エピローグ?
由莉vs天音
───それから3ヶ月後────
由莉の筋力と天瑠、璃音の体力が全快まで回復するのに1ヶ月かかり、それからはずっと4人が同じトレーニングをこなしている。
大きな変化といえば……まずは天音が髪の毛を切った。ショートと呼ばれる所までばっさりと切って、イメージががらりと変わった。男っぽい服装をさせれば男の子だと言われても頷けてしまった。
あと一つは─────
「はぁあ!!」
「ほいっと」
マフラーをたなびかせ、長い得物に取り付けた銃剣をそれをもう1人の少女に突き立てようとする。だが、少女はそれを涼しい顔で躱すと、取り付けた部分を持って身体を横にそらし、自分の持っているナイフを首元へ突き立てる。
「……由莉ちゃん強すぎます……」
「ふふっ、簡単には私も負けてられないよっ、さっ、もう1回!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「…………っ!」
「…………」
少女は素早い身のこなしで翻弄すると隙間を縫って投げナイフを投擲する。風を切り、距離なんてなかったように目の前の『短髪の』少女を襲う。
少女はそれを涼しい顔で見ていたが、不意に自分の刀を向けられた刃の数だけ振り抜く。一撃ごとに投擲ナイフが弾かれ、その攻撃を全て無効化してしまう。たじろぐ少女に一切の容赦なく、その刀を両方抜き、首にそっと触れさせる。
「……お姉さま……勝てませんよぉ〜!」
「甘いことを言わない、天瑠。ゆりちゃんだってその戦力差でも、24回も負けても絶対に諦めなかったよ。それだけでくたばるほど、へたれなの?」
「っ、言いましたねお姉さま……っ! 次は絶対に勝ちます!!!」
「そうそう、その意気だよ!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
天音の提案で、2人を天音と由莉に1人ずつ着かせることにした。4人になった今、スリーマンセルよりもツーマンセルを2組の方が効率的にも遥かにいいと判断した。
天瑠と璃音はどっちにつくか迷うと思われたが、それを聞いた瞬間に璃音が由莉の元につきたいと願い出た。
こうして、由莉と璃音、天音と天瑠のペアが成立したのだ。
──────────────────────
「今日はこれで終わりにしよっか。……音湖さん、見ててどうでしたか?」
「そうにゃ〜璃音ちゃんは銃剣にかなり慣れてきた感じはあるけど、由莉ちゃんはほぼ仕上がったにゃ。多分、今なら仕事姿のうちとやっても互角……には程遠いけど、戦えはするはずだにゃ」
「今日も……1回も勝てませんでした……うぅ……」
璃音は息をあがらせながら悔しそうに模擬用の自分のショットガンと同じ重量の非殺傷性の長物を握りながら震えた。
そんな璃音を由莉は手を貸して立ち上がらせると、そのまま抱っこした。
「その気持ちがあるなら、璃音ちゃんはもっと強くなる。私の相棒として頼りにしてるよ、璃音ちゃんっ」
「ゆりちゃん……はいっ!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふぅ……今日はこれぐらいにしようかな」
「……お姉さま……やっぱり強いです……っ!」
コンクリートの地面にぶっ倒れながら息を吐く天瑠に天音は暖かいタオルを手渡すと、ぎゅっと顔を滴る汗を拭き取った。
「……あくつさん、どうですか?」
「天瑠さんも天音さんもよく動けてますね。天音さんはもうあまり相手にしたくないです。ふふっ」
「酷くないです!? ……でも、負ける気はしませんよ」
天音は持っている小太刀の形を模した木製の武器を2つ挑発的に阿久津に構えて見せると、阿久津も肩をすくませて笑うしかなかった。
「さて、あの3人もそろそろ来ますかね。今日は怪我をしないように注意してくださいね?」
「もちろん、負けるつもりもないです。……あの時だって、最終的に負けたんですから」
そう言って、天音は己の小太刀を腰に差すと『あの子』が来るのを恋人が来るのを待つようにしてその場に佇んでいた。
─────────────────────
「よ〜〜やく来たね、ゆりちゃん」
「さて……やろっか、天音ちゃん」
地下室にて、由莉と天音は武器を向け合う。天音は小太刀2本を両手に持ち拳銃は腰に差す。一方の由莉はナイフを左手に、拳銃を右手に持って構える。
「今度は勝つよ。この装備で負けるなんて有り得ないから」
「言ってくれるね天音ちゃん。今度も私が勝つよ」
