お風呂にする? ご飯にする? それとも……

「璃音ちゃん、1人で大丈夫?」


「はぁい……くしゅんっ」


「大丈夫じゃないね? 脱ぐの手伝うから……さっ」




「天瑠は……うん、ダメだ。脱がせるから大人しくして」


「はい……」


「この服、着やすいけど……脱ぎにくいし、脱がせにくいんだよなぁ……」


2人の手が双子の服を摘んで引き剥がすように捲りあげる。服の上からも何となく分かっていたが、2人の体は痩せて、特に天瑠はあばら骨が顕になるほどだった。

天音はたまらない気持ちになった。……2人にこんな無理をさせたのが情けなかった。


「……こんな痩せて……天瑠なんか……初めてあった時より酷くなってる……ご飯だけはしっかり食べるように言わなかったボクの責任だ……天瑠も璃音も……本当にごめん」


天音は一歩下がると、天瑠と璃音に出来る限り頭を下げた。見えない顔からは……透明な雫がこぼれ落ちていた。


「っ、」

「……っ」


一瞬固まって、目を見張る天瑠と璃音だったが、すぐにその元へ駆け寄ると天音の頭を上げようとした。

初めて会った時以来に見せる天音の涙は、天瑠と璃音の心を揺れ動かすには充分すぎた。


「お姉さま、やめてください……」

「お姉様……なかないでください……っ」


感化されて天瑠と璃音まで泣きそうになっているのを見た天音は自分が泣かせてどうするんだと涙を袖で拭い、頬を思いっきり叩き、気を入れ直した。


「…………っ、そう……だね。せっかく会えたんだから、笑わないと……ね。じゃあ、お風呂入るよ」


──────────────────────


「きもちいい……」


「……ぽかぽかする……」


あらかじめ体温とほぼ同じ水温のお湯をためていた風呂に天瑠と璃音は足からゆっくりいれて、そのままゆっくり浸かると気持ちよさそうな声をあげていた。


「璃音ちゃんは熱あるから、早めに出て体洗おうね?」


「天瑠はしばらく浸かってていいからね?」


とろーんとしたような璃音の声が帰ってくると、由莉は速攻で体を洗い終えると、璃音をバスタブから出して、髪の毛やら体をやさしく洗ってあげた。終始気持ちよさそうにしていたが、体まで洗い終わると、意を決したように、由莉の方を向いた。


「…………あ、あのっ!」


「ん? 璃音ちゃん、どうしたの?」


「…………『由莉ちゃん』って呼んでも……いいですか?」


「……? 今のまま『由莉』って呼んでもいいんだよ?」


呼ばれ方にはあまりこだわりがない由莉はそう言うと、璃音は俯きながら首を横に振った。


「お姉さまを……助けてくれた人を、そんな風に呼べないです……だから……いいですか?」


「うんっ、もちろんだよ! ……じゃあ、そろそろ出よっか。天音ちゃん達はどうする?」


「ボクらはもう少しここにいるよ〜」


「分かった〜〜」


─────────────────


それから、5分ほどして、天音と天瑠も出てきた。

天瑠と璃音には由莉のピンクのジャージを貸してあげると、着心地の良さと暖かさが相まって表情が緩んでいた。


「じゃあ、ボクは雑炊作ってくるから待っててね?」


そう言うと、天音は部屋のドアを開けるとキッチンへと向かっていった。

3人はそれを見届けると、残った由莉、天瑠、璃音はベットに寝転がった。


「えっと……璃音ちゃん?」


「……璃音はそっちだよ?」


「璃音はこっちです、由莉ちゃん」


「っ!!??」


反対から指でつつかれる感触と共に聞こえてきた声にびっくりした由莉は飛び起きると、体だけ起こして並ぶように言った。すると………


「……一卵性双生児なんだ……」


瓜二つどころの話じゃないくらいにそっくりな天瑠と璃音を見て、思わず唖然としてしまう。天瑠がツインテールにしてなかったら、本当にそっくり過ぎて困るレベルだ。そんな由莉の反応を天瑠も璃音もお互いに顔を見ながら肩を竦めあっていた。


「それ……初めてお姉さまに風呂に入れられた時も言われた……」


「やっぱり……似てますか? お姉様も最初はびっくりしてました」


「髪とかって……切らないの? 天音ちゃんって、天瑠ちゃんと璃音ちゃんといた時、短かったんだよね?」


「それはいや!」

「それはいやです!」


由莉の何気ない質問に2人は過敏に反応をしめした。……なぜなのか、由莉はすこし考えてみると、分かる気がした。ここまで天瑠と璃音が反応するという事は……天音か瑠璃に……おそらくは瑠璃が2人の長い髪の毛の事を褒めたのだろうと。


2人が哀しそうな様子で手を握りしめ合うのを見て、これ以上の詮索は野暮だと判断して、それ以降は3人ともベットに寝転がりながら天音が来るのを待った。


─────────────────────


「……よし、やるよ」


その一方で、天音はキッチンに行き、身の清潔を整えると、阿久津から貰った包丁を手に取る。久しぶりに2人のために作るのだと、天音は絶対に美味しいものを食べさせると情熱の炎を燃やしていた。


まず、鍋を取り出し、阿久津が前もって炊いていたご飯を5人分ほど鍋へと放り出す。そこに多めにだし汁を入れると、中火にかけて、おたまでご飯をほぐす。

適度にほぐれてきたら、味噌を大さじ2杯ほど掬うと、鍋の中でまんべんなく混ざるようにおたまの中で溶かしながら入れる。

そして、ほぐし終わると、天音は冷蔵庫から卵を3つ取り出した。


───ここら辺かな?


頃合いを見て天音は卵を机に軽く叩きつける。殻が割れるこそばゆい音を響かせ、その割れ目に指を挿入すると、両手でその割れ目を広げる。すると、中から透明な白身に守られるように、黄金に光る黄身が鍋の中にぽとりと落ちた。


1つ、2つ、3つ、と入れると、天音は丁寧にかき混ぜる。黄身と白身が混ぜれば混ぜるほどに、ふわふわなかきたまが形成されていく。そして、そこに小口切りにした細ネギを、美味しくなる魔法をかけるように雑炊の中にぱらつかせた。


────よしっ、上手くできた。……けど、天瑠も璃音もすごくお腹空かせてる……もう1つ、軽くなにか作れないかな……


そう思った天音は冷蔵庫を開けて食材を眺める。すると………すぐに天音は『それ』を見つけた。


────やっぱりあった……! これがあるなら、あれを作ろう! すぐ作れるし美味しいから、みんなも喜ぶ!!


確かな自信を持った笑みをこぼした天音は2品目を作るために動き出す。



そして────10分後、


「喜んでくれると嬉しいな〜……」


鍋と、『その』料理を持った天音は待っているであろう3人の事を思いながら、肘を上手く使って扉を開ける。






「zzz……」「zzz……」「zzz……」


「…………えぇ〜……」


3人が3人とも爆睡してしまっていた。

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