した頃、人間型の的に変えた途端……ももは的にただの1発も当てることが出来なくなった。
「うそ……だ……こんなの……っ!」
ももはヤケになって何十発も撃って撃って撃ちまくった。
だが、結果は変わらなかった。
……人が撃てない。
どれだけ優秀でも越えることの出来ない壁に直面した少女は呆気なく崩れ落ちた。
役立たずの烙印を押されたようにもがき苦しみ、遂には一時期不登校になりかけたくらいももは自分の存在価値を消失した。
それでも、人以外なら撃てることを活かされ、危険物の処理などの役割はあったが、戦闘にほとんど参加できない、木偶の坊のような自分をももは心の底から嫌った。
……やっぱり自分に価値なんてなかったんだと、ももの心のほとんどが崩れ去った。
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