狂気的で猟奇的な拷問

「え……は……?」


「はぁ〜おっかしいなぁ、もう! おなかいたい……くすっ」


 両足を撃ち抜かれ動けないガガンボに天音は笑顔で憐れみの視線を送りながら、再び裾をめくりあげ銃をホルスターにしまう。


「お、お前……っ!」


(はいっ、これでえりかはおしまい。つぎは……『クロ』のときの……っ。すべてをにくんで……たった3人だけを信じて、それ以外全部敵に回した……『あの頃』を……ッ!)


 いったい何者だ!?ガガンボがそう言おうとする前に……天音の気配が完全に変わった。先程までの光のような気配とは真逆の……『闇』。


「あぁ? 黙れよブタ。……で、お前、ナンバーはなんだ?」


「……は?」


「いいから黙って答えろ。次は……大事な部分を壊すから覚悟しろ」


 うざったいように天音はもう一度、レッグホルスターから銃を抜き取ると股間に突きつける。その目に篭った尋常じゃない殺意にガガンボは完全に萎縮してしまう。


「な、No.23ガガンぼ─────」


「……はぁ……たかが23か……もうちょっと高いと思ってたのにがっかり…………。




 黒雨組No.2『同族殺しのクロ』、この名前に聞き覚えあるだろ」


「なっ……!!??」


 自分の正体を明かし、かつらを脱ぎ捨て、その本当の姿を見た途端にガガンボの身体が総毛立った。『同族殺しのクロ』───仲間に対しても一切容赦のない、僅か10歳にして一時期、黒雨最強の地位にいた組員。未だにその名前を聞くだけで組員の一部が震え上がる恐怖の存在。


 死んだと思われていたその人が……目の前にいる。


「ようやく分かったか。……あぁ、そうだ。それならもう1つ言っておこうか?」


「………ひゃ、ひゃい……」


「ボクがお前らを狙撃したスナイパーだ。突っ立ってくれてたから的当てくらいに簡単だったよ? ふふっ、その時まで側にいた人の血と脳漿と脳みそを身体中に浴びた気分はどうだった?」


「っ! お、お前が……あいつを……ッ!!」


 自分の部下と上位ナンバー持ちを殺したのが目の前にいる少女だとわかった途端、急に殺気立つガガンボだったが─────その殺意は目の前から放たれる零氷の殺意によって瞬く間に打ち消された。