やる気という名の殺気を撒き散らしながら2人の目がバチバチに交錯し合う。その側では、他の5人───阿久津、音湖、天瑠、璃音そしてマスターがアクリル板越しに横並びで見守っていた。2人に流れ弾を気にして欲しくなかった阿久津は、急いでこの時のためにアイオノマー製の板をそこに立てた。透明度が極端に高く、普通に見るのとあまり変わりがない。
「璃音、どっちが勝つと思う?」
「どっちだろう…………分からないよ……」
「あ〜〜お姉さまを信じないんだ〜」
「ち、違うよ! お姉様のことは信じてる! けど……由莉ちゃんは本当に強い。それに……璃音は由莉ちゃんの側で修行しているから、由莉ちゃんを応援するよ」
「あ〜〜璃音がお姉さまを裏切った〜」
「も、もうっ、そんなのじゃないよ!」
天瑠のからかいに璃音は不服そうに睨んでいたが、そんな可愛い妹の様子を天瑠は優しい瞳で見ていた。
「あははっ、ごめんって。なら、天瑠はお姉さまを応援する。お姉さまは……絶対に負けない」
そんな2人の声を由莉と天音は聞いて心強かった。そんな信頼に……応えたい。何としてでも……この勝負、
────負けられない!!!
────負けられない!!!
先に動いたのは由莉。拳銃を天音へ向けると何の躊躇いもなく引き金を引く。
由莉の銃口が3度火を吹いた─────
もちろん、金属製の銃弾を使ってるわけではない。模擬戦用の軟質ゴム製で、先端にスポンジが取り付けられている特殊な非殺傷弾だ。殺傷性はないが、それでも手足に当たれば痺れて使えなくなるし、胴体に当たると悶絶する程には痛い。
初速は音速より早いが、弾頭の空気抵抗によりその速度は音速とほんのちょっとだけ小さいまでにしか下がらない。
もちろん、4~5m先から撃たれた弾など、その特殊弾でも見えるわけがない。
「……っ!」
だが、それを天音は全て小太刀の剣身で外に弾く。由莉はその事に特に驚きもせず、最後にもう1発天音に向けて発砲すると、その直後に天音の元へ駆けだす。
(……やっぱり当てられない……よね)
由莉の早打ちも予想通りと言うように天音はその弾もはじくと、同じく由莉との距離を詰める。
「はぁぁぁぁっ!!」
「はぁっ!!」
天音の斬撃をナイフで受け止めると、天音は右手に持った小太刀を由莉の肩を狙い振り下ろす。
カァァン!!
そんな甲高い音と共に、由莉は右腕でその斬撃を防ぐ。
「……篭手か」
「服の上からじゃ分からなかったでしょ?」
多少驚く天音を見た由莉はしてやったとにやりと笑う。由莉が服の中に隠して着ていた篭手は今日、やっと阿久津から貰ったものだ。馴染むのか不安だったが、由莉の右手に綺麗に馴染んだ。これも阿久津のおかげなのだろう。
(その距離で……これは避けられるかな、ゆりちゃん!)
天音は左手の力を一瞬で緩める小太刀を手放す。その手で腰の拳銃を抜き取り刹那の速さで抜き打ちする。たとえ友達だろうと、模擬戦であろうと容赦はしないという意思を色濃く込めた弾が放たれ由莉を襲う─────が、由莉はそれをギリギリで躱す。
(やっぱ、避けられちゃうか……ゆりちゃんとやると決着がつかないんだよなぁ……)
天音がそう思っていた理由───それはあの事件後からの由莉の変化にあった。……そう、
攻撃が全く当たらなくなった
今までは、ゾーン状態、もしくはゆーちゃんとの共闘状態でしか出来なかったものがあの一件以来、出来るようになってしまったのだ。
由莉が攻撃を『受ける』のは自分が攻めている時だけ───あとは、避ける手段のない不可避の攻撃のみ。
「ゆりちゃん……ほんと戦いづらいね。敵にだけは回したくない」
「天音ちゃんこそ……銃弾を剣で当てて逸らすなんて普通出来ないよ? その気になれば『あの子』の弾も受け流せそう」
「馬鹿言わないでよゆりちゃん。あんなの当たったら一発でバラバラだよ。……本当に、近距離でも遠距離でもゆりちゃんだけは敵に回したくない……なっ!!」
絶対に……勝つ!!そんな意気込みをさらに高め、由莉と天音はさらに激しくぶつかる。想いと想いがぶつかり合う『それ』は見るもの全てを見惚れさせるくらいに熱く、激しく────どちらも応援したくなるくらいだった。
そして───最終盤。
「はぁ……はぁ……ゆりちゃん体力多すぎ……」
「これでも……結構疲れてるんだよ?」
いよいよ、天音の体力が限界を見せ始め、膝を折って小太刀を床に突き立てて体力を僅かでも回復しようとする。
「……降参する?」
「はっ、まさか! 天瑠と璃音の前で負けなんて……見せてたまるか!!」
「……じゃあ、これを最後にしよう。これで……決める」
由莉は超低姿勢になる。次の一撃に自分の全てを賭けるようだ。
────ゆりちゃん……本当に強い……だから……ボクは……絶対に負けない!!!
