【閑話】それは不平等だっ!

桜の過去②


「───最後まで……母上は立派やった」


「…………」

「…………っ」

「……うぅ……っ」

「うぅ…………っ」


桜の話を聞いていた4人は揃って目に涙を浮かべいた。


「……優しい母さんやろ?」


「うん……っ、桜のママは……優しい人だ……」


「そうやろ? って、天音が1番泣いてるやないかっ」


4人の中で唯一、母親の愛情を知っている天音は由莉たちより遥かに多くの涙をこぼしていた。それを桜に笑い冗談のように指摘されると、天音は頬を赤らめると風呂の中に顔を突っ込んで顔をベタベタにすると「泣いてないっ」とそっぽを向いた。


「はははっ、天音もかわいいとこあるんやなぁ〜」


「ぅ……ほ、ほら、桜も身体洗えば?」


「ん〜なら、そうさせてもらおか」


4人も身体がいい具合に冷め、二度風呂に洒落込んでいる中で、桜は長い自分の髪の毛をシャンプーで髪を丁寧に揉んでいくと、みるみるうちに白い泡が赤茶の髪を染め上げる。そして、シャワーに手をかけて真上から暖かい水を被った。


「はぁ〜〜やっぱ、体動かした後の風呂は格別やなぁ〜」


纏わりつく泡が一掃されても、桜は念入りに髪を洗う。髪を泡立てるよりも長く。


(……桜もでかい)


そんな中、桜のなめらかな大人の体付きに天音は自分の体と見比べて敗北感を味わい、璃音を膝に乗せたまま項垂れていた。


「はぁ……」


「ん?どうしたの、天音ちゃん? ……あ〜」


天音と背中合わせになって、かつ、天瑠をだいて風呂に入っている由莉は後ろを振り返った。そして、その視線の先にあるものを見てどうしようもないと苦笑いをした。


「……ん? どうしたん? じ〜っ。あっ、そゆことか」


桜もいよいよ気づいて、理由を思索するように4人を見て自分を見て結論を導き出した。


「天音だけ『ない』の気にしてるんか?」


「──っ!」


「ぁ、桜さんっ! お姉様にそれは───ひゃっ!?」


額に青筋を浮かべた天音は左手で風呂の縁を掴み、慌てる璃音お構いなしに、右ストレートを桜の左胸の横部分にお見舞いした。


「いったぁ!? ちょ、なにすんの!?」


「知らないっ、桜が悪いっ!」


顔を顰め、殴られた部分を撫でながら睨む桜に天音も好戦的になり、額を擦り合わせながら火花を散らした。


「ほぉ〜文句あるんかぁ〜?」


「あるに決まって───ひゃん!?」


敏感な所を桜につつかれて天音はかわいい声をあげながら後ろに反り上がった。天音も口を手で塞ぎ、顔を真っ赤にさせながら風呂から飛び出した。


「許さない……絶対にゆるさないっ。後で絶対───あぶぉ!?」


「まぁまぁ、そんなカッカしてたら年取るで?」


ジャワーーと真っ赤になった天音に手向けたのは冷たい水の雨だった。文字通り一雨降らされてしまった。


「……」


「落ち着いたか? あんま怒ってると肌にも悪いで? 女の子なんやから気をつけなあかんで?」


桜がくすりと笑いながらシャワーを止めると、天音はただ俯いたまま凄い勢いで震えていた。


(天音ちゃん……めちゃくちゃ怒ってる……こ、こんな所で喧嘩しないよね……?)


