由莉ちゃんの強さを知りたいです

 ※この話は改稿された1章1話の情報が少しだけあります。そちらも参照にどうぞ!


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「…………はぁ……」


 なんでこうなっちゃったんだろう……璃音は銃を片手にうずくまっていました。……なんで、璃音は……


「…………璃音ちゃん?」


「っ!?」


 誰かから声をかけられると思ってなくてびっくりして横を見ると、由莉ちゃんが心配そうに璃音を見ていました。


「天瑠ちゃんから話は聞いたよ。……隣、座ってもいい?」


「………はい」


「ありがとっ。んしょっと……さて、何から話そうかな……」


 唇に指を当てながら悩む由莉ちゃん。……なんで、璃音の為に時間を使うの? なんで……璃音なんかを……


「………追いつけない恐怖」


「え……?」


「……私は璃音ちゃん以上にそれを知ってる……私も同じ事を思っていた時があるから」


 由莉ちゃんはお姉様を助けようと練習していた時のことを話してくれました。お姉様を助けるために……たくさんの事をしたんだと……由莉ちゃんは優しいです。

 お姉様が好きになる訳です。


「みんなに追いつけないの……怖いよね……どんなに頑張っても、手が届きそうにないんだもん……でも、絶対に追いつきたいよね」


 璃音の顔を覗きながら、笑ってそう話す由莉ちゃんは……璃音には眩しく見えました。それに、どうしても聞きたくなりました。


 「……なんで……由莉ちゃんはそんなに……強いのですか?」


「強い……強いかぁ……私は強いというより……逃げてきただけだから……ね」


「……?」


 逃げて……きた?どういうことだろう……。首を傾げると、由莉ちゃんは璃音の顔をチラッと見つめました。


「……私が元々引きこもりだった事は話したっけ?」


「少しだけ……まだここで半年くらいしかやってないと聞いたきりで……」


「あれ……? 話してなかったっけ……あっ、そう言えばこの前話そうとした時、阿久津さんが入ってきて結局話せなかったんだっけ。じゃあ、話そっか。私の過去……引きこもりだった頃の話を……少しだけ」


 そこから、由莉ちゃんの話が始まりました。4年間しか記憶が残ってないこと、ずっと1人だったこと、そして……


「……2年くらいかな。Bullet Pleck Battleってゲームがあるんだけど、そこで私は『Yuri』って名前で───」


「っ! もしかして……由莉ちゃんって……あの『Yuri』なのですか!?」


「えっ、知ってるの?」


「当たり前ですよっ!! 対物ライフル……?使いの女のアバターで、すっごく強くて誰も勝てないって、あの組織にいた時によく耳に聞こえてきましたよ!! お姉様も天瑠も、よく知ってます!!!」


 びっくりしました……まさか……名前が合ってるのは偶然だと思っていましたが、本当に…………?


「そ、そんな有名だったんだ……」


「はい! それに……話してる人たち全員、デブの、ひきにーと……?だって言ってました。璃音たちもそうなんだろうなって思ってて……璃音と同じくらいの……女の子がやってたなんて……信じられません……」


「そうなんだ…………」


 なぜかそう話すと……由莉ちゃんは少し悲しげな表情をしていました。……璃音は……また悪いことを言ったのでしょうか……。


「で、でも、由莉ちゃんの使ってる武器が、『Yuri』の武器と同じだから、璃音は信じますよっ」


「……ふふっ、ありがと。それでね、ずっと……そんな生活をしてたんだけど……ある日、メールが来て、スナイパーにならないかって書いてあったんだよ。……私、ずっと実際に撃ってみたいって思ってた。スナイパーが……人を殺す人だって事も知ってた。……それでも、私はやりたかった。……それも、あの頃の現状から心の中では逃げたかったからなんだと思う。それにね……復讐する力が欲しかった」


 由莉ちゃんの経歴は……すごく……心が苦しくなりました。親……は璃音にはよく分かりませんが、ずっと殴られたり蹴られたり……それを4年……璃音には耐えられそうにありません。そんな人がいれば、璃音は銃を持ったらすぐに殺しに行きそうです。


「それで……由莉ちゃんはその……おかあ……さん?殺すんですか?」


「…………殺すよ、絶対に」


「ぅ……っ」


 突然視界が曲がるような空気が由莉ちゃんから発せられました。……すごい殺気……っ、お姉様と同じくらい……ううん、それ以上……。胃の中空っぽでよかったです……うぅ……っ。


