待つとかクソくらえと駆け抜ける
「た、助け……? どういう事ですか、音湖さん」
「文字通りの意味にゃ。嫌な予感がしてならないから行く、それだけにゃ」
音湖も自分のやる事をやってこようと背中を向けるも、天瑠はその手を握って行くのを止めようとした。
「待ってくださいっ! ……お姉さまたちが失敗すると思ってるのですか? そんなに…………頼れないのですか?」
「……天瑠ちゃん、黙ってついてくるにゃ。……うちは今、すっごく嫌な予感がしてるのにゃ。作戦が失敗するかもしれないし、下手したら……誰かが死ぬかもしれないにゃ」
「っ!?」
『死ぬ』────一番恐れている言葉を言われ、冷やかしなの!?と天瑠はつい言いたくなったが……音湖の瞳を見て、事実なんだとその深刻さが心に直接語りかけてきた。
「天瑠ちゃんに任せるにゃ。信じて待つのもいいし、自分がみんなを助けるために動くのもいいし……選ぶにゃ」
信じて待つか、信じるからこそ行くのか。天瑠はこの問いにノータイムで答えた。絶対に後悔しない、その選択を。
「天瑠は…………付いていきます。やって後悔した方が、やらずに……誰かが死んじゃうよりずっといいです」
「にゃっ。天瑠ちゃんはやっぱり天音ちゃんに似ているにゃ。仲間のために躊躇いなく動けるのは……強くないと出来ないにゃ。……さて、と。じゃあ、うちは準備してくるから天瑠ちゃんも用意が終わったら来るにゃ」
迷わずに助けに行くことを選んだ、その真っ直ぐな気持ちに音湖は嬉しそうに頷くと天瑠と別れて、階段を3段飛ばしで跳ねるように登っていった。
(ほんっと、天瑠ちゃんも璃音ちゃんもいい子にゃ。……なるほどにゃ。天音ちゃん、由莉ちゃん、そして……瑠璃ちゃんの優しさを一身に宿しているなら納得だにゃっと!)
★★★★★★★★★★★★★★★★
(弾込めも終わったし、入れておくと撃ったら危ないから取り外しておいて……と。装束もばっちり。この服、可愛いんだよね)
天瑠は部屋に着いて銃とマガジンをベットの上に置くと、クローゼットの中にある自分専用の服に着替えた。
何となく、くるりと一回りすると、それに合わせて紫のスカートがひらりと舞い、天瑠の表情にも花が咲いたような笑顔があった。
「……っと、外に出る時はこの格好は目立っちゃうから上に何か着ておいて……その中にこの銃を隠せば……よしっ、問題なしかな」
黒めのちょっとだけ厚めの服を、肩にスリングを付けたP90を吊りさげた上から羽織った天瑠は音湖の言っていたガレージへと向かった。
「音湖さぁ〜ん、出来まし───」
ヴォォォンっ!
「きゃうっ!?」
そこへ来た途端、急に激しくて低い爆音が響き渡り、天瑠は耳を抑えてうずくまった。あまりにも突然過ぎて、今日何度目かの変な声を出させた正体を場合によっては隠してる銃で蜂の巣にでもしてやろうか、そう思ってじろりとそこを見てみると────、
「にゃあ……ひっさびさなのに、問題なく動かせる……それに、綺麗に整備されてあるにゃ……あっくん……代わりにやってくれていたんだにゃ……あっくんはやっぱり変わったにゃあ〜。およ? 天瑠ちゃん、もう来たのかにゃ? 仕事が早いにゃんね」
「な、なんですかこの音……それに……それって……」
「うん? うちのバイクにゃ。1200ccで時速が……たしか350km/hまでなら出せるにゃ。おっと、免許は18の時に大型二輪免許を取ったから問題ないからそこは心配ナッシングだにゃ」
黒いライダースーツを着ている音湖の横にあったのは、黒と白を基調とし、銀色の部品が重厚さをさらに物語らせ、そこに黄色のラインが一本横に走っているかなり刺激的な印象を与える大きなバイクだった。
「音湖さん……こんなのにも乗れるのですか?」
「にゃははっ、武器はほとんど使えるし、乗物系は全部行けるにゃ」
「音湖さん凄すぎませんか? ……本当になんでもありですね」
つくづくぶっ飛んだ人だと天瑠も流石にお手上げ状態だった。だが……同時に瑠璃を助けた人はこんなにも凄いんだと……ほんのちょっとだけ尊敬の眼差しを向けた。
「にゃははっ、もっと褒めてくれてもいいんだけどにゃ?」
「あんまり調子に乗っていると、行って何もなかった時、お姉さまにチクって狙撃して貰いますよ?」
「天瑠ちゃん……やっぱりちょっとえぐい事言うにゃんね。取り敢えずそれはお願いだからやめてくれにゃ」
「……えへへーっ」
大人であろうとそんな事知らぬと言わんばかりの天瑠の態度に天音成分を感じた音湖は顔を引き攣らせながら天瑠に頼み込むと、いらずらに成功した子供のようにいじらしい仕草で笑っていた。音湖もこれには困ったように後ろ髪を掻きながらも笑みがこぼれてしまった。
「……ほんと、根が強いにゃあ……さすがに……お姉ちゃんとしてやって来ただけの事はあるって感じかにゃ」
「天瑠は璃音の姉で妹の璃音を支えてあげるのが天瑠の仕事です。瑠璃お姉さまから貰った大切な役割ですから……」
「にゃはは、そうだにゃ。……よしっ、ならそろそろ出発するにゃ。そうにゃ……マガジンは一本はもう入れておいて、もう一本はうちに寄越すにゃ。かさ張らないし、その方がいいにゃ」
「はいっ!」
天瑠は音湖に黒いプラスチックのマガジンを一本渡し、もう一本はP90に叩き込んだ。もちろん、セーフティはかけてある。
「後ろに乗ったら、ベルトを繋ぎ合わせて、運転している間は絶対にうちの腰を掴んでいるにゃ。……いいにゃ?」
「分かりましたっ」
そうして、天瑠が音湖とぴったりと抱きつくのを確認した音湖はヘルメットを被ると、思いっきりエンジンを噴かせた。重低音がガレージ内に響き渡り、ちょっとうるさくも思ったが、それでも……なんだか、天瑠はワクワクが止まらなかった。
「よぉし、それじゃあ、思いっきりぶっ飛ばすから、覚悟してるにゃ!! うちも久々に走るからテンションめちゃくちゃ高いにゃ!!」
「はいっ!!! 行きましょうっ!!」
本来の目的は音湖の勘が当たった時、フォロー出来るように、けどこの数時間は音湖のバイクから見える景色を楽しみたい、そんな気持ちを抱く天瑠を引き連れ、音湖は思いっきりアクセルを踏み抜くと、ガレージを飛び出したバイクは天瑠と音湖を乗せて家の門をくぐり抜けてから凄まじい速さで道を駆けていった。
「にゃははははははははっ! きっもちいいにゃー! どうにゃ〜天瑠ちゃん!」
「すごい……すごいです、音湖さん!! こんなに楽しいの久しぶりですっ! きゃははははははっ!」
音湖も天瑠も風を切り裂いて走るその感覚にベタ惚れして仲良さげに思いっきりわらいあっていた。だが、2人とも視線は常にまっすぐだった。向かうのは、みんなのいる場所、そこにいるみんなを助けるため、2人は道路を駆け抜けていった。
───みんな……待ってて!
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