第3節 合同強化合宿
やってくる2人の女子
─────翌朝。
「ふんふんふ〜んっ」
スキップをしながら軽い足取りで山道を登るのは、長い赤茶の髪の毛をポニーテールにした赤い瞳の女の子。英語が書かれた灰色のTシャツにデニムのハーフパンツ、上着が暑いからと自分の腰に巻いているが、とてもスポーティーな印象を与える。
そして、その隣をとぼとぼと歩くのはサイドアップと言われる髪型で、後ろの黒紫色の髪を左側で一つ結びにして前に出しているメガネをした桃色の瞳の女の子。白をベースとして花柄が散りばめられているワンピースに青のレースダウンを着ていてとても女の子らしい服装だ。
「ね、ねぇ、桜……ちゃん?」
「疑問形なのちょっと気になるんやけどな? んで、どないしたん?」
「ご、ごめんね、桜ちゃん。えっと……なんでこの道を歩こうとしたの? 車でいけば……」
「あぁん、もうっ! 久しぶりに会ったんやで、『ももち』と2人で歩きたかっただけやで?」
関西弁を使う赤茶の髪の女の子───桜は後ろの束ねた髪を揺らしながら、懐かしそうに周りを見渡しながら歩いていた。
「わ、わたしも……桜ちゃんに会えるの楽しみだった……よ」
「ほんまか!?」
「ひぃ!? おっと……と……はひゃ!?」
急にでかい声を出され飛び上がり、メガネが落ちそうなのを急いで直した女の子───ももはさらに背負っているバックの比重で後ろに倒れかけてしまった。
「んしょっと。ももち、大丈夫か? 重そうなバックしょってるけど、持とうか?」
「う、ううん……これ……わたしの大切なもの入ってるから、ありがとうね、桜ちゃん」
「そうか? ももちがそう言うならあたしはなんも言わへんけどな? ……しっかし、ここに来るの何気に初めてやな」
「そう、だね……桜ちゃんと会った時も別の場所だったし……楽しみ、だね」
両手でショルダーストラップを支えながらこれからの出会いに想いを馳せようとしていたももに桜も激しく同感した。
「やっぱ、ももちもやんな!? あたしらにもようやく可愛い後輩たちが出来るんや!」
「け、けど……その子たち……すっごく強いみたい……だよ。わたしなんて……」
「んな細かい事ええねんって。さ、もう目の前や、はよ行こ!」
「わわっ、ちょっと待ってよ〜」
ももの手を引っ張り、桜は前方の家へと駆け出していった。その瞳は燃えるようにキラキラして今から会うだろう女の子達への期待を高めていた。
そのまま家のドアの前まで辿り着いた桜とももは顔を見合わせ、3回ノックをする。そして、そこで言う言葉は決まっていた。
「RooTコードネーム『桜花』」
「RooTコードネーム『ピーチ』」
各々のCNをインターホンへ向け口にすると、ガチャリとロックの外れる音がした。入っていい、その合図と共に桜がドアを思いっきり開く。そこには────、とっても小さな女の子3人、ちょっと頭一つ抜けてる女の子が1人立っていた。
「みんな、やった通りにね?」
そう3人に言った、明るい茶髪をショートボブにした栗色の瞳の女の子が率先して1歩前に来て礼をする。
「RooTコードネーム『ソラ』です。よろしくお願いします、桜花、ピーチ」
それに続き、姿が真っ黒な後ろ髪をロングにしてあるかツインテールにしているかくらいの違いしかない、双子と思われる2人が揃って前に出てきてソラの前に出て礼をした。
「RooTコードネーム『ラピス』です」
「RooTコードネーム『ラズリ』です」
「「よろしくお願いします」」
「……」「……」
(いやいやいや、これがほんまに10歳やそこらでやれる行動なん!? おかしいやろ……!)
(ひぇぇ……わたし達より……全然大人っぽい……)
3人の完璧とも言える仕草に桜も、ももも、震えてしまった。だが、あと1人いると気をなんとか持たせて注目を集めようとした。
だが、その意識は思わぬ形で裏切られてしまう。
「「「……」」」
やってくる最後の1人、ミディアムヘアの黒っぽい茶髪に琥珀色の澄んだ瞳で、ラピスとラズリと同じくらいの身長の女の子。その子が出てきた途端、他の3人が一気に1歩下がった。
「「っ!!」」
(……いや、これはなんとなく分かったわ。この子……他の子とちょっと違う。ソラと何となく似てるけど……それよりは間違いなく上。下手したらあのバカ親父と同じくらいやばい子じゃないんか!?)
(なん、だろ……なんか……1番小さい子なのに……3人からすごく信頼されてる……?)
