それぞれの戦い──ソラとシャグリ──
「本当ならラピスと組みたかったんだけど」
「こっちだって1人の方がいい」
「……何ならこの後決着つけてもいいんですけど」
「ひよっこが何をほざいてる? ……ま、せいぜい死なないように」
気がワイヤーのように張っている白髪の女性と茶髪の女の子は殺意の籠った視線を絡めあう。だが、端末から『シューズ』の名前の着信があり、気をまずくしながら無線イヤホンを耳に当てる。
『喧嘩しているのならソラは1ヶ月キッチン使わせません。シャグリは1ヶ月ご飯抜きます』
プツン───それだけだった。
「…………ふふっ、ふふふふふ」
「…………ふふふふふふっ」
悪魔のような条件を突きつけられた2人は狂った笑い声を密かに洩らしながらお互いを見合う。
「ソラ、作戦変更。二手に分かれて全員殺す。いいね?」
「言われなくても全員ぶっ殺す」
「体は資本。たくさん食べなきゃ大きくなれないなんて、困るし?」
「…………絶対に後で殺る」
茶髪の女の子───ソラの胸に視線を逸らしフッと笑う白髪の女性───シャグリに青筋を立てて素晴らしい笑顔を見せていたが、これ以上はマジでキッチン出禁やご飯を抜きにされかねないと、それきりは黙っていた。
そして………いよいよ、タイミングが近づいてきた時、
「…………ソラ」
「なに、シャグリ」
「死ぬなよ」
「当たり前。そっちこそ」
「でしゃばるな。……さて、あの子が認めた力、見せてもらうよ」
口は悪いが……ソラとシャグリはお互いに笑っていた。ソラは二本の小太刀、シャグリは二丁の拳銃を手に持つと建物の中に侵入する。
(敵14……1階に4人、2階に6人、3階に4人……、ソラは1階、いいね?)
(……一人残らず殺すだけなら容易いけど)
(じゃっ)
2人は手話だけで意思疎通すると、シャグリはその場から消えたと思うくらい瞬時に2階への階段を手すりの上をかけ走っていった。
(相変わらず速いんだから……)
その速さにため息をつくソラは同じく音を立てないように敵のいる部屋まで走る。
(何人いるかな……まぁいいか)
上限4人、全員を密室で相手にする事を想定しソラは衝撃手榴弾を扉の前に差し入れをすると、すぐさま壁に隠れる。
(………………っ!)
激しい爆発音と同時に木製のドアが粉々に砕け散る。その破片が収まった瞬間、天音は一気にドアの向こうへ侵入する。目に入ってきたのは木片が刺さってズタズタになった男が2人、後は───女が1人
「くっ……お前かぁぁぁぁーーー!!」
女が切れたように拳銃を取り出し、ソラへ向けガムシャラに発砲する。……それをソラは一切動くことなくその場に佇んだ。目の前の銃が6回火を吹いて弾切れになった時、ソラに当たった弾は────0。
「なっ!?」
「……はぁ……」
天音は残念そうにため息をつくと、その女の懐へ一気に駆けよる。それにすら反応できない女はびっくりしたように目を見開く。
…………一切の躊躇なく
…………一切の容赦なく
…………一切の余裕も与えず
…………一切の命乞いさえさせず
無言で女の腹を逆手に持った小太刀で切り裂く。
お腹がぱっくりと横に割れ、とろりと生暖かい腸が内容物をぶちまけながら飛び出て、血がゆっくりと派手な服を滲ませた。
「あ……あ…………ぁ…………」
女は膝を折り自分の飛び出た臓器を集めようとする。醜く、ただただ生き恥を晒す女をソラは一睨みすると、腰に携えた鞘に武器をしまい、代わりに一丁の拳銃に手を触れる。その冷たい感触を覚えたソラはホルスターから素早く抜き取ると、引き金を容赦なく引き絞る。
けたたましい銃声が鳴り響き、女の頭のど真ん中を直径9mmの銃弾が襲いかかる。弾丸に込められたエネルギーは簡単に人の頭蓋骨を破壊し、そのまま柔らかい脳みそを一直線に撃ち抜く。こじ開けられた孔から脳へ送りたての血液がじん割りと流れ出ている。
(……弱すぎ)
いつも見てきた光景だと肩をすくめると、さっきの爆発で吹き飛んだ2人にもトドメをさすように1発ずつ心臓へ向けて撃ち込むと、何食わぬ顔でドアから出る。
(あと一人……どこに隠れてる)
ソラは一瞬立ち止まり由莉や音湖の得意な気配を読み取ろうとするが…………早々できることではない。
(やっぱ無理か……。シャグリの加勢は……まぁ、あれなら大丈夫だね)
上で銃声が絶えず撃たれる音を聞いたソラはそんな心配はいらないかと、残りの敵を排除する為に動き出した。
────────────────────
(弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い!)
