……璃音は死のうと思います
次の日から璃音は由莉ちゃんの側で練習する事になりました。色々話して、璃音は由莉ちゃんと、天瑠はお姉様の側で練習をする形になっています。
それから……1週間後、
「ふぅ……璃音ちゃん、平気?」
「はぁ……はぁ……っ、まだ行けます!」
「さすがに2年やって来ただけはあるね。私でも2ヶ月かかったのになぁ……あはは」
無くなった体力が始めて3週間経った頃になって、やっと元に戻り、由莉ちゃんの走る距離を何とかついていけるようになりました。……これを2ヶ月で走れるようになる由莉ちゃんは……本当にすごいと思います。
その後は、それぞれに分かれて銃を撃つ練習です。由莉ちゃんが大きな銃を寝そべって撃つ一方で、璃音は1つの部屋に入っていました。
「……ふぅ」
手には璃音のショットガンがあります。この銃があるから……璃音は生きてこられた。たくさん人も殺した。
少しの間思い出に浸ると、璃音は一気にその中へと入っていきます。
(的は……5つ。全部……撃つ)
練習でも、実際の戦闘と変わらないように慎重に素早く動きます。時々、聞こえてくる的の音を聞き逃さないようにしながら、まずは1つ目の的を見つける躊躇いなく引き金を指で引き絞ります。
「っ!!」
耳栓がなかったら大変だろうなぁ……と思いながら、人形の頭に弾を叩き込みました。撃つリアル感を出そうとしているみたいで、真っ赤なゼリーが辺りに散らばりましたが、特に気にはしません。
このくらい、前の組織で山のように血を浴びてきたので……慣れてしまいました。
部屋が入り組んでて全部探すのは少し大変でしたが、その後も、問題なく全部の的を壊すことが出来ました。これでも、2年間やってきたからこのくらい当然です!
(ふぅ……由莉ちゃんの練習すっごく辛いけど、前よりも動けるようになってる……これなら……!)
今度こそ、みんなの役に立てる!そう思うと心の奥から力が出てきそうですっ。そうして、意気込んでその部屋から出ると、お姉様と由莉ちゃんはまだ地面に伏せて狙撃の練習をしていました。邪魔にならないようにこっそり行こう……そう思った時、2人がなにか話しているのが聞こえました。
「───どう思う?」
「うーん……確かにそうなのかもしれないけど、聞いたら……きっと落ち込む」
「そう……だよね」
何を話してるのでしょうか……気になってこっそり近づいてみます。
「……もしかしたら璃音ちゃんは……向いてないのかも」
「璃音はな……努力型だから、才能型の天瑠とはいずれ……限界が璃音の方が先に来ると思う」
え……? どういう……こと?
「天瑠ちゃんはどう? 最近、離れて練習してるからよく見れてないけど……」
「天瑠は単純にやばいね。今まで普通に戦ってたけど、天瑠は暗殺向きだってあくつさんに知らされた。で、実際にやらせたら……びっくりしたよ。あくつさんでさえ驚くくらい、標的を殺すまでの流れがスムーズなんだよ」
「そうなんだ……天瑠ちゃんすごいなぁ……」
…………そういう……こと、なんだ。
璃音は……やっぱり使えない子だったんですね。 ……天瑠にも……もう届かない。……お姉様にも……由莉ちゃんにも……みんなから思われてて……なのに、頑張って追いつこうとして……それも、全部…………
ムダ……ダッタ。
「璃音ちゃん……何もない────ぁ……」
「ん? どうしたの、ゆりちゃ────」
……気づいたようですけど……もう知りません。
「…………嘘つき」
「璃音……」
「違うよ璃音ちゃん! これは……」
「嫌い……由莉ちゃんもお姉様も大っっ嫌い!! もう……嫌だ……っ」
璃音なんか……もうここにはいれない。
一人でもいい。……ううん、初めから……一人だったんだ。
最初から……璃音は足でまといにしかならなかったんだ。
こんな気持ちになるなら……最初から足でまといになるって言ってよ!! こんな……こんな苦しいなら……
努力なんてしなきゃ良かった!!!!