「あ゛? お前らごときが仲間だなんだと語る資格なんてあると思ってるの? お前らごときが誰かが死んだらそうやって怒る権利があると思っているのか?」


「なん……だと……!?」


 拳が強く握りしめられ、表情は怒りに支配され、その殺気は一般人をそれだけで殺してしまいそうであった。


「お前らごときが仲間を語るな……クズどもが……っ!」


 殺気だった天音の指は銃の引き金に触れ、今にも自分の股間が消えてなくなりそうな恐怖にガガンボは再び精神を狂わせようとして──────


「逃げるなよ」


 乾いた銃声が鳴り響く。

 そして左ふくらはぎに1つの孔が空き、真っ赤な血液が流れ出た。


「ぎゃあっ!? あぁ……っ、ぐうぅぅ!!!」


「……うるさい、騒ぐな」


 天音は乱暴にガガンボの襟を鷲掴みにするとそのままずるずると引きずっていく。そして、やってきた場所にある拘束器具で胴体と首を縛りつけた。


「さて……と、いくつか聞きたいことがあったんだけども」


「はっ……誰がそんなこと……うぐっ!?」


「まずはこれからかな」


 お尻にぷすりと刺されると共に『何か』を流し込まれるのが分かった。その謎の物質にガガンボは戸惑いを隠せなかった。


「な、なんだ……それは……っ」


「なんかよく分からんけど、感覚神経が何倍か敏感になる薬って聞いたけど……ま、ものは試し……ってね!」


 さっき使った注射針で試しに足の裏をつついてみる。本来なら痒くなるくらいだが─────、


「ぐぁあァァァ!! いだい!いだいい゛だいい゛だい゛!」


 変な声を上げながら赤ちゃんのように泣き叫ぶ男に反応が予想以上で表情が固まるが……それはたちまち、おもちゃを貰った子供のような悪意ある笑みを浮かべる。


「じゃあ、質問に答えろよ?答えなかったり、嘘をついたら、あそこに刺激を送ってやるからな」


「ひぃ……っ」


「じゃあ、質問1。お前らのアジト、ここで合ってるか?」


 近くに置いてあったタブレットで示したのは現在地から70kmほど離れた山奥だった。ガガンボは唾を飲みながらも落ち着いて頷く。


「そうd───」


「嘘つくなよ? 今言った場所全然違うところだから……なッ!!」


 壊れないように手加減をした天音の平手が男の尻を穿った。


「あ゛あ゛あ゛あァァァーーーーッ」


「変な声あげるなぁ! 気持ち悪い!」


 女のような奇声は天音の全神経を逆撫でし、鳥肌を立てずにはいられなかった。思わず本気で叩こうとしてしまったが、それをすればショック死する危険性があったからさすがにグッと堪えた。


「さて、もう一度聞く。どこがお前らのアジトだ?」


「あ……あぁ……こ、ここと……」


 天音に脅されたガガンボが示したのは3つのアジトだった。それぞれかなり離れた場所にあり、1つの地点にいて全滅しないための手法かなと天音は踏んだ。


「そっか。助かったよ。じゃあ、お礼に────」


「じゃあ、ここから逃がし───あうぅん!?」


 天音は手袋を嵌めて微笑みながらガガンボのそばまで寄ると……『あそこ』をなだらかに擦るように撫でた。すると、男とは思えない高い声をあげながらガガンボの息子が急成長した。


「気持ちいいんだろ? 女の子に触られてもらってさ? ……ほんと気色悪い。吐き気する」


「あ、ぁあ……お、まえ……ただで済むとおも───」

「そっくりそのまま返してやるよ」


 そう言って天音は軽いデコピンを丘の頂点へ向けて打ち放つ。通常なら、うっ!くらいで終わるだろう。

 だが……忘れてはいけない。ガガンボは薬によって感覚を何倍にも高められている。軽いデコピンだろうと、その強さは……、


「あうぅ!? あ……おぉ……っ」


「……気持ち悪い、変な声を上げるなブタ」


「う、うっ、はあぁァーーっ」


 ジュワァ……とガガンボがイッたような表情でパンツに濡れを作ると、さすがにこれには天音も顔をピクつかせた。


(き、きもすぎる……だめだこれ……)


「……まだ終わってないんだけど。それが終わらないともっと苦しむことになるよ」


「はぁ……あっ……あぁ……」


「……質問2。……お前ら、何を企んでる」


「!? …………」


 顔を真っ赤にしているガガンボは一瞬だけ反応を示すも沈黙する。だが、その些細な変化を見逃す天音ではない。


「知らばっくれるな。おかしな動きをしてるのは分かってる。……それで、何を考えてるんだよ」


「そんなこと……知ってなにになる……」


「……あのさ、自分の立場を勘違いしてない? お前は捕まってるの。それでボクはこうやって聞いてるの。オーケー? 自分の身分が分かったら、何をしようとしてるのかさっさと教えろ」


