金色の雨を降り注がせる双子の姉妹

「あぁ〜も〜〜!!」


 叫びながら銃を連射しているのは、さらさらな黒髪をさげ、首にマフラーを被る璃音、そしてその武器は───、


「璃音っ、撃つのはいいけどしっかり的には当てないとっ!」


「で、でも天瑠っ! あの人……あんなにお姉様の側にいて……ああぁ〜いらいらするよ〜〜!」


 ────パパパパパパパパンっ!!


 我慢出来ないように璃音はPDW《パーソナルディフェンスウェポン》───MP7A1を目の前の人形へ向け撃ちまくっていた。既に璃音の周りには4本のマガジンが散らばっていた。


「こーらー! まったく……ちょっとは変わったと思ったけど、やっぱりまだまだなんだから……。…………ぁぁああああーーもう! またこっちまでイライラしてきた! なんであんなのがお姉さまの側にいるわけ!? ぅ……ゃま……じゃ……けど……。っ、うらやましい訳じゃないけどっ!!」


 ────パラララララララララっ!!


 ……かという、天瑠もこれで3本目だ。

 そこまで天瑠と璃音のイライラは頂点に達していた。いくら作戦だろうと、天音が敵のために何かをすること……しかも生身同士でとなると、2人にとってはここまで暴走してしまうのだった。


「はぁ、はぁ……っ、このぉ……っ」


 弾切れの合図を示す、ガチリとハンマーの落ちる音が璃音のMP7から響く。璃音は6本目へと手を伸ばそうとした時……後ろから通信越しに声がかかった。


「璃音ちゃん、ムキになって撃って体の軸がぶれたりしたら銃口が変な方向に向くって話したよね?」


「っ! 由莉ちゃん……でも……っ」


「それで味方を間違って撃ち殺したら……璃音ちゃん、責任取れる?」


 後ろのベンチで2人が撃ってるのを見ていた由莉がそう声をかけると、璃音は萎縮してしまいぐったりと項垂れた。隣にいた天瑠も撃つのをやめ、少し反省したように璃音とそっくりな仕草をとった。


「ごめんなさい…………どうしても我慢できなくて……」


「由莉ちゃん……ごめん……なさい」


「ううん、これは私が責任持ってるから、なるべく安全に2人にはやって貰いたかっただけだよ。それだけは注意してやってね?」


 由莉は天音を行かせた後、天瑠と璃音を抑えるのにかなり必死になっていたのだ。


 ───────────────────


「あ、璃音ちゃんも天瑠ちゃんも落ち着いてよっ」


「由莉ちゃんやっぱり今からあれをこの子で頭を吹っ飛ばしてきますどいてください」


「蜂の巣にしてやりたい……あんなかわいいお姉さまが……あんな汚い奴に近づくなんて……っ」


「これも情報を吐かせるためなんだってば〜〜っ」


 鬼気を放つ双子に由莉も頭を抱えてしまっていた。本当は由莉だってこんなこと天音にお願いしたくなかった。だが、現状を打破できるのは天音しかいないと由莉はそう考えていたのだ。

 だから……今後のためにも由莉はここで抑えなければならなかった。


「「由莉ちゃんッ!!どいて!(どいてください!)」」


「……今行ったら天音ちゃんの覚悟が水の泡になるよ。そんなことを天音ちゃん自身が望むって思うなら……私を殺してからなら行っていいよ?」


「っ、由莉ちゃんは自分の命をなんだと思ってるんですか!ずるいです、ずるいですよぉ!! 璃音たちが由莉ちゃんを殺せないって分かってるからそう言ってるんですよね!?」


「っ、…………璃音、ちょっと落ち着こっか」


 由莉の冷たい口調と、璃音の激しい怒りに反対方向へ感化された天瑠は構えようとしていたP90をスリングで肩にかけると、璃音の元まで歩き、パチンっと頬を両手で押さえるように叩いた。


「っ、いったい……な、なにするの、天……る……」


「璃音。今、由莉ちゃんに何を言ったか思い出して。由莉ちゃんは……自分の命を賭けるって言った時、いつも誰かのために動いてたのもう忘れたの?」


 冷たい手の感触に璃音の頭は急速に落ち着きを取り戻し……そして、その顔色を一変させる。


「ぁ……また……またやっちゃった…………っ、もうやらないって決めてたのに……璃音の悪い癖だって……分かってたのに……っ」


「……ほんっとさ、璃音は変わってないよね。お姉さまの事になるとすぐ誰に対してもカッカするし、それなのにすぐに自分を責めるし……まだまだ、一人前なんて呼べたもんじゃない。とことん手のかかる妹だよね」


「…………」


 返す言葉がなかった。璃音には天瑠の厳しい言葉に異を唱える資格すらなかった。もしあるとすれば……『ごめんなさい』の一言だけだった。

 璃音もそう言おうと口を開いたが……天瑠はそれを許さなかった。




「ほら、そんな顔してるとみんな悲しむよ? 璃音が今考えなきゃいけないのは、どうすればみんなのためになるかだよ。分かった? あと、言うのは『ごめんなさい』じゃなくて?」