自分の銃も投げ捨てて、マフラーも脱ぎ捨てて……璃音は一人でここを出ます。
璃音には銃を持つ資格もないです。こんな出来損ないに使われるなら……天瑠とかお姉様とか由莉ちゃんに使ってもらった方が……ずっといいです。
地下を出て、家を出て……山の中を何時間も走りました。もう……誰にも見つからない所で……一人で……
「…………璃音……こんな名前……勿体無い……っ」
……もう、この名前を言うのは……やめます。出来損ないにお姉様と璃音お姉様の名前を継ぐ資格なんてありません。
「………………天瑠と……双子なのかな」
それすら……疑わしいです。もし……天瑠の妹ならこんな不出来な妹を持った天瑠は不幸です。
「……悔しい……くや、しい……っ!」
頑張って生きようとしてきた今までを否定されて……もう耐えられません。このまま……山の奥深くで一人で……誰にも知られずに死んじゃうのも……悪くないかも。
ポツリ、ポツリ………
雨が降り始めました。洞窟のような所があったので……そこに身を潜めることにします。
(……懐かしい……)
瑠璃お姉様のことが……何となく思い出しました。初めて、天瑠と……自分があった時……瑠璃お姉様は今、それぞれが使っている銃を頭に突きつけました。今なら、瑠璃お姉様が自分たちを殺そうとしたんだと分かります。
けど、瑠璃お姉様は殺さずに自分たちを連れてこんな感じの洞窟に連れていきました。そこで、いつもはいてくれませんでしたが、色々なお話をしてくれました。……ほとんど、お姉様の内容です。「クロは本当に意地っ張りだ」といつも笑っていました。
あの時間は……今でも宝物です。なのに…………
瑠璃お姉様はいってしまいました。もう……手の届かない所に。
お姉様を恨んだ日はありません。そのおかげでここに生きています─────前ならそう言ってたかもしれません。
今は……恨んでいます。
なんで、戦うのに向いてないって言ってくれなかったのか……お姉様を少し恨んでしまって……とうとう、瑠璃お姉様を殺したのも恨んでしまいました。恨んじゃいけないのも分かってるのに……っ。
……何が……だめだったの?
あの場で……瑠璃お姉様に撃ち殺されてたら……
戦ってる時に、死ねれば……
天瑠より先に……死んでたら……
…………もう、何が正しくて、何が間違いなのかわかりません。理由すら分からないなんて……本当に役立たずです。
「……ここで終わろっかな」
もう……いいとおもいます。天瑠がお姉様に会えた。きっと……幸せに生きると思います。だから……役目は終えたと思うことにしました。
やっと……瑠璃お姉様に会えます。
なんて罵倒されるか分からない……なんて突き放されるか……分からない……けど、もう1回だけ……
「会いたい…………っ。うう……ううぅ……っ」
あれ……?なんで……涙が………………だめ……だから……もう、いたら……だめだから……
もう……帰れない。
─────────────────
それから3時間経ってもまだ止む気配はありません。久しぶりにこんなに降る気がします。
……何もする事がないので、地面に落ちる雨粒の音をひたすらに聞いていました。なんとなくだけど……聞いてて落ち着きます。
「……くしゅっ」
首に巻いてるマフラーも……投げ捨ててきたから……少し寒いです…………まだ……2月だから、この服でも……丸くなって横になって、それでもだんだんと体温が奪われるのが分かります。
もしかしたら……このまま死ぬのかもしれません。でも……それでいいんです。邪魔な人はいなくなった方がみんなも楽だと思うんです。なのに……
「なんで……こんな苦しいの……っ」
そんなわけない……そんなわけない……そう思ってたのに…………認めざるを得なくなりました。
寂しい…………っ
孤独がどれだけ辛いか……苦しいか、いつも…天瑠が側にいてくれたからあまり分かりませんでした。……辛いです……っ、逃げても孤独、逃げなくても孤独。
いつだって……孤独だったのかもしれない。
薄れゆく意識の中……静かに眠ろう、そう思った時でした。
雨の音の中を貫くように何かが近づく音がしました。
閉じそうな目を開けて誰が来たのかと思っていると……前には長い袋を肩に担いでいる……ベトベトになった黒めの茶髪の女の子がいました。
「…………」
「…………っ」
なんで……どうして……ここが分かったのですか? 3時間も走って……ここまで来たのに、どうしてここが……
その子───由莉ちゃんは近づいてくると、袋からショットガンを取り出して、弾を詰めるのが見えます。……なんだか、ホッとしました。誰かに殺されるのなら……1人より全然いいって……
「…………殺して」
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