由莉たちはその様子を固唾を飲んで見守った。万が一の事があれば全員で2人を引き離すつもりで、待機していると…………、


「……う」


「う?」


「うあああぁぁぁーー!!! 桜なんかもうしらないっ!!」


なんと、天音は半泣きになって風呂場を飛び出していってしまったのだ。嵐が去っていったあとのような静けさが広がる中で、桜は分が悪そうに髪の毛の手入れを再開した。


「ちょっとつつきすぎたかな〜? 面白くてついやってもうたわ」


「桜さん、ご飯作ってもらえなくても知りませんよ?」


「ぅ、それは堪忍して欲しいなぁ……天音の作る料理ばり美味かったからなぁ」


今日も夜ご飯は天音が作ってくれてた事を夕食の時になって知り、さらにその美味しさに感銘を受けていた桜は気まずそうに髪の毛をゆすいでいった。


─────────────────


「うぅ……へくしっ」


4人が風呂からあがりパジャマに着替えると、天音が布団に被ってクシャミをしながら桜を睨んでいた。


「天音、ごめんな?」


「ふん、もう桜にご飯なんて作ってやらないっ」


「ぅ……ほんまごめんっ。お願いやから許してや?」


痛いところを突かれクラっとする桜を天音はぷいっとそっぽを向き許してあげないことへの意思表示を示した。


「あぐ…………それはないわぁ、天音〜」


「桜さんも、お姉様にそんなこと言ったらだめですよっ。お姉様も気にしてますし」


「ぅ……」


「そうですよっ! お姉さまも悩んでいるんです!」


「うぅ……」


「天音ちゃんだって、いつかは大きくなると思いますよ。……(今は小さいかもしれませんが)」


そして、何気ないみんなの励ましが天音の心を打ち砕いた。


「あぁそうですよ……ボクは永遠にこのままですよーだ……胸ないから男にも変装出来るし、別にいいし…………そんな脂肪分の塊重いし、いらないし、一度たりとも羨ましいって思ったことないですよはいそうですよ。そもそも胸なんてあったっていい事なんてない戦闘でも邪魔なだけだし、そんなんで死ぬなんて情けなさすぎて涙出てくるからこっちから願い下げだ。知らない間にゆりちゃんは大きくなってるし、天瑠と璃音も大きくなってるし、ボクが大きくなったのは身長だけだし! ステータスの振り方自分で決めさせろよぉ! 流石に不平等でしょ!? ゆりちゃんと天瑠、璃音より3歳年上なのになんなのこの差はッ!! ワケわからないし、特に音湖さんと桜とももさん!! 大きいんだよ!? 3年でマイナスなのに6年後にはどうなってることか考えただけでおかしくなってくるんだよ、どうせみんなしてボクを仲間外れにさせたいんだぁ〜きっとそうなんだぁー!!」


「天音ちゃんがおかしくなっちゃった!?」


「「お、お姉さまぁ〜!!」」


「天音っ、正気を保つんや! もう戻ってこられなくなるで!?」


その後、天音が落ち着くまで20分もの時間を要し、風呂に入った直後なのに汗だくになり、とほほ……と再び風呂に戻るのであった。



──────────────


「……」


「機嫌なおしや? そんな顔しててもええ事ないで?」


椅子に座りながらずっと怒ったような顔をしている天音をちょいちょいつつきながら慰めようとする桜だが、まるで効果がない。


「…………」


「どぉしたもんかな……この空気やと『続き』が話しにくいなぁ……まぁ、話す必要もないクソみたいな話やけどな」


───ぴくっ


桜の思わせぶりな言葉は天音を僅かに反応させた。もちろん、桜もそれを見た途端に口角を上げながら一気に畳み掛ける。


「ん〜天音はそんな感じやから聞きたくないんやろうか……由莉ちゃん達にだけ話そうかな」


───ぴくぴくっ


「そうや、みんなのためにお菓子も買ってきたからな〜天音も食べたいやろ?」


「……………………食べたぃ……」


「話も聞きたいか?」


「聞きたぃ……っ」


屈辱に顔を歪ませながら、ぼそりと呟く天音に桜は肩を叩くと大人しく立ち上がって、由莉たちの座っているベットに座った。


「さて、続きの話かお菓子食べるか、どっちがええ?」


『続き!』


言葉を揃える4人に一度深く頷くと、ちゃらけた雰囲気を凍りつかせた。


「……んなら、話そか。母上が亡くなった後の……話を……な」




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