「っ、璃音ちゃんごめん……怖かったよね」


「すごい……殺気でした……」


「どうしてもこの事を話すと……こうなっちゃうんだよね……今までは天音ちゃんを助ける方を優先してきたからけど……天瑠ちゃんと璃音ちゃんがしっかり成長してから……殺しに行くつもり」


 そう話す由莉ちゃんの瞳は……すごく力強かったです。璃音の悩みも忘れてしまいそうになりました。


「あっ、話脱線しちゃったね……璃音ちゃんの追いつきたいのに追いつけない気持ちは分かる。実際に……私と天音ちゃんとの間には……とてもじゃないけど、1人では背負いきれない差があったからね……」


「…………」


 なんだか……その時の由莉ちゃんと璃音の今が少しだけ似ている気がします。なのに……由莉ちゃんは諦めなかったんですね……。


「璃音ちゃんは……もう諦めたい?」


「っ、諦めたくありません!! 璃音は、みんなの……足でまといになりたくない……っ」


 それでも……璃音はみんなの役に立ちたいです。誰かに迷惑をかけるのは……もう嫌です……っ!そう歯を食いしばっていると、由莉ちゃんが璃音の前に立って手を差し伸べました。


「だったら、そんな所で立ち止まってたらだめ。やりたい事のためなら何でもしよ? もし、自分がここまでやってまだできない、そう思ったなら、誰かを頼って見るといいよ。それは足でまといじゃない。誰かに助けてもらうのは悪いことじゃない。誰かと一緒だから分かる強さもあるんだよ?」


「誰かと……一緒に……」


「そう。1人じゃ……私だって何もできない。もし1人なら、私はきっと……誰よりも弱い」


 そんなことない、そう言いたかったですが……言えませんでした。璃音の方が絶対に弱いです……だって……





 璃音は2人になった時、1人になったら自殺しようと思っていたんですから。


 天瑠が死んじゃったらどうしよう……そんな事をずっとずっと考えて……天瑠が死んじゃったら……きっと璃音は生きていけない。だから……もう……その時は、璃音も一緒に天瑠の所へ行こうと思っていました。


 だから……璃音は1人になったら生きていけないくらい……弱いです。由莉ちゃんの方が強いですよ……。


「そんな時、私は音湖さんに助けを求めた。強くなりたくて……天音ちゃんを助けたくて……もう時間がなかったから……やれる事、使える人は全部使うことにしたんだよ」


「…………」


「だからね、璃音ちゃんも、強くなりたいなら何でも使っていいんだよ。人も、何でも……全部」


 何でも………………それなら……璃音は……


「ふぅ、じゃあ……璃音ちゃん、もどろ───」


「由莉ちゃん!!! お願いします……璃音を……由莉ちゃんの側で練習させてください!」


 璃音は立ち上がると、由莉ちゃんに思いっきり頭を下げました。璃音は……由莉ちゃんのその強さをもっと知りたいです。由莉ちゃんは……きっと璃音に足りないものを持っている、そう思いました。それを知れれば……きっと璃音は強くなれる、そんな気がします。だから……だから!


「由莉ちゃんの足でまといになるかもしれません……迷惑ばっかりかけるかもしれません……でも、強くなります!……この名前に恥じない……2人のお姉様の前に胸を張っていられるくらい強く……璃音はなります!! だから……お願いします、由莉ちゃん……璃音を側にいさせてください……っ」


 もしかしたらダメかもしれない……そんなお願いを璃音は由莉ちゃんが返事をくれるまで待つつもりでした。目をぎゅっと瞑って待っていると……すぐに、暖かい手のひらが頭を撫でるのを感じました。顔を上げると……優しくて……覚悟を灯した由莉ちゃんがいました。


「璃音ちゃん……分かった。それが璃音ちゃんの覚悟なら私も頑張るよ。……但し、途中で投げ出したら私も本気で怒るからね?」


「……はいっ!」


 由莉ちゃんは何も躊躇うことなく、快く受け入れてくれました。本当に……優しいです。璃音はそんな由莉ちゃんの優しさと強さがもっと……もっと知りたくなりました。


(みんなに……追いつかなきゃ……!璃音も……みんなと一緒の場所に……立ちたい……っ)


「…………」




 意気込んでいる隣で由莉ちゃんが璃音の事を見ているような気がしますが……多分、気のせいだと思います。

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