目にも止まらぬ速さで部屋内を駆け回りながら、手当り次第に持っている拳銃────FiveseveNで容赦なく射殺していくシャグリ。精度は……ソラに比べれば多少は悪いが、それでも一人あたり2発で確実に撃ち殺す。
「うおぉぉぉーーっ!」
3階からやって来たのであろうやつがトンプソン機関銃を部屋内にばらまく。
「ぐあぁっ!?」
「俺ら味方だ───けぺっ!?」
「ぐはっ!?」
シャグリは絶対に来ると思っていたので、一足先にソファーの下に隠れこみ、そのついでに同じようにしていた1人の後頭部に向けて銃弾を両手で1発ずつ撃ち込んで、現世から永久退場させる。
(なんか知らないけどラッキー)
シャグリは金色の殺人雨から隠れながら、FiveseveNのマガジンを抜き取り、5.7×28mm弾が満杯に詰め込まれたマガジンを差し込みリロードまできっちり済ませる。
(さて……3階のやつらは少しは骨があるのか……)
シャグリは舌なめずりをしながら、早く撃ちたいと喚く自分の銃と共に殺戮の第2ラウンドを開始した。
────────────────
(……案外早く見つかったし……あれなんだったの)
ソラは呆気ない敵の死に方に肩透かしを食らった気分で、張っていた気を一気に緩めていつもの自分に戻ると、建物の影の壁に寄りかかっていた。
(……現れたと思ったら裸だし、グレネード投げようとして手を滑らせて自爆って……はぁ……見ているこっちが可哀想になったよ……あっ、報告報告……って、シャグリを待たなきゃ報告出来ないんだった……)
「はぁ……」
「うちがどうかしたかにゃ?」
「っ!? ……いきなり出てきて…………っ! ……それで、終わったんですか」
「もちろん、10人全員纏めて皆殺しにしたにゃ。さて、報告報告っと」
後から来てからに……っ、とソラは恨みがしい視線をシャグリに送ろうとするも、殺した人数が違うのだと理解はした。……が、よくよく考えれば手柄の半分以上持ってかれたのでは?となんだか腹が立った。
『こちら、シャグリ。もくひょ』
『こちら、ソラ。目標14名の始末を確認しましたッ!』
『はい、2人ともお疲れさまです。気を抜かずに隠れて待機してください。あと1分ほどで到着します』
……通信が切れた。
「……うちが報告する予定だったんだけどにゃあ?」
「……いいじゃないですか。1人で沢山殺したんですから、そのくらいはしますよ、ね・こ・さんっ」
小馬鹿にしたように言うソラ───天音に、シャグリ───音湖は怒りを滾らせる。
「大人を小馬鹿に扱うと後でとんでもない目に合うにゃ?」
「大人なんて嫌いです。ボクが好きなのはゆりちゃん、天瑠、璃音、あと特別にあくつさんくらいです」
「い〜〜ってくれるにゃあ、天音ちゃん。帰ったら模擬戦で泣かせてやるにゃ」
「大人気ないですね、ねこさんっ!」
阿久津と同レベルのからかいという名の煽りについに音湖は禁句を口にする。
「成長期が残念ながらなかった天音ちゃん……にゃはっ」
「……ねこさん、この場で撃ち殺されたいですか?」
「こっちの台詞を取らないで欲しいにゃ、天音ちゃん」
お互いに銃を突きつけて引き金に指を絡める2人。まさに一触即発な2人
……の前に一台の車がキュッと止まる。機械音と共に窓が開き…………それはそれはもう…………素晴らしいくらいに……
(やばい…………)
(やばい…………)
笑顔で殺気を放つ阿久津があった。
「ハ・ヤ・ク・ノ・レ♡」
「……天音ちゃん、一生恨むにゃ」
「……後で謝っても許しませんから……っ!」
────────────────
「全く、2人で何をやってるのですか」
「だ、だって天音ちゃんが、」
「ねこさんがボクのことを……」
「両成敗でいいですか?」
「「お願いします、本当にもうしません……」」
天瑠を膝の上に乗せた天音と隣にいる音湖は弱々しく唸るようにして言った。……2人とも阿久津からの制裁が何よりも恐れていたのだ。
「……現場ではやめてください。気を抜いてたら死ぬって言ってるのが聞こえませんか」
「…………」
「…………」
僅かに震える阿久津の声は心から心配しているのだと2人はすぐに分かった。阿久津こそ、仲間を失うのが何よりも、誰よりも怖かったのだ。
「…………次からはやめてください。分かりましたか?」
「はい……ごめんなさい」
「にゃ……ごめんなさいにゃ……」
本当に申し訳なく思って心の底から謝る2人。これでお咎めなし…………
「1ヶ月は言いすぎましたね。明日だけにしましょう」
……………………。
「………天音ちゃん」
「………ねこさん」
音湖も天瑠も真っ赤な花が咲いたような笑顔で──────
「「今日、明日はずっとやりあおうか」」
…………そう言って恨みがましい視線を絡めつかせていた。
(お姉さまと音湖さん……怖すぎる……)
そして、それを間近で震えながら聞いている天瑠なのだった。
───────────────────
※天音のコメント
「最近、ねこさんがボクを馬鹿にしてくるんです。……なんだか、無性に腹が立つんですよ……」
※音湖のコメント
「最近、天音ちゃんがうちとも互角になったと調子づいてたから軽くからかったら大ギレされたんだにゃ。……まぁ、叩きのめしたけどにゃ。それから、あんまり関係がよろしくないのにゃ」
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