終わる騒動と始まる騒動
平成最後の更新です!!それではお楽しみあれー!
「……戻ろっか、天瑠」
「うん、戻ろ、璃音」
血飛沫が飛び散り、顔や服に少し飛び散った2人は残骸を一瞥すると、手を繋いでその場を去っていった。
汚れたからお風呂入ろう、なんて話をしながら武器庫へと戻ると、そこには由莉が黄昏れるように机にもたれかかって2人を待っていた。
「ぁ……由莉ちゃん……」
「汚れてるよ、2人とも。じっとしててね?」
由莉はそれ以上何も言わずに2人の顔にねっとりと付いた血を水で濡らした雑巾で擦る。かなり由莉の力が強く、「あうぅ〜」と声をもらしていた。
「はいっ、これでおしまい」
「ありがとうございますっ」
「ありがと、由莉ちゃん!」
「これくらい全然いいよ?」
ちょっと笑いながら後ろを向いた由莉に……何か違和感を感じつつあった。いつもの由莉じゃないような気がしたのだ。
「由莉ちゃん……?」
「2人は……さ。あれを殺してる時……気持ちよかった?」
「……うん。引き金を引いて……お腹から臓器がぐちゃぐちゃになって落ちていくのを見てたらすごく気持ちよかった……かな」
「……脳みそをプリンをかき混ぜるようにして璃音の弾で撃ちまくったって考えると……なんだかたまらなかったです……」
「そっか……。復讐する時って……どんな気持ちなのかなって考えてただけだよ。みんなの復讐が終わったら、私も行こうかなって思ってるから、ね」
自分たちの会話を聞いていた由莉が何を思ったのか、2人にもなんとなく想像はついた。今でこそ落ち着いたが、人を嬲り殺すのをまるで積み木の塔を崩すかのように楽しんでいた───そんな自分たちのように由莉もその時が来たら同じようになるのかもしれないと。
天瑠と璃音は少しだけ由莉を困らせてしまったかと俯いていたが、もう終わったことだと、由莉は改めて2人に笑顔を見せた。
「さて、2人とも? 今から使った武器の手入れしようね?」
「あうぅ……もう限界〜……」
「璃音も……お腹と背中がくっついちゃいそうです」
「ぶーたれないのっ。天音ちゃんもご飯作ってる最中だから、その間に終わらせちゃお? 天瑠ちゃんはUSP9とP90、璃音ちゃんはUSP9、M1912、MP7A1だね。……1時間くらいかかると思うけど頑張ろっか」
にっこりと笑いながら空腹の限界の双子にさらに追い立てるように言ってあげると、ついに音をあげて叫んでしまった。
「「おなかすいたよぉ〜〜〜!!」」
─────────────
その頃、天音は阿久津と一緒に山盛りの料理の制作をしていた。超空腹なのは目に見えているから、大量の料理を一気に作るため、コンロ4つを2箇所でフル稼働させ、さながら大盛況の厨房のように調理を進めていた。
「天音さん、今日は疲れたと思いますから休んでていいんですよ?」
「ただ長い時間寝そべって、集中していたの30分くらいなんで気にしないでくださいっ! それに……天瑠と璃音に約束しましたから!」
天音はクリームや野菜が入った巨大なフライパンの中にタリアテッレと呼ばれる平たいパスタ麺を流しこみ、空気と織り交ぜながらソースをパスタに綿密に絡めていく。
「そうは言ってもかなりの集中力を使ったと思いますよ? ねことも一戦交えて、あれの拷問もして……私でもちょっとは辛いかもしれませんよっ」
そう言いながら、阿久津は2つのフライパンを同時に操り、1度に2つのハンバーグを調理していく。その間にも口を整える用のスープやステーキなど尋常ではない量を作っていく。何せ7人分だ。それも全員空腹状態。一般人で言えば15人分作っても全然いいくらい食べそうなのだ。
「よしっ、出来た……! あとは盛り付けて……っと! 1品完成した! 次は……っ」
山盛りのカルボナーラを完成させ、次に……と動こうとした途端、天音は若干目がくらんでよろけてしまった。
「……天音さん、休んでください。後は私が……、」
───パチンっ!