「へっ……俺が何も言わなきゃ……そっちが困るんじゃないのか?」


 尚も減らず口を叩くガガンボに天音の表情はみるみるうちに色を失っていく。そこから天音は口を強制的に開ける拘束具を無理やりつけると、透明な薬品を持ち出した。


「……喋らんぞ」


「喋らせる。だから……飲め」


 瞬時に肉薄した天音の鋭いフックパンチがガガンボのみぞおちにクリーンヒットし、息を吸ったばかりのガガンボは抵抗許されずその薬品を飲んでしまった。


「ッ!? ガハッ、ガハッ……い、一体なにを……」


「今度は神経を鈍感にさせる薬。中毒症状も酷いって聞いた。さて……と、もう我慢しなくていいか」


「どういうこと………ぁえ?」


 天音の意味深な発言の真意を尋ねようとしたガガンボは……ゴトッと変な音が聞こえた。


 ふと下を見ると……『手』があった。血が流れ出ているからさっき切られたのだろう、とガガンボは自分の左を見ると、そこには本来あるべきものがなかった。


 それが自分の手だと気づくまでにガガンボは時間をようした。


「え……あ…………あぇ? 俺の……手……俺の……っ、ぎゃあああああああ!!!!」


「うるさい。手元が狂う」


 ────スパッ、……ボトリ


 続けざまに一筋の閃きと赤い線が天音の持たれた小太刀から放たれる。


 そして、ガガンボは両手を失った。


「お、俺の手が……俺の手がッ!! う゛う゛う゛う゛うぅあああーーー!!!」


「めんどくさいなぁ……あの人、こんなことやってたんだ……って、急がないとな」


 天音は血ぶりを済ませ左の鞘に刃をしまうと、すぐにガガンボの止血へと移った。一度、阿久津から欠損部位の手当の方法を教えて貰っていた天音はサクッと済ませてしまう。


「ガガンボ、どうする? 両手はボクが斬り飛ばしたけど、腕はまだある。足ももしかしたら動くかもしれない。……最後の勧告だ。何を企んでいるのか言え」


「……誰が言うか」


「そっか。残念」


 天音は薬の効き目がなくなり始めたガガンボの肘から下を……瞬きを2回する間に切り落とした。


「うぎゃああああああああああぁぁーー!!!!」


「辛かったらこれ飲ませてやるよ?これが欲しいんだろ? この薬が」


 天音は透明な感覚軽減剤を目の前に振りながら、狂気のような笑みを浮かべながらガガンボを煽った。


「カウント5で決めよっか? 何も言わないなら次は肩まで全部切る。はい、い〜ち、に〜、さ〜ん、」


「うぐ……くぅ……」


 ガガンボの頭の中は痛みと苦痛と自殺願望と怨念と……激しい中毒症状に犯されていた。

 あの中の薬品を飲みたくて、飲みたくて、飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて飲みたくて……たまらない。


「よ〜〜ん」


「はぁ、はぁ……ぐぅ……っ」


 死んでも言うかと目をつぶるガガンボに天音は本当に腕を切り飛ばそうとして─────、



「ご〜。はぁ、さてと……ん? うん、どうしたの? うん、こっちはそろそろ呼ぼうと思ってたところだよ。……そっか、そんなにも……じゃあ、今から呼ぶね」


 急に止まった天音は取り付け型のインカム越しに15秒ほどの会話をすると、ガガンボにとって悪夢とも呼べる2人が……その扉に手をかけた。


「行こっか、璃音」


「うんっ。行こ、天瑠」


 そして、天音は狂気と猟奇と殺気に塗れた2人をガガンボに紹介することにした。


「さて、その前にお前に紹介してやるよ。……ふぅ、『ラピス』『ラズリ』こっち来ていいよっ!」


「なっ……!?」


 ラピスラズリ、その言葉を聞いてさらに驚くばかりのガガンボ。そして出てきた……とても小さい2人の双子の姉妹。方やサブマシンガンと拳銃、方や別のサブマシンガンとショットガンをその小さな体に担いでいた。

 そこから放たれる暴力的な殺意の濃さはガガンボはもちろん、天音さえ緊張し息が少し止まってしまった。


 真っ先に言い放った言葉は───


「お姉さまっ、こいつ殺しちゃっていいですか?」

「お姉様っ、この人もう殺してもいいですか?」


「……2人ともどれだけ怒ってたの……」


 あまりにも爽快なくらいの殺意めいた笑顔に天音が呆れるのも無理はなかった。

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