天音vs桜/音湖、顔を真っ赤にする
2本仕立てとなっています!それではどうぞ!
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「はぁぁあああっ!!!」
「はああぁっ!!」
左肩から右脇腹へと『袈裟斬り』を放つ桜の影斬桜に、天音は掬い上げるようにして己の刃の腹で迎え撃った。
初っ端から全力の全力、普通に見たら殺し合いにしか思えない気迫。
次はこちらだと天音は右薙ぎを放つも、桜は顔色ひとつ変えずに止めてしまう。
(この人……思ってた以上に強い……)
(なるほどな……けど……『一本』であたしに勝とうなんて……少し舐めすぎとちゃうんか)
視線が絡みつくように交錯する中、桜は次々に斬撃を放つが、天音も正確無比な捌きで完全にいなしてみせる。だが、天音の刀は影斬桜よりも刃渡りが小さく、なおかつ体格も桜の方が上、間合いの広さは圧倒的に桜が有利だ。
それでも、天音もやられっぱなしではいられない。
「ッッ!!」
逆袈裟から隙を生ませ、そこから天音は攻勢、桜を受けに回らせることに成功させる。
真下から上へと斬りあげる『逆風』、からの右肩左脇腹へと『逆袈裟斬り』、『左薙』と剣技を組み合わせての攻撃に、桜は逆袈裟で髪の毛数本が切れる程度で捌ききってしまった。
「ちっ……」
「へぇ、やるやないか。そんなら……」
「……っ!」
間合いを取られた天音は桜が刀を鞘に戻すのを見て咄嗟に構えを改めた。なにか……まずいものが来る。そう天音は直感したのだ。
「うちのとっておきを見せたる」
───その刹那、桜の身体が一瞬消えた、と思わせられるくらい速さが段違いに変わる! 縦に持たれた鞘から一瞬のうちに抜刀された影斬桜は立円を描きながら天音の頭部に襲いかかる。
咄嗟に上へと斬りあげる天音だが……桜はそのタイミングで刀を翻し、がら空きの胴へと切っ先を僅かに変えると一気に斬り込んだ。
「……っ!!」
「あぶな───!?」
ももは天音が斬られる、そう思い叫びそうになったが……それを由莉はダメだと手を優しく握った。驚いて見たその琥珀の瞳には……最優の友への凄まじいまでの信頼が映っていた。
────そんな事で……天音ちゃんはやられたりしない!
そして───天音はその想いを受け継ぐ。その為に在ろうとしたのだから。
「…………っ」
「……あたしの『
刀を持つ両手のうち、右手を咄嗟に離すと斬られる寸前で鞘に収められたもう一本の刀で受け止めていた。天音もあまり感情を出さなかったが、「今、殺す気だったよね」と桜を睨んだ。桜はそれに対して興奮しているように笑っていた。
「やっと見せたか、二刀流……その腕前、見せてみいや!!」
「っ、はぁあッ!!」
2本の刀で全力で桜の影斬桜を弾いて、後方へ飛び退いた天音は再度加速し桜へと突っ込み、旋風の如く無数の斬撃と刺突を混合させた技を放つ。
(ええな……面白くなってきたやないの!! 手加減なしで……捌けなければ殺すって言うてるのと同じもんや……!)
(そのくらい……黒雨とやり合うならっ!!)
僅か2分、その中での攻防は激しく……熱かった。
お互いに傷が一つも付いていないのがおかしいくらいに刃が振られ、煌めく銀色の煌めきに周りは見惚れ、永遠に続くと思われた勝負は……ついに決着を迎えようとしていた。
「……なぁ? もうそろそろ決着つけようや」
「そろそろだと思ってたから……いいよ」
「あんまり仲間に向かって打つのは気が引けるけど……天音にならよさそうや。この『胡蝶蘭』───受けてみいや」
「…………っ」
再び桜が納刀したのを見た天音はそれが確実に抜刀術である事を確信した。……対応出来なければ間違いなく死ぬとも。だが、天音も内心ゾクゾクしていた。純粋に技で強い相手、全力の戦闘、そして……最終盤、ここまで震えるものはない。
天音も全力で迎え撃とうと二刀で構えを取る。刃を交えた本気の戦闘の最中、天音の桜の表情には……うっすらと笑みが浮かんでいた。
「……笑って……る?」
「うん……でも、そろそろ止めた方が───」
由莉もちょっとまずいかも、なんて思った時には既に2人は同時に床を砕く勢いで蹴っていた。
「はぁぁあああ!!!」
「はあぁあッ!!」
これで最後だと桜は己の限界の力を込め、鞘から影斬桜を抜き、天音もその前にと二本の刀を前に突き出し──────、
───キイィィィィン………
「そこまでです」
だが、それは突如として現れた第三者によって止められてしまう。
「……っ!」
「ぁ……」
桜の刀は抜こうとした寸前でその人の左手に遮られ、天音の突き出した刀は……その人に握られた大太刀によって弾かれていた。
「まったく……来てみれば血気盛んにやり合って……『さくら』もやり過ぎですよ」
「ぇ……? あくつさん、それって……」
柄が黄色と黒で編まれたその刀を見たことが無かった天音は気になって聞こうとした……が、
「あんた……阿久津やん! 久しぶりやなっ!」