「……よしっ、気合い入れ直したから大丈夫です! 璃音がリクエストしたグラタンを作らなきゃいけないんで!」
健気にひたむきに、そして嬉しそうに作る天音は阿久津には眩しく写った。疲労は4人中1番溜まっているはずだ。それでこの働きぶり、阿久津も負けてなどいられなかった。
そこから、由莉たちが風呂を浴びて来るまでに机の上には山ほどの料理が並べられていたのであった。
─────────────
「「「「「「いただきます!」」」」」」
それがスタートコール。駆け出す6対の箸は全速力で料理と口をシャトルランの如く往復する。
「んんん〜っ!カルボナーラ美味しいですっ! 生き返りましたぁぁ……!」
牛乳仕立ての甘いソースとタリアテッレがよく絡み、香ばしいベーコンと玉ねぎ、更には粉チーズと卵黄がその食欲を異常なまでに高めてくれる。空腹の時に、これは反則だ。天瑠ももう倒れるんじゃないかってくらい身体をしならせて喜びを表現していた。
「あちゃ、あちゃっ……はふっ……グラタン美味しいですっ! はふっ、はふっ、……んんん〜♪」
熱々にとろけたチーズと上からまぶしたカリカリに焼けたパン粉の食感がたまらず、そこにホワイトソースと輪切りにしたホクホクのジャガイモが旨みのシナジーを何十倍にも膨れ上がらせてくれる。璃音も幸せそうに、美味しすぎて目頭に涙を浮かべながら堪能していた。
「やっばいにゃ、この唐揚げ美味すぎにゃ。やってるにゃこれは……」
音湖は音湖で山盛りの唐揚げを次々に頬張っていた。にんにくを効かせ、カリッとした食感の裏には溢れ出んばかりの肉汁が押し寄せてくる。
天音もかなりの疲労を顔に出しながらも嬉しそうに食べ、阿久津も同様にしていた。
だが、由莉は食べるペースがいつもより激減していた。
「もぐもぐ……由莉ちゃんは食べないんですか?」
「あっ、いや……今日は全然活躍出来なかったなって……今回は足引っ張ってばっかりだったし、ちょっと反省を───いだっ!? ごほっ、ごほっ……な、なにするの!?」
スパンっとしょぼんとする由莉に天音のノールックチョップが炸裂する。食べる途中で、むせかけた由莉は驚いて天音を見ると、一心不乱に食べ進めながら、由莉の方をちらっと睨んでいた。
「ゆりちゃん変なことにナーバスになるんだね。ほら困った時の仲間、だよ? ボクに仲間を教えてくれたのは他でもないゆりちゃんなんだからね?……さっ、冷めちゃうから食べて?」
「……うんっ」
(……何を迷ってたんだろ。ちょっと変な感じになったせいかな……? ま、今は食べなきゃっ!)
パクリと炒飯を口の中に頬張ると、辛気臭かった表情がいつもの花が咲いたような笑顔に戻ると、その場がさっきまで以上にほっこりとし、十数人分の料理がたった6人のお腹の中に収まってしまった。
『ごちそうさまでしたっ!!!!!!』
笑顔を込めて、そう言った。
─────────────
そんな頃、マスターは今までの資料を参考に今後の計画を纏めていた。ただ1人、雨のようにキーの音が鳴り響く。
それがピタッと止まり静寂が部屋を支配すると深いため息が漏れた。
(次こそは……必ず決着をつける。どれだけの犠牲を……と、それはいかんな。犠牲出すことなく黒雨を叩き潰す)
ようやく戦いの終わりが見えてきたとマスターは真っ暗な空の中に煌めく星々を見る。黒雨を潰したらあと残る組織は大きいものがほぼ0になる。そうすればようやく平和が訪れる、そう信じていた。
「……さて、あいつらに連絡するか」
マスターは秘匿回線を繋ぐと、ある2人へと連絡を繋いだ。日本にあるRooTの支部、そのうちの2つの支部長へと。
『ゼロだ。聞こえるか、ヤナギ、ネクター』
『おう、中四国支部長「ヤナギ」だ。息災そうで何よりだ、ゼロ様よ』
『あらぁ〜ゼロちゃんじゃない♡ 東北支部長『ネクター』も元気よっ』
漢らしい声とかなりオカマっぽい声が聞こえてくると、マスターは最近の状況、今後の状況を2人に詳しく話した。
「………というわけだ。お前らのところで1つずつ潰してくれ。こちらは本拠地を叩く」
『ついに長きにわたる戦も決着か。こちらも万全の用意をしておこう』
『こっちも分かったわよ。……それで、ゼロちゃんはどうやって情報を手に入れたわけ?』
「ちゃんで呼ぶなと言うておるだろうが……まぁ、いい。こちらで捕まえた黒雨組の捕虜を使って吐かせただけだ」
ヤナギとネクターも神妙そうに反応すると、ネクターがさらに切り込んだ。
『ねぇ、アタシはまだ反対よ。子供を現場に出させて戦わせて、人を殺させるなんて……。まだ10歳そこらの子供たちなんでしょう? 子供は未来の宝物なのにそれをみすみす失わせるようなこと、あたしはしたくないし、させないわ』
「………そうだったな。ネクターの言い分も分かる。だが、あまりあの子達を舐めない方がいい。RooTの最主戦力の『シャグリ』と次期代表の『シューズ』の教え子達だ。特にソラとリリィに関しては……はっきり言えば、お前らより強いぞ」