2人がたじろぎそうになっている最中、目の前の女の子は軽く会釈するとゆっくりと口を開いた。
「RooT所属、コードネーム『リリィ』です。桜花とピーチ……2人ともよろしくお願いしますね」
「ぁ……よろしく……お願いします」
「こらっ、なんで敬語使うねんっ。……ごほん、ともかく────」
なんだか、思ってたのと違う堅い子らだったのか……と桜がちょっぴり残念そうにしながらも挨拶をしようとした────その時。
「…………ふぅ、形式的な挨拶はこれくらいでいいですか?」
「ぇ?」「えっ?」
言われたことが分からず、きょとんとする桜とももを他所に、4人は今までの堅い気配を一気に和らげた。
「ああぁ……恥ずかしいよぉ……」
「え〜だってしっかり迎えてあげようって言ったのゆりちゃんじゃん」
「だからってなんでみんなを私が引き連れてるみたいになるの?」
「ボクらはどっちかと言うとゆりちゃんの下についてるみたいな感じだからね」
「そうですよ、由莉ちゃんっ」
「そうだよ、由莉ちゃんっ」
「も〜みんなぁ……」
途端に目の前の子が顔を真っ赤にして手で見られないように隠したかと思いきや、後ろにいた3人がにこにこしながら寄りかかりと、急激に場面が切り替わって困惑を隠せない桜とももだったが、そんな2人を例の子が顔を片手で隠しながら一室へ向けて指をさした。
「と、とりあえず中に入りませんか?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「も〜ほんまにこっちが緊張したで? なぁ、ももち?」
「う、うん……びっくりしたよ……」
『ごめんなさい……』
ぺこりと頭を下げる4人の前に足をクロスさせて座る桜と、きちんと座るもも。
「まぁ、ええわ。ほな、普通に簡単に自己紹介しよか。まずはあたしらから」
一つ、咳払いをして、ポニーテールを1度整えると4人を深紅の瞳でまっすぐ見る。
「こほんっ、あたしは中四国支部から来た
淡い桃色の瞳があわあわと忙しなく動きながらも、小さな女の子たちに向けてにっこりと笑う。
「わたしはね、東北支部から来た
やってきた2人の女子たちの挨拶が済むと、ベットに揃って座った4人も同じように立ち上がった。
「今度は私から行くよ? ……こほんっ、大羽由莉ですっ。年は……多分10です。よろしくお願いしますっ」
「升谷天音。年は13、料理とか得意です。よろしくお願いします」
「天瑠です。璃音の双子の姉で10歳です! よろしくお願いします!」
「璃音と言います。天瑠の双子の妹で10歳です。よろしくお願いしますっ」
さっきとは全く違う、可愛らしい声で挨拶された桜とももは胸のドキドキが止まらなかった。愛くるしい仕草に花が咲いたような笑顔、それらが脳の根本に癒しを与え……そして桜は我慢が出来なくなった。
「ああぁ〜〜ん、もうっ!! ほんま可愛い子らやなぁ〜!」
『きゃ!?』
椅子からベットまで2m、ノーモーションでの立ち幅跳びの後、4人へと突入を決め込むことに成功した桜は手の中にいる女の子たちに頬ずりをした。
「ほっぺたまでぷにぷにやなぁ〜たまらんわぁ〜っ。……おっと、ごめんな? つい魔が差してしもうたわ」
サッと離れて元の椅子の所まで戻った桜は再び細く筋肉質な両足をクロスさせた。さっきよりも……ずっと嬉しそうに顔を綻ばせて。
「いやぁ……嬉しいわぁ。あたしにもこんな可愛ええ後輩が出来たんやと思うと……な、ももちも触ってみ? 最高やで?」
「え……?でも……いいの? そんな……」
ももは不安そうに聞くと由莉たちは全然いいよと縦に首を振ってくれた。それを見たももは恐る恐る近づくと、璃音の方へと寄る。璃音もそれが分かっていたようで、ももが触ろうとする前に自分から飛びついていった。
「わっ、り、璃音ちゃん……だっけ?」
「えへへっ。そうですよ、ももさんっ」
ももはなんとか璃音を抱っこすると、震える手でその頬をちょんっと触った。少し強く触っただけで崩れるんじゃないかというくらいにぷにぷにで、本人も嫌がることなく、寧ろ嬉しそうにしている顔が目の前にあり、ももはときめきそうになってしまった。
「かわいい……よしよし……あっ、ありがとうね、璃音ちゃん」
「ううん、大丈夫ですよっ」
「そっか……10歳だもんね……こんなに小さくて……可愛くて…………」
璃音を降ろしたももは何か琴線に触れたのか、突然涙を頬に垂らした。それに由莉たちは慌てたように近寄ろうとするが、桜はそれを分かっていたかのようにゆっくりと立ち上がると、ももを優しく抱擁した。
「……ももちにはな、そこら辺でちょっと辛い過去があんねん。今は……まだ会ったばかりやから、いくら4人でも……話せん。時が来るまで詮索はせんといてや。あたしからのお願い、聞いてくれるか?」
『はい……』
「ええ子らや、後でお菓子あげるからな?」
