───命のバトンは離すものかと、

(……………天瑠は…………こんな……ところで………でも……手も……もう届かない………)




































「そんなことぉっ、………ないにゃああ!!!」


 天瑠の伸ばした手は……空をきった。虚しくきった。1人では……届かなかった。







 だけど、その行為は……無駄じゃなかった。

 その小さな手を決して離さまいと大きな手が握りしめ、宙にある天瑠の体を思いっきりバイクの前面に放り投げた。


「ぐぁ……っ」


「1人じゃ無理かもしれない。助からないかもしれない。けどにゃ、その行為は……生きようと必死に手を伸ばした、うちに助けて貰おうと、死に抗った天瑠ちゃんの行為は……



 無駄じゃないにゃ!!! とっととうちの体とベルトでくくるにゃ!!」


 天瑠も咄嗟に体が、生きたい!!と本能のままに動き、音湖の体をしっかり掴み、音湖も天瑠の手を離さないまま後ろに乗ると、急いで自分の腰のベルトと音湖のベルトをくっつけた。


「あっぶな……かったにゃ。一瞬、本気で天瑠ちゃんが死ぬかと思ったら……うちも手がうごいて……」


「ね……こ、さん………っ。音湖さあぁぁぁぁん!!」


「にゃあ!?」


 天瑠は……落ち着いた瞬間、音湖に思いっきり後ろから抱きつくと、涙が溢れてきて……止まらなかった。生きているんだと。自分は助けられたんだと。


「ううぅ……っ、怖かった……怖かったよぉ……死ぬかと思って……もうみんなと一緒にいられないと思って……うぅっ、ひっく……」


「…………ここで天瑠ちゃんを死なせるわけがないにゃ。今は天瑠ちゃんの行動の責任者はうちにゃ。だから、当然の事をしたまでにゃ。さて……と、みんなのところに戻るにゃ」


「……はいっ」


 天瑠には……その背中はとても眩しく映った。いつもの気の抜けたような語尾ですら、その時は……何もかも信じてしまいそうになってしまう程だった。





 ★★★★★★★★★★★★★



「天瑠ちゃん!」


「由莉ちゃんっ!」


 追いかけていた車の側に止まって、阿久津がビニルシートを敷いたトランクへと標的2人を引きずりこむ作業中に、大きなバイク音を響かせてやってきた音湖のバイクが到着した。それとほぼ同時に、乗っていた天瑠が飛び出していき、由莉に思いっきり飛びついた。


「天瑠ちゃん……ほんっとにありがとう。音湖さんと天瑠ちゃんがいなかったら……どうなってたか分からないよ……」


「うんっ。天瑠も頑張ったからっ!」


「えらいえらいっ。よく頑張ったよ〜」


 今日は色んな人が活躍した。由莉はそう思っていたが、本当に美味しくて重要な部分は天瑠と音湖が余すところなく持っていってくれたと自分がいうものなんだったが、そう感じていた。

 頑張ってくれた天瑠に由莉はぎゅっと優しくハグをし、背中をポンポンっと叩いてあげた。


「気持ちいい……由莉ちゃんと一緒にいられる璃音は幸せだなぁ〜」


「そう言ってくれると、璃音ちゃんも喜ぶよ。本当に……今回ばかりは助けられたよ。ありがとね、天瑠ちゃん」


 由莉にもちゃっかり甘える天瑠を横目に、バイクを端に寄せ、ヘルメットを脱いだ音湖は阿久津の元へむかった。


「……まさか、とは思っていましたが……今回ばかりは来ないと思ってましたよ」


「にゃははっ、うちの嫌な勘はよく当たるにゃ。変な感じがしたから来てみて大正解だったにゃ」




 ★★★★★★★★★★★★



 ─時は遡り数時間前─


 音湖は天瑠を引き連れ地下の武器庫に来た。


「ね、音湖さん、ここまで連れてきて何をさせるつもりですか?」


「うーん、天瑠ちゃんにはどれがいいかにゃあ〜……ちょっと小さめで反動もそこそこなやつがいいかにゃ……」


 天瑠の質問も聞いていないようで、音湖は物色するように銃を見まくっていた。これじゃない、これじゃない……と、ぶつぶつ呟きながら。


「ち、ちょっと音湖さん! 少しは天瑠の話も聞いて───」


「あったにゃこれだにゃあ!!」


「ひゃぅ!?」


 突然連れてこられ、突然放置され、一体なんなんだと天瑠は問い詰めようとした瞬間、さらには突然大声を出され、天瑠は怯みあがって変な声が出てしまった。本当に怒ろう、そう決意して音湖を睨むと、その手には見た事もない銃が持たれていた。


「天瑠ちゃん、ちょっとこれ撃ってみるにゃ」


「……これは……銃……?」


「そうにゃ。確か……P90って言うんだったかにゃ? 使えないものを持っていっても意味無いから、ちょっと撃ってみるにゃ」


 音湖に銃を押し付けられた天瑠は渋々受け取ると、取り敢えずは構えをとってみた。


(なにこの銃……これが引き金で……ぐりっぷ?がお姉さまのライフルみたいな形だからこう握って……左手は……もしかして、ここ?)