既に刀を納めていた桜が思いっきり阿久津に抱きついた事で遮られてしまった。
「呼び捨て!? え……どういうこ……と?」
突然の桜の行動に由莉は呆然とする中、なんと、ももまで阿久津の側へと近寄る。
「あっ、阿久津さん……久しぶり……」
「『もも』も久しぶりですね。2人ともあの時に初めて会った以来ですかね」
「「「「……阿久津さん、説明してください!!」」」」
……4人の驚愕の悲鳴が空間に響きあったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「5年前でしたかね、マスターとその他の支部長が集まって忘年会みたいな事をしたんですよ。それで、その時に来ていたのが当時14歳だった2人なんですよ」
由莉、天音、天瑠、璃音、阿久津、桜、ももの7人は1つの円を描くようにして座りながら話を聞いていた。
「それにしてもあの頃の阿久津とはなんか変わったわぁ……なんか雰囲気からして違うわ」
「それ、散々言われてるのですが……そんなにですか?」
「うん……前は少し怖い感じだったけど……今はそんな感じ全くしないよ……?」
「そうですか……。……おい、ねこ。こそこそしないでさっさと出てきたらどうですか」
「…………」
前方の壁から若干見えている豊満な肉に呆れながら阿久津は大きめの声で呼びかけると、そろーりと音湖がやってくる。その姿を見た途端、桜とももは少し緊張したような表情を浮かべつつ、音湖が近くに寄るのを待った。
そして─────、
「や、やっほ〜……だにゃ。2人とも」
「「にゃ!?」」
「にゃはは……うちがこんな喋り方するの見せたことなかったからびっくりかもしれないにゃ」
「「うち!?」」
音湖の話し方を見て桜とももは頭を傾げひたすら困惑した表情を浮かべた。
「あら? なんやろ、記憶が噛み合わへんで……ももち、どうや?」
「うん……音湖さんはもっと……あまりわたしたちとは話そうともしなかった感じで……阿久津さんとも仲は寧ろ悪かったような……?」
「おっかしいなぁ……ももちと同じや。……あっ、生き別れた双子とかとちゃうん?」
「なーんか反応が変だけど、うちはうちにゃ。2人の事ももちろんのこと知ってるにゃ」
……まぁ、そう思うのも分かるけどにゃ、と音湖は苦笑いしながら阿久津の横に胡座をかいた。あの頃のことは阿久津もしっかり覚えているようで懐かしそうに、かつ嫌そうな表情をしていた。
「ねこはあの頃まともに話そうとしたのマスターくらいでしたからね、2人が驚くのも無理はない」
「……まぁ、そうだ……にゃ」
「いつからでしたかね……忘年会が終わって……2、3ヶ月後くらい……?」
「にゃはは〜そうだったかにゃ〜?」
口笛を吹いて誤魔化そうとする音湖だが、阿久津は腕を組みながらため息を漏らす。
「まったく……そもそも、その語尾はどこから仕入れたもんやら───」
「……あっ!! 思い出したわ! 語尾に『にゃ』、一人称『うち』……うん、その頃に変わったんなら間違いないわ!!!」
突如として桜がロケットを打ち上げたかのように立ち上がってジャンプすると、まっすぐに音湖へ指さした。もはや確信だと言わんばかりの桜に音湖は依然としてポーカーフェイスを貫く。
「音湖さんの喋り方、『コマあま』のヒロインのコマちゃんやろ!?」
「……っ!!」
だが、それも長続きしなかった。プルプル震えだしたかと思いきや、顔が一気に真っ赤になり、それが本当の事だと誰しもが理解した。
「さ、桜ちゃん……コマあまって……『コマちゃんはあまやかしたい!』の……ヒロインだよね?」
「そうや! 忘年会の時にももちと一緒に話してたやろ!! あ〜5年前とかなっついわ〜」
「あのっ……それってアニメですか?」
由莉が少し気になっていると桜に質問すると、飛びつくようにして由莉の真ん前まで近寄った。
「そうや! 『コマちゃんはあまやかしたい!』略して『コマあま』ってのはな、ある日、一人暮らしをしていた高校生の主人公『
「にゃあああああーーー!!! ストップ!ストップにゃあ!!」
「ぬえに@¥$#〒[/|^!?」
これ以上ないまでに顔が熟れた柿のようになった音湖は、桜の口を抑えて封じてしまう。もう目もきょろきょろで、口もあわわわとして可愛さに全振りを決めてしまった音湖は、少しすると耳を閉じ、顔を伏せ、隅っこの方で震えていた。
「あああぁあ……穴があったら入って埋められたいにゃ……」
「こんなに恥ずかしがる音湖さん初めて見たよ……ね?」
「うん……びっくりしすぎて訳わかんないよ」
「……? という事は、音湖さんは……」
「そのキャラ(?)になりたかった……?」
「うぉおおああぁーーー!!! やめるにゃ、この話はやめにするにゃあああああ!!!!」
若干涙目になりながら音湖は土下座までしてその話題をなかったことにしてと場にいる全員に懇願したのであった。
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