ゆっくりでいいからと桜はそのままももが落ち着くまでずっと背中を撫でてあげた。その姿からはお互いの全てを知っているような……信頼が感じ取れた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「うぅ、ごめんね……」
「大丈夫ですよ、ももさん」
「過去に苦しめられる気持ちは……分かりますよ」
止めても止めても溢れ出る涙と格闘するももを心配していた由莉たちも、何かしらの過去があるのは当然だと思っていた。
RooTは裏の組織を対象としてはいるが……ざっくり言えば人殺しの組織だ。普通に生きればそんな世界に手を出すなんてありえない。
由莉は4年以上の虐待と誰一人助けを求められない孤独の苦しみ、天音は親の死と短期間の監禁虐待と友達を自ら手にかけた苦しみ、天瑠と璃音は自分たちを命を捨てて繋ごうとした子の死。
それを抱えて、それでも今この場に立っているのだ。
「……もう……大丈夫…だよ」
「……そうか。さて、ここにも地下に射撃場とかあるって聞いたんやけど、まずはそこに連れてってくれへん? そこであたし達の武器、見せたるよ」
ももがやっと泣きやむと、まだ抱えたまま桜がそう言うと、由莉たちも頷いてその場所へ案内した。
「でっっかいなぁ……聞いてはいたけど、この大きさはあかんで……」
「すごい……」
「みんな同じ反応するね……」
「無理もないよ。こんなの見たら誰だって絶句するよ」
地下シェルターなのか!?と思わせられる大きさに言葉を失う2人だったが、そこでようやく2人は持っていたリュックを下ろす。
「さて、あたしらがここに来たのは他でもない、あんたらの実力を知るためや。遊びに来たんとは……ちゃうんやで? うん、違うんや」
((((いや、すっごく楽しんでたよ桜さん))))
天晴なくらいの嘘に顔を引きつらせるのも知らず、桜は縦に長いバックの中からあるものを取り出した。
「……へぇ、日本刀……」
鎌倉赤と言われる深い茶色にも見える赤の鞘に納められたその代物に天音は真っ先に反応する。
桜もニヤッと口元に笑みを帯びてそれを腰につける。
「『太刀・
ポケットに手を入れ、緑色の飴玉が由莉たちの前に放り投げられ………刀が抜かれた。
「っ!!」
潰されそうな圧力と共に、握られた桜色の鞘から抜かれた刃は風を斬り飴玉を寸分違うことなく真っ二つにした。
「───死ぬでな?」
「へぇ……面白い」
剣圧……と言うのだろうか、それを受けた天音は目に光を灯した。完全に戦闘狂のような鋭い目だった。
「……桜さん」
「ん? なんや、天音ちゃん」
「ボクと真剣で立ち合ってくれませんか?」
天音の突然の申し込みに桜は当然驚いたが、それ以上に由莉たちやももまで驚いた。しかも真剣だなんて、大ケガするよ!?と言おうとしたが……それを止めたのは圧力篭った桜の笑みだった。
「……ほう? となると……あんたやったんか。……んなら、話は別や。言うとくけど、怪我したり……死んでも責任取れないからな?」
「なら……ボクも態度変える。本気でやり合うのに上下関係なんていらない。……いい?」
「ほぉ? 一丁前に張るやないか。ええよ、受けて立とうやないか、『天音』」
再び刀を抜く桜を前に、天音は少しだけドキドキしていた。本気といえども、真剣はなかった。故に───始まる前から両者の頬骨が上にあがっていた。
「天音ちゃん、受け取って!」
「……ありがと、ゆりちゃん」
思いっきり刀を放り投げる由莉。ぞんざいに刀を扱ったのかと桜は少し怒りかけたが、それを天音が後ろを一切見ることなく両手で1つずつキャッチしたのを見て、逆に度肝を抜かれた。
(……見なくとも分かってた、そういう事かいな。……ええやないの!)
「ルールは……降参か相手に重症を負わせたら負け。勝った方は負けた方に好きなこと一つ命令出来る。それでいい?」
「ええよ? ただ……しっかり捌いてくれんと死ぬからな?」
「そっちこそ、実力分からないから本気出した途端死んじゃったとかやめてね」
「気遣いされるなんてあたしも舐められたもんやなぁ……まぁ、ええわ。なら……行くで」
言葉を交わすのはそこまで、あとは剣で語る。
そう言わんばかりに2人は構えた。
桜は───『上段 霞の構え』
天音は───『金の構え』
もう、構えから戦いは始まっている。そう思わされた由莉たちの中で……ただ1人、ももが思わず───
…………ゴクリ
「っ!!」
「ッ!!」
唾を飲み込んだ刹那、互いの距離を一気に詰める!
勝負は第一刀、そこから紡ぐ二刀、三刀で決まると天音も桜も刀に魂の限りを込め───
「はぁぁあああっ!!!」
「はああぁっ!!」
己の刀を気迫と共に振り下ろした。
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