天音は重い体を立ち上がらせると、由莉とほぼ同等まで姿勢を下げる。
「っ!」
「っ!!」
床を蹴るタイミングは同時だった。スピードも…………ここに来て由莉のスピードに天音は追いついた。電光石火の速さで2人の距離は瞬時にゼロになる。
────こんなの……勝つしかない!!
────っ!? 来る!!
二本の小太刀が空をまう!
咄嗟に由莉はナイフと篭手でガードする……も、天音の狙いがそこじゃないことくらい分かっている。
─────ここで格闘戦……? でも、天音ちゃんにそんな体力残ってない……何を……
─────分からないだろうね……これは!!!
天音が掴みかかろうとするのを由莉はすぐに待ち構えた─────その時、
膝が崩壊した。
「ぇ………あ…………」
ここに来て……使われた。由莉も咄嗟のことで備えることも出来ず、天音の方へ倒れる。
由莉が体勢を立て直した時には……既に由莉の額に銃が突きつけられていた。
「……負けました」
「…………はぁ〜〜つっかれたぁぁぁぁ!!! もう、ゆりちゃんを相手にやりたくないよ〜〜〜!!」
その言葉を聞いた天音は満足そうな表情を浮かべ、地面に背中をつけた。
「私もだよ……天音ちゃんと私……敵対した時、相性最悪だもんね……あははは……」
「だね〜いつまでも決着つかないから、耐久勝負になるもん……」
そんな会話をしてると、我慢出来なくなって天瑠と璃音がそれぞれ飛びついてきた。
「由莉ちゃんすごかったです! お姉様がこんなに苦戦しているの初めて見ました!」
「璃音ちゃん……ありがと……」
「お姉さまと由莉ちゃんの勝負、見てて胸が熱くなりました!!!」
「天瑠……ありがと。もう、クタクタだよ…………」
2人は天瑠と璃音の肩を借りながら立ち上がると、3人の元へと向かった。阿久津も音湖も……マスターも満足したような表情を浮かべていた。
「由莉」
「マスター……」
「……私がいない間に強くなったな。いい師匠といい友達に恵まれたようだな」
マスターは由莉の頭をゆっくりと手で撫でてあげた。力強く……ただ力強く。由莉も気持ちよさそうに目を閉じて、褒められた事へと嬉しさと共にそれを噛みしめた。
と、マスターは忘れてないよな?と言わんばかりにある事を聞いた。
「由莉、天音、天瑠、璃音。明日だが……4人とも大丈夫だな?」
「もちろんです!」
「当たり前です」
「はい!!」
「はいっ!」
「阿久津も音湖もいいな?」
「承知しています」
「了解してますにゃ」
──────────────────
─翌日─
「…………ゆr……じゃなかった……『リリィ』」
「うん、やろっか『ラズリ』」
ここはとある廃ビルの屋上。
そこに佇む、黒の装束を身にまとった2人がいた。1人は首に巻いたマフラーをたなびかせ、もう1人は大きなギターケースを持って────ひとつ言えることは、こんな所にそんな少女がいるのはおかしい、という事だ。
「ラズリは標的の位置と周囲の危険の捜索をお願い」
「了解、リリィ」
2人は顔を見合わせ「うんっ」と頷き、リリィと呼ばれた少女は担いでいたケースを下ろして金具をパチンっと外す。そして開けた先には、黒光りする頼もしい相棒が顔を覗かせていた。
顔を綻ばせながらリリィは丁寧に組み立てるとそこには大きな対物ライフル……バレットM82A1があった。
「今日はよろしくねっ」
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