マスターも本気だった。じゃなければ由莉たちを現場へと連れていくなんて事はしないし、そもそも銃すら握らせない。それ故の挑発とも取れる言葉に、真っ先に反応したのはヤナギだった。
『ほぅ? 言ってくれるじゃねぇかゼロ様よ。んなら、ちょっくらそっちに邪魔させて貰おうかな。うちの娘と一緒にな』
『ヤナギちゃん!? あなた支部はどうするのよ!?』
中四国の支部長がいなくなるなんて大事を認めるわけにはいかないとネクターは反発するも、ヤナギは鼻で笑って返した。
『ふんっ、んなもん、他のやつにやらせるに決まってんだろ。ここまで自信持って言われちゃ、俺の気が収まらねぇ。ゼロ様にそこまで言わせるほどの実力があるのか、俺と娘で確かめてやるよ』
『ほんっと、男臭いったらありゃあしない。これだから関西人は野蛮なんだから……』
『んだよ、いいじゃねぇかよ。クソ野郎共の本拠地を叩く奴らの実力を知らずに全滅とかしたら俺達が困る。俺は行くぞ、もう明日にはそっちに行くからな』
「お前なぁ……」
なんちゅう脳筋だとマスターは頭を抱えようとしていた所に更なる追い討ちが襲撃してきた。
『実力はゼロ様のお墨付きだから信頼しているわよ。で〜も♪実はその子達には一度会ってみたかったのよね。いい機会かしら、アタシも「あの子」を連れてそっちにいくわ♡』
「……お前らなぁ……はぁ……困ったものだ。……しかし、ヤナギがあの子だとして……ネクターは例の子連れてくるんだな」
『えぇ、そうよ。彼女にも、そっちの子達にもいい刺激になるんじゃないかしら』
『娘もそいつらに興味あるからな、きっと喜ぶ───』
……と、そこまで言った所で耳を貫く轟声が全員を貫いた。
『こんっっの……バカ親父がぁぁぁぁぁ一ーーー!!!!!!』
『いっってぇ!? おまっ、何するんじゃあ!?』
『バカ親父が! なんでここ放り出して遊びに行くようなことせんとあかんの!? 仕事あるやないか!! いくなら、あたし1人で行くわ!』
『いやっ、それこそそっちが行きたいだけだろ! 俺もそいつらと一戦交えて力量を────』
『偉い立場の分際でなに駄々こねてんねん!! ガキかっ!! ……あっ、ゼロ様ご無沙汰してますっ! あたしは明日そっちへ伺うんで、可愛い子らの顔を見るのが楽しみやわ〜っ。それじゃ、ゼロ様また明日っ!』
『おい、さてはお前いい思いしたいだけだろ! ずっと会いたいって言ってたもんな?』
『うっさい言うてるんが分からんのかバカ親父!!』
『なっ─────』
ブツン、とそこで回線が途切れた。凄まじいエネルギーの親子喧嘩を聞いたゼロとネクターはこれまた凄まじいため息をもらした。
『ほんっと、デリカシーの欠片もないわね』
「やる時はやる男だからな、そこは私も心配はしていない。……さて、ネクターの所はいつ来るんだ?」
『そうね……あの子もヤナギちゃんの娘とは多少話せるみたいだから明日来るわよっ♡』
「そうか。あまり未成年の女は少なかったから、きっと喜ぶだろうな。それでは、名目は合同強化合宿、という形でお前とヤナギには来てもらう。それでいいな?」
『えぇ、明日会うのが楽しみだわ、ゼロちゃん♡』
「……はぁ、では切るぞ」
通信を切ったマスターはさらに大きなため息をついた。
「また騒がしくなるな…………」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「俺は行くぞ、『桜』!!」
「んんんんんん〜〜〜〜、ああああ〜〜もう! 分かった、分かったわ!! あたしの負けや! ほんとこのバカ親父は……っ」
「まぁまぁ、そう言うなよ。それじゃ、桜も荷物まとめとけよ」
「もう終わらせてある! だから遅くなったんやで!?」
「お前も行くの楽しみにしてたんじゃねぇか!」
「そらそうやろ! 可愛い子達って聞いてるんやから、楽しみじゃないわけないやん!」
「んじゃあ、決まりだな。……それと、武器ももってけよ。あくまで俺らの目的はそいつらの力量を見定めることだ」
「はんっ! そんなん分かってるわっ!」
★★★★★★★★★★★★
「さて、話は聞いてたわね、『もも』」
「は、はい……」
「『あなたと同じ』子もいるんだから、いい刺激を貰ってきなさい」
「で、でも……その……わ、わたしなんかより……ずっとずっと強い子達ですよね……わたし……」
「なにうじうじしてんのよっ、しゃきっとしなさいっ! あなたは先輩って形なんだから、分かった?」
「ご、ごめんなさいっ! が、頑張ります……」
「4時間後には出るわよ。支度と、自身の武器の整備もしなさい。分かったわね?」
「は、はいっ!」
こうして東北支部組も動き出し……本部・支部2つの合同合宿が───始まろうとしていた。
☆★☆第6章第3節予告☆★☆
唐突にやってきた2人の支部長、そして……2人の女の子。
「おぉ〜〜っ! 聞いてた以上に可愛い子らやんっ」
「あぅ……その……よろしく……ね?」
2人を交え、由莉たちのちょっと騒がしい強化合宿が始まる。
第3節『RooT強化合宿』 令和初日公開っ!!
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