 何となくだったが、天瑠の体にP90はすんなりと馴染んだ。そんな気がしてならなかった。

 それから、天瑠と音湖は射撃場へと向かうと、20m先にある人形を前にしていた。


「はいにゃ、これがマガジンだにゃ。弾倉に入れれるだけ入れたから撃ちまくっても大丈夫にゃ」


「…………? はい……」


 いつも使っている拳銃のマガジンよりずっと大きいと思いつつ、その弾倉を受け取り、それっぽい所に押し込んでみると綺麗にその場所に収まった。まるで……天瑠に撃ってほしいと言ってるかのようだった。

 だが……天瑠はほんの少しだけ違和感を音湖の言葉に感じていた。


 ……『撃ちまくる』その一言に。


「じゃ、じゃあ取り敢えず撃ってみます」


 でも、言葉のアヤかなと天瑠は早々に考えるのをやめると、照準の小さい穴の中に対象物をぶらすことなくしっかりと真ん中に置く。そのまま、大きな引き金に指をかけ、キュッと引き絞った。


 パンっ




 パパパパパパっ!


「きゃあっ!?」


 P90からは1発だけ……ではなく、1度に何発もの銃声が響き、比較的軽い反動だったにも関わらず天瑠は思わず尻もちを着いてしまった。


「いったぁ……っ、音湖さん! なんでこれが連射出来るって教えてくれなかったんですか!!」


「にゃっ、てっきりマガジンに入ってる弾の数で分かると思ったんだにゃ」


「……それは……言われてみればそうですけど……それでも言ってくださいよ!」


「ご、ごめんにゃ」


「もぉ………………でも、もう少し撃ってみます」


 天瑠はぶーたれながら、自分の腕の中に収まっているP90の半透明なマガジンに入っている銃弾の束を眺めた。突然暴れたことは少し嫌だったが……何となく、もうちょっとだけ撃ってみたくなったのだ。


(転んだけど……あんまり反動はなかった気がする……今度は大丈夫)


 もう一度引き金に触れると、思いっきりトリガーを押し込んだ。再び、P90の銃口が火を吹き、軽快な銃声とこぼれ落ちる空薬莢の二重奏が奏でられた。


(ぁ……これ……面白いっ!)


 撃っていて次第に楽しくなってきた天瑠は3点バーストと4点バーストを繰り返し、最後の20発はフルオートで全部ぶっぱなした。弾は20m先にあった的をズタズタにし、見るからに50発のうち、30発は当たっているのが音湖から見ていてもすぐにわかった。


「ほ〜天瑠ちゃんは連射系の武器も使えそうだにゃ。……まだ天瑠ちゃんと璃音ちゃんの武器の適正見てなかったっけにゃ? 明日あたりにでもやって────」


「あははははっ、音湖さんっ、これすっごく楽しいです!」


 50発の弾を撃ちきって、弾倉を抜き取りながら音湖の方を向いた天瑠の顔には、自然と笑顔が張りていた。天瑠のこんな顔は音湖はあまり見た事がなく、数秒の間呆然としていたが……すぐに気を取り直した。


「天瑠ちゃん、これを実戦で使えって言われても撃てるかにゃ?」


「もちろんです!蜂の巣にしてあげますよ!!」


「銃を持ちながら笑顔でその言葉を言うのはそこそこエグい気がするけど……それだと助かるにゃ。んじゃっ、天瑠ちゃんは弾倉2本に弾を詰めてにゃ。それが終わったら、P90にスリングベルトを付けて、装束を着て、上のガレージに来るにゃ」


「はいっ! …………えっ!? 音湖さん、本当にどこに行くつもりですか?」


 自信ありげなのから一変、天瑠は驚愕に目を見開いた。銃を持って行くなんてどこぞの組織でも潰す気なのかと、天瑠には疑問でならなかった。

 そんな天瑠に音湖はとびきりニヤリとしながら小悪魔っぽく口を開いた。





「みんなを助けに行くにゃ。留守番なんてクソ食らえにゃんよっ♪」



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