「うん……っ、天瑠……ありがと……っ」


「よしよし、よく言えました。誰かから施しを受けた時はごめんなさいより、ありがとうの方が相手も嬉しいんだよ。やりたくてやったことなんだからね。けど、本当に悪いことをした時はごめんなさいって言わないとね?」


 天瑠は璃音を抱きしめながら、由莉の目を見て璃音の分まで謝罪した。姉としても止めなきゃいけない場面だったと。


「……由莉ちゃん、ごめん……天瑠も璃音も酷いこと……言っちゃった。頭の中では分かってたのに……」


「ううん……気にしないで? 2人にも……天音ちゃんにも……申し訳ないことを余儀なくさせたのは……私だから。だからね、お礼を言わなきゃいけないのはこっちだよ。ありがとうね」


 由莉もそうやって気持ちを慮りながら、そんな決断をさせた2人にある提案をした。


「……ね、2人とも正直に言って……今、心の中でかなりイライラしてるよね?」


「……うん……」


「はい……」


 そこまで聞くと、由莉は2人の手を掴むと半ば強引に武器庫がある場所まで戻った。


「由莉ちゃん……?」「どうして……?」


「ストレス発散に今から好きなだけ銃、撃っていいよ? 弾だってどれだけでも使ってもいい。……マスターと阿久津さんには後で私が謝るから。これは私のせめてものお詫びとして……受け取って?」


「……いいの? 天瑠は……P90撃ちまくりたいけど……10分もあったら何百発も撃っちゃうよ?」


 天瑠は不安げに聞くと由莉はうん、と頷いた。


「璃音ちゃんも……そうだね……天瑠ちゃんと同じPDWのジャンルにあるMP7A1なんてどう?」


 由莉は既に見つけていたと言うかのように迷いなくその銃が入っている箱から一丁取り出すと璃音に渡した。


「小さい……それに軽いです……」


「マガジン入れても2kgくらいだからね。装弾数は40発。天瑠ちゃんのP90は3kgで装弾数50発。PDWで有名な銃を2つと言われたらMP7とP90が出てくるくらいだから性能もお墨付きだよっ」


 天瑠と同じ種類の、という言葉に璃音は少し嬉しそうにMP7A1を抱きしめる。小さい銃なのになぜか頼りがいのありそうな武器だと璃音は感じていた。


「由莉ちゃん、ちょっといい?」


「どうしたの?」


「『この子』のこと……もっと教えてほしい」


 出会って1日しか経っていないP90をこの子と読んだ天瑠に由莉も璃音も驚きを隠せずにいた。由莉も確かに天瑠がP90の事が好きだというのは知っていたが、ここまでだとは思っていなかった。それ故に由莉は嬉しくなった。


「もちろんだよっ!じゃあ、今日の夜たくさん話してあげるねっ、よしっ……射撃場行こっか」




 ──────────────



 そして……現在。


「思う存分、イライラをぶちまけていいからね?それだけは分かってね?」


「うんっ」「はいっ」


 由莉に慰められた2人はマガジンを交換し、新しい人形へ向け銃口を向けたその時───、つけ直した耳にかける型のイヤホンから天音の声が聞こえてきた。天音が計画を進めたのを随時確認するための、一方的にしか聞けないものだったが……それが双子の心の油田に火をぶち込んだ。


『ひどい……ひどいよぉ……』


「……ねぇ、天瑠」

「うん、分かってるよ。璃音」


 2人は頷くと、同じ人形へ向け照準を向け────、


「このぉぉおーーーーー!!!」

「このおぉぉーーーーー!!!」


 ────パパパパパパパパンっ!!

 ────パラララララララララっ!!


 大量の空薬莢を外にばら撒きながら人形を蜂の巣よりも酷くズタズタにする。


「敵のくせに……っ、お姉さまを泣かせて……っ」

「泣いたふりだと思うけど、それでもお姉様を泣かせて……っ」



「「ぜっったい許さないッ!!」」


「殺す許可が出たら」

「璃音と」「天瑠と」

「この銃で!」「この子で!」

「粉微塵に」「蜂の巣にして」



「「殺してあげるんだからっっ!!!!」」


 それから……天音の声が聞こえる度に暴言を吐きまくりながら連射しまくっていた。


「っ!? あいつ……お姉さまになんてことを言わせてるの!?」


「ああぁ〜〜〜もう!!分かってるけどいらいらするよぉ!!」


 そうして、お互いの銃を交換してぶっぱなしてみたり、


「ねぇ、璃音!」「なぁに、天瑠っ!」

「MP7も撃たせてっ!」「うんっ!天瑠のP90も撃ってみたい!」


 お互いの銃への感想を言ってみたり、


「P90って反動少し強めなんだね。発射速度ちょっとMP7よりも早い気がするから、ちょっとコントロール難しい……けど、すっごく楽しいよっ!」


「MP7は撃ちやすいねっ、思った場所に当たるからこっちもすっごい楽しいよっ!」


 そうして、2人がようやく落ち着いた頃には周りは黄金の雨が降ったように金色一色に染まっていた。結局、天音が別の行動に入るまでに2人が撃った弾の数は計1500発にも及んだ。その中にいる天瑠と璃音の表情は……とても清々しく気持ちのよさそうにしていた。


(2人とも……楽しそうだなぁ……いいなぁ……)


 ……その傍らでちょっぴり羨ましくなる由莉なのであった。


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